目次
【後編】では、株式会社ロブストスの顧客であり仲間でもある生産者3名の事例を紹介します。3名は異なる経営スタイルでネギを生産しています。ネギ栽培を中心にどのような機械や道具を使用しているのか、またそれぞれ何を考え機械投資を行い、どのような工夫をほどこしながら機械を使っているのかについて話を聞きました。
ネギ栽培に必要な農機や道具は?
ネギ栽培で使用される機械や道具の一例を紹介します。作業内容(例) | 使用する農機・道具(例) |
耕起、溝掘りなど | 歩行型の管理機、トラクターけん引式のプラウ(土壌耕起用作業機)など |
肥料の施用 | 歩行型やトラクターけん引式の肥料散布機など |
植え付け | 全自動の苗移植機、チェーンポット苗移植機など |
埋め戻しや土寄せなど | 歩行型の小型管理機や畝立て用の乗用管理機など |
防除 | 歩行型の防除機や乗用管理機、トラクターけん引式のブームスプレーヤ(液剤散布機)、動噴用アタッチメントアジャスタブルスプレーヤなど |
収穫 | トラクターけん引式の掘取機、自走式・全自動ねぎ収穫機(自走しながら畝を崩し、根っこを切って土を落としながらネギを掘り上げる)、手作業(うね崩し→掘り取り→集束)など |
出荷前の調整 | 皮むき機や根切り機など |
今回の案内人
株式会社ロブストス 代表取締役社長 高垣達郎
1984年アメリカ生まれ、東京都大田区育ち。2011年に群馬県太田市で株式会社ロブストスを創業。関東平野をフィールドに、農業機械の部品を中心としたカスタマイズと、廃番部品の修復などのオーダーメイド事業を行う。雑誌『農業経営者』で「ロブストス高垣の今日も一丁あがり♪」を連載中。
WEBページ:ロブストス
作業時間の短縮で利益を確保|露地野菜多品目栽培農家の事例
加藤聖則さんは、群馬県伊勢崎市で100年以上の歴史をもつ加藤農園で、キャベツを中心にネギを含めた露地野菜を栽培しています。高垣さんが同志と言える存在だと話す加藤さんは、工夫しながら農機や道具の改造を繰り返し、より効率的により美しく作業をすることにこだわっています。加藤農園 加藤聖則さん
所在地:群馬県伊勢崎市
栽培品目:キャベツを中心に、ホウレンソウ・トウモロコシ・ナス・ネギ・ブロッコリーなど
栽培面積:約15ha
販路:主に加工用の契約栽培
従業員:家族4名、ベトナム人実習生3名
植物の特性を知り、農機や道具を最大限に生かすための設定を
加藤さんは、カスタマイズ以前に植物の特性を理解し、機械の設定を微調整することで作業効率が変わると言います。特に農業は除草作業に多くの時間を費やすという現状があるため、最適な時期に最適な方法で除草をすることが大切です。天候に合わせてさまざまなオプションを持つ
加藤さんは、「新規就農者には真似するのは難しいかもしれない」と前置きしつつも、作業機部分をカスタマイズした機械類をトラクターに常設し、「専用機」として15台そろえることには意味があると言います。それは、機械の付け替えに時間がかからず、天候や雑草などの状態を見ながら、思い立ったらすぐに作業ができるからです。農機カスタマイズのきっかけは?
加藤さんが、農業機械をカスタマイズするようになったきっかけは、「時間がもったいない」からです。37年前に就農したときに比べ、野菜の販売単価は変わらないか下がっているにもかかわらず、肥料代、人件費、機械代などの経費は上がっています。利益を確保するには、作業時間を短くして面積を拡大し、拡大してもなお作業時間を短縮していくしか方法はないと言います。就農時は2〜3haだった面積が、今では15haです。面積を広げていきながらも、「作業の目的は?」「どのような工程で作業をするのが一番早い?」「機械に本来の仕事をさせるためには?」などのポイントをおさえて、時間の制約がある中でも、機械をうまく使うためのカスタマイズに取り組んでいます。
加藤さんの農機カスタマイズ例
加藤さんは、農機カスタマイズのほとんどを自分のアイデアと手で実現させています。しかし、技術的に手間を要するもの、材料がそろわないもの、詳細な計測など手に負えないものについては、ロブストスに依頼しています。チェーンポット苗移植機に運搬車を組み合わせる
チェーンポット管理移植機は、溝切り、植え付け、土寄せ、鎮圧の移植作業が同時に行え、ネギの定植に重用されています。加藤さんは、安価な中古の運搬機にネギの苗箱を設置できるように改造し、チェーンポット管理移植機も一緒にひっぱるようにカスタマイズしました。施肥、除草、培土(土寄せ)を同時に行うカスタマイズ田植え機
2〜3工程だった作業を1工程にするために、中古の田植え機をベースにして管理作業機にカスタマイズしました。キャベツやネギなどのさまざまなほ場管理で活用しています。土寄せの管理作業と同時に、土を動かして小さい草を除草しながら肥料を落とせるようになりました。30aの作業に1日かかっていましたが、30分でできるようになりました。
加藤さんがカスタマイズした箇所
・除草機、中耕作業用土寄せ、肥料散布、マーカーを新たに設置
・後輪タイヤをトラクター用タイヤへ変更
・夏の暑さ対策でルーフを設置
農機をもっと使いやすく、もっと長く使うために|ネギ専業農家の事例
群馬県前橋市の南雲茂人さんは、5年前にネギ専業に転換しました。ネギ栽培を始めるにあたって、どんな機械に投資し、どの程度借入したのでしょうか。南雲さんは、機械や作業の改善点を見つけ、より使いやすくより長く使用するためにカスタマイズを続けます。南雲茂人さん
所在地:群馬県前橋市
栽培品目:5年前からネギ専業。一部トウモロコシ栽培も開始。
栽培面積:2.5ha
販路:系統出荷
従業員:基本的に1名。調整作業は妻とアルバイト1名
ネギ栽培をはじめた経緯|5年前にコメ・ムギからの転作
コメとムギの農家だった祖父の手伝いのために農業をはじめた南雲さんですが、当時は2.5haで150万円程度の年収しかありませんでした。そのため、主に中古のトラクターなどの機械を改修して、フィリピンへ輸出する仕事で生計を立てていました。その後、国内で中古機械が集まりにくくなってきたので、農業一本で行こうと心に決めましたが、コメとムギでは食べていけないため、ほかの作目を検討します。そのなかで、ネギ栽培がうまくいったので、5年前に完全に切り替えることにしました。
借入して必要な機械を一気にそろえた|5年で返済のめどが立つ
コメ、ムギとネギとでは使用する機械が異なるため、転作時にチェーンポット苗移植機、自走式・全自動ネギ収穫機、出荷前調整用の皮むきと根切り機、トラクターを含めた機械類を一度に購入しました。10年返済で2,500万円を農協から借入しましたが、5年経過した時点ですでに返済のめどはついたと話します。南雲さんの農機カスタマイズ例
南雲さんは、機械類はメンテナンスをしてていねいに扱えば、長期間使用できると話します。もともと機械が好きなこともあり、もっと使いやすく改造したくなるそうです。ホームセンターでそろえられる部品を活用し、カスタマイズや部品の製作を実現しています。ホームセンターで手に入る材料で乗用防除機を作る
ホームセンターにある材料だけを使用し、乗用のネギの畝立機で農薬散布のための乗用防除機を作りました。タンクを積んで、ポンプでの組み上げ式にカスタマイズすることで作業の効率化が実現できたと言います。除草剤散布用のアジャスタブルスプレーヤも購入後すぐに南雲さん仕様に
ロブストスの除草剤散布のための動噴用アタッチメント「アジャスタブルスプレーヤ」を購入してすぐに、使いやすいように自身でカスタマイズしました。ネギの株元にモグラの通り道ができ、タイヤがはまってしまったことがきっかけで、前輪タイヤを大きいものへ付け替えました。さらに、ノズルの変更、ビニール部分に短冊状に切れ目を入れるなどの改造をしています。主要な作目でないからこそ作業効率向上と省力化を|イチゴ、ネギ農家の事例
群馬県前橋市で大型ビニールハウス5棟でイチゴの育苗から収穫まで行う関口嘉久男さんは、3年前からネギ栽培を始めました。関口嘉久男さん
所在地:群馬県前橋市
栽培品目:主はイチゴ。3年前からネギ栽培も開始。
栽培面積:40a(ネギ)
販路:ネギは系統出荷と、一部イチゴ販売をしている自前の直売所で販売。
従業員:主に家族6名、直売所に1名。
施設でのイチゴ栽培に加えて露地でのネギ栽培も開始
お父さんの代からイチゴを施設で栽培する関口さんは、3年前から娘夫婦が一緒に働き始めたため露地でのネギ栽培も開始しました。露地でさまざまな作目を試し、検討した結果、収穫適期に幅があるなどの理由でネギ栽培にたどり着きました。極力時間をかけず、正確に作業をするために機械類を購入
ネギを始めるタイミングで、根切り機、自走式・全自動ネギ収穫機、チェーンポット苗移植機などを一度にそろえました。関口さんは、様子見をせず、必要な機械は一気に導入して集中的に稼ぐことが大事だと言います。関口さんの農機カスタマイズ例
関口さんは、基本はメーカーの純正品でそろえますが、使っていく中で「もっとこうしたら作業が早くなる」と細かい工夫を取り入れます。ローラーのカスタマイズで肥料散布の作業が往復から片道へ
クローラー式追肥機の肥料まきローラーの純正品(左)を使って追肥をしていましたが、作業にかかる時間をもっと短縮したいと考えるようになりました。そこで、往復で散布しているところを、肥料を2倍落とせば片道で作業を終えられると思い、肥料が入る容積が2倍で、作業効率も2倍になるローラー(右)をロブストスに依頼して製作しました。管理機の爪軸の幅を広げて作業の効率化を図る
管理機の爪軸の幅を広くとることで耕うん幅を広げ、作業の効率化を図りました。さらに、ネギの自走式・全自動ネギ収穫機の掘取り部を強化して、すき先の形を変えるなどのさまざまなカスタマイズに積極的に取り組んでいます。農機や道具の改善点を拾い上げ、形にしていく
機械や道具は、あくまでも作業や経営をサポートするためのものです。そして、農業機械の購入はスタートに過ぎず、畑の状態や作業のタイミング、やり方に合わせて微調整していく過程が重要です。さらに、使用するなかで「もう少しこの点を変えると作業性が上がるのに」などのニーズやアイデアを出し続けましょう。そのアイデアを自ら、または協力者に頼って形にしていけるか否かで、作業の効率や作物の品質に差が出てくるのではないでしょうか。高垣さんは最後にこう締めくくります。「3名のように自ら改善点に気づきホームセンターなどで普通に手に入るものを使って工夫をすれば、だいたいの不具合は解消できます。ご自身でできることはご自身で、できないことはロブストスに!というのが基本的なスタンスです。ご自身で工夫してみたけれど、うまくいかなかったときには相談してください。プロの仕事でお応えします。」