最近、種苗法改正関連の仕事で育成者(育種家)の方々、わかりやすくいうと、「新しい品種を作り出す人たち」に取材をする機会が多々ありました。そこで感じたのは、10年、20年先の環境を想定して、目標を定めて品種開発をするのは夢がある仕事だということです。品種開発について興味が尽きなかったので、個人育種家の林ぶどう研究所 林慎悟さんに「育種と環境」を主軸にお話を伺いました。そして、個人的に感じたことを記したいと思います。
完全に余談ですが、以前勤めていたコンタクトレンズメーカーでも、新製品の開発着手から登録、販売までに10年以上の期間を要します。在職時に同期が開発していた製品のCMが流れると、心の中で拍手しています。
品種開発は旅のようだ
しかも、品種を登録するためには要件があり、「今まで登録したものと違う」必要があります。林さんの言葉をお借りすると、「世界新記録を更新し続けないと、登録できない」。後世になればなるほど、品種登録も大変です。具体的な数字で表すと、林さんは500回交配し、7,000粒の種を撒いて「マスカットジパング」を品種登録しました。それだけ道のりが長い…カミーノ・デ・サンティアゴぐらい(笑)
気候変動対策として農業がとる手段は「適応策」
話を戻すと、温暖化に対して農業がとる手段として「適応策」というキーワードが注目されており、気候変動における農業界の取るべき手段ではないかという流れになっています。具体的な適応戦略として、「栽培管理(灌水、施肥管理など)の高度化や変更」「品種の変更」「移植日、播種日の変更」「スマート農業」「農業保険」「新品種の開発、導入」などがあり、品種の役割も重要だということがわかります。
温暖化を見越したぶどうの品種開発
林さんによると、ぶどうや桃など休眠が必要な果樹の場合は、低温にならないとよい品質にならず、生産も安定しないそうです。そこで、低温になりにくくても生長促進できる特性をもたせることや、熱帯や亜熱帯に生息する休眠しなくても結実する特性があるものを取り入れて、気温が上がった場合でも栽培が継続できるよう品種の開発が行われています。
またぶどうの場合は、地域によって、または環境が変わることによって、着色しなかったり、反対に色が付き過ぎてしまったりという課題もあります。国や都道府県も含めてぶどうの着色優良系統の開発の着手や、栽培技術でカバーする方法を考えています。
自然環境だけでなく、市場環境も変化
そこで、6~7年前から海外マーケットにも対応できる「生産コストの削減」「天然種無し」という海外のスタンダードと、日本の独特な香りを組み合わせた品種の開発をはじめました。また、消費期間が限定的な果物の通年流通を可能にするために、加工ドライフルーツ用品種や醸造用品種の開発もはじめています。
リスク対策とは何か?
そこからイメージを膨らませ、気候条件や収穫時期が異なる他国でも、日本人によるぶどう栽培ができれば、日本の農業に貢献できるのではないかと考え、品種開発を進めています。育種家は「日本の農業は、現在どの立ち位置で、どのように取り組むことが今後の農業界によい影響をもたらすのか?そのために品種が貢献できることはあるのか?」と常に考えて品種開発に努めています。
「お茶博士」になりたかった
熱く語ってしまいましたが、これを機に農業関係者でなくても品種にもっと興味をもってもらいたいな。
紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate