簡単に売れるものは作ってはいけない!

【連載】タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント|第5回は簡単に売れるものは作ってはいけない!
1人都市型農業の成功事例として注目を浴びるタケイファームが、新規就農者や現状を打破したいと考える方へ「商品設計」を語ります。


アーティチョーク

画像提供:タケイファーム
これから農業を始めようという新規就農者に、自身の経験を活用して欲しいと語るタケイファーム代表の武井敏信さん。
作物を育て収穫する農業は時間を要します。
時間は限られています。
せっかく始めるのだから他者の経験も上手に活用し、失敗を回避してほしいという思いで武井さんは語ります。

栽培前の価値設計の重要性

Illustration:Yumi Yamashita
前回は、自分がどんな仕事をするのかという「価値」について考えることの大切さを解説しました。
畑を耕す前にすべきこととして価値の設計がいかに大切か、それが結果としては新規就農の成功につながる、という指摘です。

タケイファームを支えている5つの要素

・価値の設計
・商品作り
・販路・顧客
・利益・情報・ブランディング
・交流・ネットワーク

タケイファームにおいて、価値設計は「農業の地位を上げる」ということでした。
皆さんも自分自身が取り組むべき仕事の「価値」を見定めたら、いよいよ具体的に「商品」作りへと入っていきましょう。
商品といっても種類や価格、ネーミングなどさまざまな要素がありますが、まず考えてほしいことがある、と武井さんは言います。

市場で簡単に売れるものは作ってはいけない!?

収穫されたアーティチョーク
画像提供:タケイファーム
どんな商品を作るか。
まずは売れそうなものを作ろうと考えるのが一般的でしょう。

ところが…

「みんな勘違いしているけれど、簡単に売れるものは作ってはいけないんです。」

と武井さんは言います。
その言葉を聞いたときは耳を疑いました。
ずいぶん挑戦的な響き。
売れそうな商品を生産するのは、ごく自然なことではないのでしょうか?
いったいどういう意味が込められているのでしょう。

「例えば、普通に野菜を売る先を想定してみてください。大抵の人が売る場所として思い浮かべるのは卸業者、市場、JA、道の駅、スーパー、オンライン、直売所などですね。
露地栽培だと各地域で大体同じような栽培品種になるわけです。
同じ野菜を同じ先に販売するとなると、当然のことですがほかと同じような価格でないと売れません。自分だけ小松菜1束300円にしても売れないから、同じ価格、1束100円ということになるわけです。」

武井さんは、続けます。

「教科書の枠組通りにやれば、教科書にある作物ができますし、それをほかと同じ価格で売ることになれば、決められた枠組の中に留まることになります。しかし、それは新しい発想の農業経営とは残念ながら違います。」


「利益がほとんど出ない」農業の壁を乗り越えるには

市場
出典: Pixabay
何となく市場を眺め、このあたりが相場かなという感覚で価格を付けている人もいるはずです。また、それ以上に価格についてさほど深く考えていない方が多いのかもしれません。

安易な価格設定が「農業の壁」の一因

例えば、レタスを50円で市場に卸していたのが、直にスーパーに納品することになり、販売単価が80円になったとします。前より30円高く売ることができるようになりましたが、その利益に一体どれほどの意味があるでしょうか。
なぜなら、80円のレタスを100個売っても8000円の売り上げにしかならず、大量に作らなければ利益がほとんど出ないからです。
つまり、低い価格→大量生産→長時間労働という根本的な流れは何も変わっていない。
労働時間に見合った納得のいく利益を得られない「農業の壁」の原因の一つは、安易な「価格」設定なのです。

「だから価格設定は、深い意味があるんですね。隣を見て決めるようなものではありませんし、それは販路や顧客にも同じことがいえます。」

▼武井さんが新規就農時に考えた販路についてはこちらをご覧ください。

レッド・オーシャンを抜け出せ!

何となく相場に従って決めている野菜の価格。
しかし、価格の意味するところは実は深い。
だから、安易に価格を設定してはいけない。
市場を見ながら決めてはいけないと武井さんは言いますが、ではそこにどんな問題があるのでしょうか。

「市場を見ながらほかの価格に合わせるというのは、『決められた枠組の中へ入る』ということです。10円20円でしのぎを削るような激しい競合市場、みんなが血みどろの戦いをしている激戦区へ参入する。ビジネス用語で言えば、レッド・オーシャンへと飛び込むことです。」

「レッド・オーシャン」とは赤い海、つまり血で血を洗う激しい競争市場の呼称です。
まさしく1束100円の野菜市場は「レッド・オーシャン」そのものです。
対して、競争のない未開拓市場のことを碧い海「ブルー・オーシャン」といいます。
そう、タケイファームはブルー・オーシャンへと漕ぎ出しているわけです。

「大切なのは、あえて低価格でしのぎを削るような市場へ飛び込むのではなくて、まだ対抗相手のいない舞台のブルー・オーシャンへ目をむけること。
市場にはない商品であれば、自分が納得できる(労働時間、利益、ブランド力などに見合った)価格を付けることができます。なにせ、競合相手がいないのですから。」

タケイファームの野菜作りの基本です。
※「ブルー・オーシャン」と「レッド・オーシャン」の定義
欧州経営大学院(INSEAD)教授W・チャン・キム(著)レネ・モボルニュ(著)『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』より

ブルー・オーシャンへ!農業の壁を乗り越える!!

アーティチョーク
画像提供:タケイファーム
タケイファームが作っている野菜は、個性的で希少性の高い野菜ですが、価格はどのように作っていくのでしょうか。


ブルー・オーシャンを実現する価値とは

価格とは、労働時間やブランディング、納得できる価値を数字にしたものです。
野菜でいえば味だけでなくさまざまな価値。スーパーでは見たこともない野菜、食べたことのない部位、美しいビジュアル、鮮度へのこだわり、ヨーロッパの食文化、ストーリー性。
ブルー・オーシャンという別のステージで勝負するには、そうした複数の価値の実現が必要です。

もっと言うと「価格」とは生産者の宣言そのものでもあります。
これだけのお金を払う意味のあるものですという、生産者から市場への堂々たるメッセージです。
価格という数字は、そんな宣言をしているのです。

商品を高めるバリューイノベーションとは

アーティチョーク
画像提供:タケイファーム
商品の品質や個性を向上させる。
自分が納得できる(労働時間、利益、ブランド力などに見合った)価格を実現させるために必要なのが、そうしたバリューイノベーションです。
タケイファームは野菜の価値を向上させ高品質化させることに取り組んできました。

具体的な商品を挙げてみましょう。
タケイファームは今、日本最大級のアーティチョーク農園です。
▼タケイファームについてはこちらをご覧ください。

なぜアーティチョークなのか。
実はアーティチョークはヨーロッパのマーケットでは定番野菜ともいえるほどポピュラーな野菜です。
しかし、日本ではほとんど生産されていません。国内で販売されている大半が輸入ものかオイルやマリネ漬けの瓶詰加工品です。

「フレンチやイタリアンレストランのシェフに話を聞いて気付きました。日本には生のアーティチョークを手に入れる手段がとても少ないのです。かといって、瓶詰はおいしくないから、メニューからアーティチョーク料理は除外されているんです。
でも考えてみてください。日本にどれだけのフレンチレストラン、イタリアンレストランがあるでしょうか?ものすごい数ですよね。つまり、生のアーティチョークを生産すれば販路はあるのではないか、ということです。ニーズがある、だから売れるはずです。」

▼レストラン卸についてはこちらをご覧ください。

タケイファームのブルー・オーシャンはアーティチョーク

アーティチョーク畑
画像提供:タケイファーム
タケイファームのアーティチョークは今や超高級レストランからひっぱりだこ。100個単位の注文も入ってきて、大わらわ。
取材した日も銀座の超有名ブランドが展開するレストランに出荷している最中でした。
では、そんなに潜在的なニーズがあるアーティチョークを生産する農家が日本にほとんどいない理由とは、いったい何なのでしょうか。

「まず、日本ではなじみの薄い品種だということから、一般消費者には必要のない、スーパーでは売れない野菜です。だから、ほかがやっていないから自分もやらない、決められた枠組内に留まって同一化する論理です。低価格に張りついてしまう現状も、根源は同じです。
しかし、これを突破しなければ農業の新しい可能性も拓けません。」

また、アーティチョークは、育て方にも難しさがあるようです。

「アーティチョークは草丈が大きく育つので1株あたり畝幅が2m、株間が1.5m必要です。土地の広さが必要になるわりに品種が固定されていないので、バラバラの品種が出てきてしまうのも難しい点でしょう。
一見すると効率がよくない野菜ですが、レタスや小松菜のように大量栽培しなくていいのですから、狭い農地でも収益が上がるチャンスがあります。」

武井さんは数回、フランスのアーティチョーク農家へ見学に行き、生産者に直に話を聞くことで、さらに見聞を広げてきました。
このアーティチョークをいずれはズッキーニのような身近なレベルまで浸透させたいと語る武井さん。

「スーパーや八百屋で普通に買え、レストランで旬のアーティチョークがおいしく食べられるようになったらいいですね。
実は、アーティチョークは可食部の蕾(つぼみ)だけではなく、花が咲いてからも商品になるのです。実際に生花屋さんにも売った実績があります。
農家が新品種の野菜について、売れないから栽培しない、というのはうそで、前例がないからやらないということ。リスクがあって怖くてできない、という方が正しいでしょう。」

まさしくタケイファームにとって、ブルー・オーシャン=アーティチョークだといえますが、これはほんの一例にしか過ぎません。
そのほかのタケイファームのブルー・オーシャンについては、また別の機会に紹介します。

農業の壁を乗り越えたその先へ

タケイファームでは少量多品種に取り組んでいて、年間約140種類の野菜を栽培しています。
種苗メーカーが出している野菜の種のカタログは見ない、という武井さんはシェフの皿の上を観察し、栽培品種を決めていきます。
武井さん独自の商品設計術をもっと知りたい。
次回は武井さんの挫折経験となり大きな壁となったできごとを通して、「ブランディング」についてさらに深く考えていきます。


「タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント」バックナンバーはこちらから。

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YumiYamashita
YumiYamashita

作家・コラムニスト 身体と社会との関わりに関心を持ち、五感、食、日本文化、ヒット商品などをテーマに取材。新聞、月刊誌、週刊誌、大手ニュースサイトにて時事問題からテレビドラマまで幅広く執筆。