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オランダの農業が日本から学ぶこともある|おしゃれじゃないサステナブル日記No.12

【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第12回は「オランダ農業が日本農業から学ぶこともある」。 オランダ農業は「イノベーション主体」で、日本農業は「カイゼン主体」。 オランダ在住経験のある筆者ならではの分析で、両国の農業について考えます。


オランダ農業

写真提供:maru communicate  紀平真理子(今までで一番驚いた自家改造給餌機)
前回(No.11)の「植物だってストレスを感じる!ICMという考え方」では、ICM(総合的植物管理)について綴りました。

今回は趣向を変え(ようやく虫から離れて、でもまだ少し触れ)オランダ農業について回顧し、つぶやきます。

私は、2011年から5年間ほどオランダに在住し、2013年ごろからちょこちょこオランダの農業を見る機会に恵まれました。「オランダの農業技術は、日本より優れている」「オランダでは収量が〇〇だが、日本では〇〇しかない」のような話はいたるところにあふれており、納得できる部分もあります。でも、「オランダの方が日本より上なの?」「いつも日本がオランダから学ぶばかりなの?」という疑問は常に持っていました。
今回は、私の感覚ベースの話ですので、真面目に受け取らずにエンターテイメントとしてお読みください。

「普通、でもちょっとの工夫」の大切さ

オランダ農業
写真提供:maru communicate 紀平真理子(人と違うことをしたいという欲にあふれている国、オランダ)
オランダの農家と話すと、イノベーティブなアイディアだとか、技術だとかの話が出てくることが多々あります。それには「新しいことがクールだぜ」という文脈があると思っています(とはいっても、実際はやるべきことはしっかりやっているのですが)。

一方で、日本の農家は「普通のことを普通にやる」ということの大切さと、それがいかに難しいかということをご存知の方が多いように思います。そして「普通」の中での「ちょっとした工夫」を大切にしているイメージ。「ちょっと工夫すればできるんだよね」という言葉が個人的には大好きです。

そのちょっとした工夫は、日本の文化に根付いているのではないかと想像します。あえて現代風の言葉に変換すると「カイゼン」になるのでしょう。かなりざっくりいうと、カイゼンとは「気づきと穴埋め」によって生産性向上などで経営をよくするもので、トヨタ式カイゼンは世界的にも知られています。大学院の卒論で「イノベーション」と「カイゼン」について以下のように述べましたので紹介します。
項目イノベーションカイゼン
主要概念新しい小さなステップ
出現理由問題解決のため改良のため
出現目的画期的なアイディアやソリューション既存ノウハウ
期間短期傾向長期傾向
組み込む場所ルーティンワーク内に組み込むとは限らないルーティンワーク内
これを眺めていても、オランダの農業は「イノベーション主体」で、日本の農業は「カイゼン主体」のように感じます。新しいことは楽しくワクワクしますが、地味な工夫を継続し続けることができるすごさは、オランダの農家が日本の農家から学べることではないのか、と僭越ながら考えています。

日本からオランダに逆輸入した防除体系

天敵昆虫
写真提供:光畑雅宏(イチゴの葉裏で増えたチリカブリダニ)
技術に関しても、学んでばかりではなく、日本でのカイゼンの積み重ねで構築した技術をフィードバックしてオランダが活用することがあります。引き続き天敵昆虫ネタで恐縮ですが、ハダニの防除にオランダではチリカブリダニのみを使用していましたが、日本はチリカブリダニとミヤコカブリダニを併用した技術を開発し、オランダがそれに倣うこともあります。

チリカブリダニはハダニしか食べず、害虫がいないと繁殖しないのですが、食べるときのパワーが半端ないいわば「オフェンス」です。一方、ミヤコカブリダニは花粉も食べ、ハダニがやって来るのを待ち、時には少し動くいわば「ディフェンス」です。その2つを複合的に利用することで、日本で良いとされる「見た目にもきれい」な野菜の栽培が実現できているわけです。
国民性としても「オランダ=オフェンス」、「日本=ディフェンス」っぽさがあるので、なんとなくしっくりきています。

天敵昆虫についてはこちらもご覧ください。

オランダはすごい日本は遅れてる、は本当?

日本の農業
写真提供:maru communicate 紀平真理子
オランダという国も、人も、農業も素晴らしいところが山ほどありますが、それと同じくらい日本という国も、人も、農業もすてきです。スーパーマーケットに行って手に取った野菜が腐っているなんてことは日本ではほぼ起こり得ません。それを担保するために、失っていることもあるという矛盾もはらんでいますが。

また日本の農業は、栽培体系の統一化が困難だという負の側面もあるかもしれませんが、いいかえれば何か起こった時に小回りがきく、または、“あそびがある”農業ともいえます。オランダの農業から学ぶことは多いですが、オランダが日本の農業から学ぶこともたくさんあるのではないかと徒然なるままに記しました。

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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