このシリーズは、サラリーマン家庭出身!独身!女性!である「はるさん」が、農業法人勤務後、独立就農を果たし、自分なりの農園を築いてきた農業漂流記。第3回は、農地を借りて小作になったはるさんが農機、栽培のノウハウなどを集めて農家としてのベースを築くまでのお話。
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4足のわらじを履く小作
3反を借りることができた私でしたが、持っている車は軽トラではなくジムニー、そして管理機のみという状況でした。種、肥料、鎌、農機など必要なものを自費を切り崩して買うと生活費がなくなるような状況だったので、バイト3件を掛け持ちしていました。家庭教師、焼き肉屋、種苗屋、日雇いなどなど…。畑でニンニクを定植した後、向かったバイト先でニンニク臭いと言われてあたふたしたこともありました。そして、農業法人に勤めていたとはいえ、就農した地域で有機農業を行っていくためのスキルやノウハウがなかったので近くの先輩のところで研修を始めました。小作としても畑で野菜を育てる日々、一日一日が台風のように過ぎていったせいか、当時の記憶はいつもぼんやりとしか思い出せません…。心を亡くすと書いて「忙しい」、まさにそれほど忙しい日々でした。
よき仲間との出会い
私がお世話になった研修先の農家さんは、私と同じように非農家出身でしたが、すでに6年ほど営農していた先輩です。知り合いのツテで参加した勉強会で知り合うことができました。農家の勉強会というと、お酒ばかり飲んでいそうなイメージがあったのですが、30~40代中心に夜の2~3時間休憩なしで技術や販売の話をするという会でした。「サンヨンサンマル」「太陽熱マルチ」「スリッドマルチ」…など飛び交う言葉も最初は全く理解できず、自分の考えの甘さや知識のなさを痛感しました。2カ月に1回開かれる勉強会のおかげで、農家としてのノウハウを比較的短期間で高めることができました。
先輩たちからの恩恵
勉強会に来ていた先輩からの話にはトラクターなどの農機の紹介や、農業の給付金や補助についての情報など、営農していくために必要な情報もたくさんありました。私は実際に安いトラクターを紹介してもらったり、先輩が管理機や防虫ネットなどの買い替える際に古い方を安く譲ってもらったり…。就農当初は資材や農機の購入費用が大きいので本当に助かりました。給付金を申請
その勉強会に入ったころ、就農給付金制度の存在を知りました。農業以外に3足のわらじを履きながら営農していた私にとって、トラクターやハンマーナイフなど必要な農機、ハウス、井戸、電気は大きな投資になるので、資金がたまるまで何年かかるかわからない状況でした。給付金制度があれば、早期に農業に必要なものをそろえて、ほかの3足のわらじを脱ぎ、農家として独り立ちできると思い、申請することにしました。実際、手続きには半年以上かかったのでその間は目が回るほど忙しい日々でしたが、今考えても就農したばかりの私にはあまりにも何もなかったので、給付金が下りたおかげで農業に集中することができ、早く農業で生計を立てられるようになりました。
陸の孤島に井戸と電気がやってくる
営農して半年もすると、苦労した農地探しが嘘のように農地の話がやってきました。最初に借りた畑の隣の畑、さらにその隣の畑…と広がっていき、5反ほどの畑を借りました。しかし、電気も井戸もなかったため作業は遅々として効率的に進むことができません。畑の近くに借り暮らしをしていた私は、育苗のために水道からタンクに水をためてジムニーでタンクを運び、水まきをしたり、電気がないので夕方以降はヘッドライトを使って作業したり…。バイトが入ってしまった日は、夜の10時以降に夜な夜な水まき作業や防寒対策に追われることも…。これではらちがあかないと、電力会社に電話をして電気を引いてもらうことにしました。そして井戸の掘削業者5件ほどから見積りをとって、一番安い井戸を1つ掘ることになったのです。森に囲まれた陸の孤島ともいえる私の畑に、電気と井戸ができました。
運という力
スキル・知識・お金…どれもなかった当時の私は本当に裸一貫で農業業界に飛び込んだ状態でした。自分でもよく沈没せずにここまで続けていられたと思います。周りの農家の先輩も最初はあきれていたようですが、勉強会の仲間との出会いやロールモデルとしてふさわしい研修先との出会いなど、本当に人との出会いに恵まれていました。就農は孤独との闘いでもありますが、その人たちとの出会いの中で共に農業をがんばる仲間の存在を実感し、勇気づけられ、何とか踏ん張ることができました。いい仲間や先輩のいるこの地域で就農したことが、私の就農の最大のポイントだったかもしれません。
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