目次
このシリーズは、サラリーマン家庭出身!独身!女性!である「はるさん」が、農業法人勤務後、独立就農を果たし、自分なりの農園を築いてきた農業漂流記。
第2回は、営農という船出に欠かせない農地探しの旅のお話。
前回のお話はこちら。
私の航海の元手
就農を決意した私は、会社員を続けながら就農への道を模索し始めました。ただ、就農を決めた当時、20代後半だったので農地の当てはもちろん、貯金も、コネもほぼゼロでした。それでもお金とコネは後からついてくると割り切って、農地を探し始めました。はるさんが就農を決め、出航するまでのお話はこちらから。
就農の前に立ちはだかる見えない壁
就農ガイド本を一通り読み、書かれていたがまま役所や農業委員会に農地を貸してほしいと頼みに行きました。しかし、どの役所でも「農地はどこか決まっていますか?」「5反借りられそうな地主さんを探せたら、こちらで手続きしましょう」という、どこか的外れな答えが返ってきました。「それを相談しにきたのですが…」と言っても、「当てを探してきてください」と門前払いでした。広がる放棄地、でも借りられる畑はない!?
その役所から車で帰る途中、私は目の前に広がる農地を眺めてため息をつくしかありませんでした。この農地のほとんどが作物を生産することなく、ただ雑草が生えないように耕されているだけだということを知っていたからです。実際に耕作放棄地が年々増えている状況でも、見ず知らずの人間に農地を貸すという話にはならないのです。役所の紹介があればと期待していた私は完全に道を断たれました。しかし、諦めず近くで就農した方を探し当て、実際どうやって農地を借りたのか話を聞くことにしました。
知られざる農地探し難民の実態
就農した先輩農家を回るうちに、農地探しの実態が私の想像よりはるかに厳しいことがわかりました。「新規就農者の場合、役所10カ所回っても見つからないこともある」「地元以外で就農する場合、農地を見つけるまでに4、5年かかることも」「貸してもらえても、ほとんど条件の悪い農地」などなど。また逆に「地元のコネがあれば余っている農地はたくさんあるので、一週間とかからない」という話もあったので、そこでやっと新規就農のハードルがいかに高いかを思い知らされました。
就農者への風当たり
先輩農家に話を聞きながら農地探しをする中でわかってきたことはほかにもありました。放棄地が広がる中、若い就農者がこれほど農地を借りるのに苦戦する理由の正体が「不信」であるということ。まず、村の外の者に土地を貸すという習慣ない農村が多いので、心理的な抵抗感が強く、外の人への不信感からもいろいろな噂が存在しました。「部外者に貸したら夜逃げされた」「ごみ置き場にされた」など、私も実際そういった理由を挙げられて断られそうになりました。
「有機農業」はNGワード
「有機農業をやる」というと地主さんの不信感に油を注いでしまうこともあります。「有機農家は草の種と虫をばらまく」という理由からです。賛否両論あるところですが、それならば仕方ないと、引くのが賢明かもしれません。個人的には、有機栽培でも慣行栽培でも、この時代に農業という業界で汗を流している同志、やり合うより学び合うことができたらと思います。ただ、農地が隣り合っているとやり方が違い過ぎて、お互いに迷惑をかけることになってしまうのです。結局、有機農家は森の奥などのへき地にこもるか、大規模に有機栽培を行う地域を探すかの二択になるのです。
ついに農地発見!
スタートから3カ月、完全に暗礁に乗り上げたかに見えた農地探しに、まさかの展開が訪れます。ある農家さんから、知り合いの土地が空いていると連絡がきたのです。そこは井戸も電気もない村の外れの農地でしたが、森に囲まれ有機農業をやるには良い立地でした。さっそく、地主さんと契約の話をすることになりました。念願の小作に
最初に地主さんと契約したときは、本当に緊張して、そのときに用意していた「大事にしますので、どうか農地を貸してください」というセリフは、男性でいうところの「幸せにします、娘さんを僕にください」と同じくらいの重みを感じるほどでした。それでも相変わらず信用はありませんでしたが、年貢(小作料)を納め、1年間3反という最小条件で借りることができました。念願の小作になったのです。信用とコネのありか
就農では信用こそお金以上にものをいいます。信用のない新規就農者は畑を作った実績で信用を得るしかありません。私の場合、小作になり1年もしないうちに、ほかの地主さんからも声がかかりました。消防団、村の草刈り・用水路掃除に参加すると、さらに信用やコネができて、村での暮らしも楽しくなります。できる範囲でも、村の活動に参加してみるといろんなチャンスが転がっているはずです。
次回は小作になったはるさんの奮闘記。
連載まとめ読み「わたしの農業漂流記」
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