農業は「地」ではなく「天」から始まる!

【連載】タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント|第4回は農業は「地」ではなく「天」から始まる!
1人都市型農業の成功事例として注目を浴びるタケイファームが、新規就農者や現状を打破したいと考える方へ「価値設計の重要さ」を語ります。


タケイファーム、取材記事

出典:flickr (photo by theaucitron)
年間140種類の野菜をたった1人で栽培・収穫し、しかも95%はレストランに販売する。
栽培する品種、価格、出荷する野菜の種類。すべてを農家側が決めていく。
そしてしっかりと収益を上げ、ビジネスとして回していく。

1人都市型農業の成功事例として注目を浴びるタケイファームは、これから農業を始めたい新規就農者、あるいは今のやり方を転換したいと願う農家にとって興味の的。
理想的な農業経営スタイルであり、輝かしい事例として映るでしょう。

でも一方で、本当にそんなことが自分にもできるのだろうか…と思った人も多いのではないでしょうか。
真似してみたいけれど、果たして私に可能なのだろうか?
どうすればうまくいくのか、具体的なノウハウに飛びつきたくなるけれど…。

新規就農の出発点は「畑の上」にはない

タケイファーム
撮影:AGRI PICK編集部
ちょっと待って、と武井さんは言います。

「まず、畑に種をまくその前に大切なことがあるんです。あなた自身が、農業を通して何を提案したいのか、どんなことを実現したいのか。仕事の価値・コンセプトをしっかりと見定めてほしい。それが大切な出発点だからです。新規就農を成功させるための絶対条件と言ってもいいと思います。」

畑という「地」に目を向けるのではなくて、まずはいわば「天」の視点である大きな視野から仕事を俯瞰(ふかん)して見てほしい、と言うのです。

「自分にとって農業という仕事がどんな意味や価値を持つのか。それを見定めることから始まります。」

でもなぜ?農業を始めるというのに地面ではなく、意味や価値を考えるところから考えなくてはならないのでしょうか?
ちょっと不思議です。
その疑問を武井さんにぶつけると、明解な答えが返ってきました。

「もし、僕のような農業スタイルでそれなりの収益を上げたいと思うのなら、一般的な農業のやり方をトレースして真似してもうまくいきません。
なぜなら目指す農業が、これまでの農業の姿とは違うからです。既存の農業ではない、いわば新しいスタイルだからです。」

農業経営を考えずに何となく始めてしまうと現場に入ってから迷ったり、ブレたり、独りよがりになったりして結局うまくいかない。そんなケースも多いんです、と武井さんは言いました。実際、僕は失敗の事例を山ほど見てきたのです、と。

「だから、これから始める人には無駄な失敗はしてほしくないのです。」

「栽培が先にありきは失敗のもと」と武井さんは言います。

「何を提案するか、ということをきっちりと見定める。するとそこからどんな野菜を作ったらいいのか、ということが見えてくるはずです。」

▼これから農業を始める方はこちらの記事もご覧ください。

農業経営を見据えた「価値設計」

タケイファーム
撮影:AGRI PICK編集部
「おまえの父ちゃん、農家なの?すごいじゃん!」
子どもたちの間でそんな言葉が交わされる日がきてほしい、と武井さんは繰り返します。

「親の仕事について話をするとき、もし父親が飛行機のパイロットだったら、友達から絶対に良いなと羨ましがられるでしょ。農業もそんなリアクションがくる仕事になってほしい、農業の地位を高めていきたいんです。」

武井さんは自分の仕事の意味と価値とは何か、考えました。
農業の地位を上げること。
子どもたちが農家の父親をうらやましがる日がくること。
それが農業への思いであり、自分にとっての仕事哲学だと確信したのです。

タケイファーム、取材
Illustration:AGRI PICK編集部
出発点は「天」の視点、つまり価値の設計。
武井さんにとって仕事をする価値とは、「ブランディング」にあります。

目指す価値がしっかりと定まったら、次にその価値を実現させるためにはいったいどんな商品(野菜)や販売先が必要なのか、を考えていきます。
どんな野菜を作るかは、目指す価値から見えてくるのです。

まずは「天」の視点で価値を定める。そこから設計し栽培・収穫・出荷していく。
成功を収めるタケイファームの見えざる骨格となっているのは、この方程式でした。

▼武井さんがレストラン卸で成功している秘訣についてはこちらの記事をご覧ください。


農業について本気で考えたのは、地を這う経験があったから

タケイファーム
撮影:AGRI PICK編集部
もちろん、武井さん自身も最初から優等生だったわけではありません。
むしろ農家を全否定してきたのだと言います。
紆余曲折があり、葛藤し悩んでもきた。
だからあえて、自分の苦い経験も語りたいのだと。これから農業を始める人には、しなくていい失敗はしないでほしいから。

「僕のスタートは、いわば優等生の逆でした。実家は農家だったけれど農業が大嫌いで、全くやるつもりがなかったんです。子どものころはサラリーマン家庭の子に憧れていました。農作業をする両親がカッコ悪くて仕方なくて。畑が忙しくて運動会にも来てもらえないし。
だから幼心に農業だけは絶対にやりたくないと決めつけていたんです。」

タケイファーム、取材記事
出典:写真AC
学校を卒業し、初めて就職した仕事が建設会社で社長秘書。その後、自動車の販売業者に転職した武井さん。車の運転が好きで、何とか自分らしい車の売り方を探っていく日々。

「店長兼営業担当になり、在籍した11年間で約1,200台の車を販売しました。今考えると、営業や顧客管理について学んだ貴重な現場経験でもありました。」

店長にまで上り詰め、大きな実績を上げる、という意味で成功したはずの仕事。普通なら、目指す人生の成功事例かもしれません。
それなのになぜ、武井さんはその会社を辞める決断を下したのでしょう?しかも、大嫌いだった農業を仕事にすることになったのでしょうか?

「一言でいえば、クレーム処理に疲れ果ててしまったんですよね。店長だったときは20人もの部下がいて、他人のマネジメントをしつつ自分自身も車を売らなければなならない。そんな生活に心も体も疲弊してしまったんです。それまであまり深く考えずに何となく会社に就職したんですが、あのときは仕事って何なのだろうと、考えました。」

30歳で会社を辞める決断をし33歳で退職。失業保険をもらいながら、自分に合う仕事とは何なのか探し続けたけれども、なかなか見つからない日々。
いよいよ失業保険の期間である10カ月も過ぎてしまい、モラトリアムに終止符を打たなければならないときがやってきました。

「ある意味、絶望していました。
すべてを諦めたのです。
希望も成功の夢も一切を捨てて、仕方なく実家の農業を手伝うことにしました。というか、それしか選択肢がなかったのです。きっとこの地域で一生閉じこもって生きていくんだろうな、と思いました。」

農業をやっていると言うのが恥ずかしくて同窓会にも顔を出さず、友達と遊びにもいかなくなり閉じこもっていた時期。
今のタケイファームの成功がウソのような厳しい過去。武井さんの言葉に苦闘の痕跡がにじんでいます。

「このころの自分の写真は一切ありません。誰もが辛い時期というのは経験すると思うのですが、そのときこそ自分の写真は撮っておく方が良いと、今なら切実に思います。」


模索しながら「ヤフオク」で学んだこと

タケイファーム、取材記事
出典:PAKUTASO
嫌々始めた農業だから気持ちも乗らないし、値観の違う父とはぶつかってばかり。理解し合うことは難しく、結局両親の農業とは経営を別にすることに。生活が苦しくて、19時から夜中の3時まで5年間(最初の3年間はカメラ屋、残り2年間は豆腐工場)夜にバイトをしつつ、農業をしていました。

そのころから漠然と、農業の地位をもっと上げることはできないかと考え始めた武井さん。
まずはきちんとした利益を上げるビジネスにすること。そして、農業という世界の中で、自分が注目されるメジャーな存在になることが必要だろうと、目標を抱き始めました。

野菜を売る先についても従来のままでいいんだろうか。市場、組合や卸ではない新たな販路、例えば直接消費者へアプローチする方法はないだろうか。そう考えていたところ、当時じわじわと注目を集め始めていた方法に目がとまりました。

オークションです。野菜をセットにしてヤフオクに出品したらどうだろうと思いついたのです。

「ホームページを作るお金がなかったので、ヤフオクなら簡単に出品でき、直接お客さまに接することもできる。最初はほんの試みのつもりで始めたので、値段設定も適当でした。ほかの出品者を真似して送料込一箱3000円とか、実にアバウト。
野菜の種類も格段変わったものは入れていなかったのですが、サイズや量、値段をすべて自由に決めることができる仕組みというのがとても新鮮でした。」

とにかく自分が出品したものが落札され消費者に直接届くのが面白かった、と武井さん。

「最初に落札してくれたお客さんは神戸の人。忘れられない思い出です。」

しかし、ヤフオクが知られるようになればなるほど競争も激しくなり、ほかと差別化するにはどんな野菜を売ればいいのか考えねばなりません。
今でこそカラフルな野菜セット販売も珍しくありませんが、当時はまだネットオークションも野菜のセット販売も草創期。

「試行錯誤をしながら、珍しかったカラフルな野菜セットを作って売ったり。ピンク色のじゃがいもを栽培してピンクのポタージュの作り方を提案したり。ブログを立ち上げ食べ方やレシピを紹介し始めました。」

今では武井さんのことを「野菜セットに色を取り入れたパイオニア」と言う人もいるのだとか。


評価が上がっても、手元に残らない仕事への疑問

タケイファーム、取材記事
出典:Pixabay
農業以前の仕事で覚えた顧客管理も応用し、一つひとつ丁寧にメールを返し顧客への対応を重ねていった結果、出品者としての評価がぐんぐん上がり、買ってくれた人のなんと7割がリピーターに。
つまり、「どうすれば売れるのか」という「販売方法」を模索し、それなりに商品が売れる方法をつかみ始めたわけです。

ところが今では、その始め方は間違っているから推奨できない、と語ります。

「当時はまったく方法がわからなかったから、手当たり次第にやってみて、売れるという自己満足も得られたけれど、壁にぶち当たりました。」

タケイファーム
写真提供:タケイファーム
ヤフオクで継続して売れるような野菜セットを実現できたのに。リピーターが7割もいるのに。
決定的な壁が立ちはだかっていました。
それは、無視することのできない一番大きな壁。

「利益がほとんど出ない」という壁でした。

労働時間、メール等の手間、送料を総合するとちっとも儲からない。
休みなく働いてくたくたになっても、すずめの涙ほどしか手元に残らない生活。

仕事としてどこかおかしい。憧れの職業には、ほど遠い。
だから変えなくては。
いったいどうやってこの巨大な壁を越えていけばいいのか?
もう一度自分が目指すべき農業の「価値」を考え、そのことから何を栽培し、どのように販売していけばいいのか。

次回はタケイファームの「価値設計」の次に考えた「商品」とその価格設定の考え方から、巨大な壁を乗り越えるヒントについて紹介します!

▼タケイファームについてはこちらの記事もご覧ください。

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YumiYamashita
YumiYamashita

作家・コラムニスト 身体と社会との関わりに関心を持ち、五感、食、日本文化、ヒット商品などをテーマに取材。新聞、月刊誌、週刊誌、大手ニュースサイトにて時事問題からテレビドラマまで幅広く執筆。