株式会社久松農園 久松達央さんによる、豊かな農業者になるためのメッセージを伝える連載がスタートしました。
第一回は、多くの就農者が二の足を踏む機械投資についてです。特に新規就農で露地野菜栽培する人の多くは、農作業の機械化が進んでいません。しかし、自分の仕事のやりかたの改善を図り、より豊かな農業者になるためには農業機械への投資も必要です。有機で露地野菜を栽培をしながら、機械への投資を進めてきた久松さんに、新規就農者と機械投資について話を聞きました。
プロフィール
株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう)
1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)
新規就農者が多い露地栽培では、機械投資額が少ない
平成30年の新規就農者調査では、後継者(親元就農者)ではない新規就農者のうち、もっとも多い32.7%が露地野菜で営農しています。後継者は、新規就農者と比較すると、土地利用型(稲作、麦作など)農業も多いため、すでに親世代が必要な機械類を持っている場合も多々あります。就農1〜5年目までの機械・施設などへの投資額の中央値を見ると、年間投資額は200万円台のまま変化がありません。露地野菜での新規就農者に関しては、これよりさらに少なく年間150万円です。つまり、特に露地野菜での新規就農者は、機械投資が少ないことが現状です。
一方、施設園芸に関しては、機械投資より環境制御など設備への投資が大きな割合を占めるため、ここでは露地野菜の新規就農者の機械投資への課題について考えます。
参考:平成30年の新規就農者調査|農林水産省
新規就農者の就農実態に関する調査結果-平成28年度-|一般社団法人全国農業会議所 全国新規就農相談 センター
露地有機栽培で営農している久松達央さんの場合は?
久松さんが保有する農業機械には、どのようなものがありますか。
有機で露地栽培だと、手作業のイメージが強いですが、ここまで機械化が進んでいるのですね。
機械投資のキーワード「効果と資金」|効果について
自分の作業を理解すると、改善の余地に気づく
久松さんは、新規就農時にはどのような方法で作業をされていたのですか?
なぜ、手まきから播種機を購入せず、手作りの筒を介したのでしょうか?
久松さんが機械投資をした際に考えた「改善」とはどのようなことですか?
「効果」が見えなければ、検討できない
就農時の久松さんを含めて、新規就農者があまり機械投資をしない理由は何でしょうか。
まず、効果とは「今のやり方では時間の効率が悪い」とか、「特別過ぎるヒューマンスキルが必要な場合」に、それを習熟するよりも、道具や機械を活用した方が短時間ですんだり、高い生産性などが得られたりすることですね。投資の効果が見えない原因は、情報や知識の不足。まずは、先輩がどんな考えで、どんな機械を使っているか知ることです。そのことで、どの機械の効果がどの程度なのかを知ることができます。効果の程度、すなわち効果の定量的な把握ができてはじめて、自分の農業に取り入れるかどうか検討できます。
時間をコストと捉えて、機械化で削減
機械と労働時間の関係性をもう少し教えてください。
機械化を人の雇用で補うことはできるのでしょうか。
個人事業主は、自分の人件費を計上しないので、時間のコストを認識しにくいんです。だから、人を雇うことで時間を節約する必要に目が向くようになります。雇用には、このような効果もあるんです。
久松流:雇用で機械化を考える心理
人を雇用し、人件費が発生することで、「時間のコスト=労働生産性」を意識するようになります。
→労働生産性を上げるために、機械投資に目が向きます。
労働コストと投資額を計算上で比較する
個人事業や家族経営の場合であっても、人件費に考えが及び、生産性を上げていくためには、どうすればよいのでしょうか。
久松流:作業を時給換算し、機械投資を考える方法
1. 自分の時給を決める。(例:時給3,000円)
2. 100m通路の手除草に1時間かかる、つまり3,000円の作業をしている。
3. 1年間の通路除草にかかる時間を考える。
4. 年間で除草に40時間かかっている場合、自分の人件費だけで年間で12万円かかっていることがわかる。
5. 管理機の価格と比較する。(例:管理機が25万円)
6. 管理機の購入で除草にかかる時間が10分の1に短縮されるとしたら、何年間使用すれば元が取れるか計算する。
ここまで計算ができれば、機械投資について考えやすくなります。
なるほど、わかりやすいですし、投資する気になりますね。
人件費という概念|自分の時給を決める!
就農者が、機械投資に二の足を踏む一つ目の理由は「効果が見えていない」ことです。まずは、自分の作業を理解して改善点を洗い出し、次に、現在の経営規模に見合った機械に投資した場合の効果測定を行います。その際に、参照できる関係の近い農業者(相談者)が投資している機械を見たり、意見を聞いたりすることも有益です。ただし、一人もしくは家族経営の場合には、人件費という概念を持てないことが多く、時間をコストだと考えることは容易ではありません。そこで、自分の時給を決めてしまえば、自らの労働コストと、投資を検討する機械の価格を計算上で比較することができるようになります。
久松流極意|機械投資の効果を見極めるポイント
最後に、機械投資の効果測定をするときのポイントです。以下の点を参考にしてください。1. 自分の時給を決めよう
自分のコストが見えにくい個人事業の時こそ、自分の時給を決めましょう。そして、現在の自分の労働コストと、機械の価格を計算上で比較して、投資の可否を検討することが大切です。2. 相談相手を作ろう
実際に機械を導入している農業者に、意見を聞いたり相談したりすることで、機械投資がより現実的になり、検討可否の判断の一助になります。次回は、機械投資の続編「資金調達」です。