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- YumiYamashita
作家・コラムニスト 身体と社会との関わりに関心を持ち、五感、食、日本文化、ヒット商品などをテーマに取材。新聞、月刊誌、週刊誌、大手ニュースサイトにて時事問題からテレビドラマまで幅広く執筆。…続きを読む
栽培する品種、価格、出荷する野菜の種類。すべてを農家側が決めていく。
そしてしっかりと収益を上げ、ビジネスとして回していく。
1人都市型農業の成功事例として注目を浴びるタケイファームは、これから農業を始めたい新規就農者、あるいは今のやり方を転換したいと願う農家にとって興味の的。
理想的な農業経営スタイルであり、輝かしい事例として映るでしょう。
でも一方で、本当にそんなことが自分にもできるのだろうか…と思った人も多いのではないでしょうか。
真似してみたいけれど、果たして私に可能なのだろうか?
どうすればうまくいくのか、具体的なノウハウに飛びつきたくなるけれど…。
新規就農の出発点は「畑の上」にはない
ちょっと待って、と武井さんは言います。「まず、畑に種をまくその前に大切なことがあるんです。あなた自身が、農業を通して何を提案したいのか、どんなことを実現したいのか。仕事の価値・コンセプトをしっかりと見定めてほしい。それが大切な出発点だからです。新規就農を成功させるための絶対条件と言ってもいいと思います。」
畑という「地」に目を向けるのではなくて、まずはいわば「天」の視点である大きな視野から仕事を俯瞰(ふかん)して見てほしい、と言うのです。「自分にとって農業という仕事がどんな意味や価値を持つのか。それを見定めることから始まります。」
でもなぜ?農業を始めるというのに地面ではなく、意味や価値を考えるところから考えなくてはならないのでしょうか?ちょっと不思議です。
その疑問を武井さんにぶつけると、明解な答えが返ってきました。
「もし、僕のような農業スタイルでそれなりの収益を上げたいと思うのなら、一般的な農業のやり方をトレースして真似してもうまくいきません。
なぜなら目指す農業が、これまでの農業の姿とは違うからです。既存の農業ではない、いわば新しいスタイルだからです。」
「だから、これから始める人には無駄な失敗はしてほしくないのです。」
「栽培が先にありきは失敗のもと」と武井さんは言います。「何を提案するか、ということをきっちりと見定める。するとそこからどんな野菜を作ったらいいのか、ということが見えてくるはずです。」
▼これから農業を始める方はこちらの記事もご覧ください。農業経営を見据えた「価値設計」
「おまえの父ちゃん、農家なの?すごいじゃん!」子どもたちの間でそんな言葉が交わされる日がきてほしい、と武井さんは繰り返します。
「親の仕事について話をするとき、もし父親が飛行機のパイロットだったら、友達から絶対に良いなと羨ましがられるでしょ。農業もそんなリアクションがくる仕事になってほしい、農業の地位を高めていきたいんです。」
武井さんは自分の仕事の意味と価値とは何か、考えました。