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ロブストスのものづくり|小さな工夫を重ね続け大きな違いを生む
ロブストスのものづくりは、生産者から直接、または農協や機械販売会社を経由して依頼を受けるところから始まります。依頼者が実現したいことを図面に起こし工程ごとに分け、社内の自社工場と全国に100ほどある協力工場に発注します。このように、全国の町工場の力をロブストスというハブに集結させながら、農業機械の廃番部品の修復とカスタマイズを行なっています。話を聞いた人
株式会社ロブストス 代表取締役社長 高垣達郎
1984年アメリカ生まれ、東京都大田区育ち。2011年に群馬県太田市で株式会社ロブストスを創業。関東平野をフィールドに、農業機械の部品を中心としたカスタマイズと、廃番部品の修復などのオーダーメイド事業を行う。雑誌『農業経営者』で「ロブストス高垣の今日も一丁あがり♪」を連載中。
WEBページ:ロブストス
独学で磨いてきた技術
高垣さんは、町工場が多いことで知られる東京都大田区で育ちました。リーマンショック後に町工場の売上が激しく落ち込んだのを目の当たりにして、「製造業を盛り上げなければ!」という思いを持つようになりました。農業現場の困りごとから、製造業に新たな仕事を生み出すために、2011年に知識も十分な資金もない状態で26歳でロブストスを創業しました。始めてみると、思ったようにいかない場面も多々出てきました。それでもロブストスを意地でも続けてきた理由は、「町工場の技術はすごいぞ!」と製造業界を盛り上げようと始めた以上、「やっぱり難しいよね」と思われてしまうわけにはいかなかったからです。
気づけば農業の当事者になっていた
1カ月にアルバイトで得た15万円ほどの資金しかない状況で、ものをうまく作ることが必須でした。町工場にとってあまり利益の出ない単品仕事を依頼するので、極力手間がかからないよう加工条件を細かく調整しながら、町工場にとって作りやすい図面を描くように心がけたそうです。そうした作業の繰り返しが、ノウハウの蓄積やコスト抑制、納期の短縮にもつながっていきました。目の前に困っている生産者が現れると「何とかしたい!」と考える性分と「フルオーダーメイド対応で生産者をあっと驚かせたい!」というエンターテイメント精神から、確実に生産者からの要望に応えていくうちに生産者たちとの信頼関係を築いていきます。今では、全国の生産者、農業機械販売店やJAだけでなく、大手メーカーからも依頼が入ります。彼らから次々に投げかけられる新たな難題に応えているうちに、会社としても少しずつ成長を続け、現在では売上1億円を超える企業に成長しました。そして、今なお成長と変化を続けています。
ロブストスのものづくり例
ロブストスには全国各地からさまざまな相談や、手に負えないと判断された難しい依頼が届きます。農協が新車を販売する段階でカスタマイズを依頼するケースから、廃番になった日本で10台しかないまぼろしの自走式ゴボウ収穫機の部品の修復まで多種多様です。ロブストスのものづくりの一例を紹介します。事例1:破損した廃番部品の修復や複製
部品がたった一つでも欠けてしまうと、農業機械は動きません。ロブストスは、歯車やギヤシャフトなどの駆動部品、板バネ、プッシュプルケーブル、油圧配管パイプなどの部品の修復や複製を引き受けています。量産部品と単品部品とでは作り方がまったく異なるので、単品で作りやすい形状を設計し、確実に機能するように製作しています。現在も蓄積し続けている複製技術が、カスタマイズや製品開発にも生かされています。事例2:ステアリングの高さを体型に合わせて体にかかる負担を軽減
最新機種以外の国産トラクターにはテレスコピック機能(ハンドル位置を調整)が搭載されていません。無理な姿勢で作業をしている人もいるでしょう。体型によってハンドル位置を調整するのは、かなり細かいカスタマイズですが、疲労度は大きく軽減されます。事例3:消耗部品であっても長く使うためのアイデア
土落としドラムとは、ネギの収穫機の一部で根の土を落とすための部品です。2カ所のネギ産地から相談と依頼を受け、両者のニーズを同時に満たして、長く使うためのカスタマイズを行いました。依頼内容と変更点
・梅雨時期の粘土質ほ場だとドラムが団子状になって土が落とせない→山の高さを高くした
・山の先端がすぐにすり減り、二股になってネギを傷つける→山の形状を先端が摩耗しても股割れしないようにした
・土質によっては摩耗が激しく1〜2年で交換しなければならない→山の材質を耐摩耗鋼(摩耗しにくい素材)にした
事例4:野菜移植機のホッパーをしぼり、植え穴の大きさを最適化
大手メーカーは、さまざまなサイズのセル苗に対応できるように汎用的に野菜移植機のホッパーを作っています。しかし、生産者にとってはそれが不具合になることもあります。ロブストスは、純正部品を部分的にカスタマイズしサイズをしぼりました。最適なサイズにすることで苗の活着がよくなります。また、マルチに空く穴を最小にできるので、雑草処理などの作業も楽になります。事例5:海外製作業機から油圧マーカーを移植
マーカーを使用すると、次作でトラクターで走る目安になり正確に速く作業ができます。しかし、国産メーカーの作業機には油圧マーカーが搭載されていないことがあります。ロブストスは依頼を受け、日本製の作業機に海外製の作業機のフレーム構造を再現し、油圧マーカーを移植しました。アジャスタブルスプレーヤ|作物に飛散させず素早く正確な除草剤散布を実現する道具を開発
フルオーダーメイドを基本にしているロブストスですが、2021年には創業10周年記念として、除草剤散布のための動噴用アタッチメントのアジャスタブルスプレーヤを発表しました。アジャスタブルスプレーヤの特長
・畑は真っ直ぐではないことを前提に、散布幅を可変させながら移動できる。(固定も可能)
・小さなビニールハウスを転がすイメージ!360°ビニールでカバーでき、風が吹いてもドリフトなく散布できる。
・ノズルを自由に動かし、噴射方向を無限に調整できる。
・散布幅は40〜120cmで変動可能で、さまざまな畑、作目にも適応できる。
・工具不要で、すべて手作業で調整できる。
・7kgと軽量で、持ち運びが容易。マルチの上を通っても破れない。
※特許第6818383号
若手農業者へ、農業に使えるものづくりのための小さな5つのアドバイス
高垣さんは、十分な資金がない中で何とか事業を続けていくために、小さな工夫を積み重ねまわりにある使えそうなものを何でも活用してきました。十分な投資ができない新規就農者や若手生産者に向けて、農機や道具を見る目や意識の仕方などの「考え方」と、農業に活用できるものづくりの「知識」について解説してもらいました。1. 小さな不具合に気付こう
高垣さんは、小さな工夫の積み重ねが大きな差を生むと言います。まずは、「もっと早くできないかな?」など「もっと」と考え工夫するクセをつけると、「ガムテープは幅が広い方が便利だな。キャスターを交換した方が動きが良くなって効率がいいな」などのアイデアが浮かぶようになると言います。工夫するクセがつくと、ほかの現場を訪問するときも作業の工夫や現場づくりの工夫が見えるようになり、自社でも生かせるようになります。2. 世の中にあるものをフル活用しよう
作業をする上で、何か不具合を解消したい場合には、ホームセンターで解決できることはたくさんあると高垣さんは言います。近くのホームセンターで購入できる商品と売場の配置は、基礎知識として頭に入れておきましょう。また、Amazonや楽天だけでなく、MiSUMiやモノタロウなどのものづくり系のECサイトやAliExpressなどの海外サイトを使えば、ありとあらゆるものが購入できます。そのほかに、中古販売店やリサイクルショップもチェックして、農協の機械センターや農機販売店に山積みされているスクラップ品も活用しましょう。3. 鉄を紙粘土のように考えよう
鉄は重くて、硬いので扱いしにくいイメージを持つ人も多くいるでしょう。しかし、鉄は擦れば粉になるので必要以上に恐れないことが大切です。そして最も重要なポイントは、鉄鋼材料には、丸鋼、フラットバー、六角鋼、丸パイプ、角パイプなどの種類があり、それぞれに規格サイズがあることを知っておくことです。
4. 電動工具を味方にしよう
電動工具に慣れ、使いこなすことができるようになると、道具に不具合を感じた場合に、自分で対処できることの幅が広がります。ディスクグラインダ(サンダー)とインパクトドライバー、電気ドリルさえあれば、切断、穴あけ、ビス打ちなどたいていのことができます。最初は怖く感じるかもしれませんが、次第に慣れていきます。ロブストスでは、20代の女性社員も使っているそうです。5. ものづくりは、機能すればそれが正解!
農機や道具の改造などを含めた「ものづくり」は、目的を達成できさえすれば、どんな材料で、どんな方法でも問題ありません。たとえば、輪ゴムを使ったとしても、ラップでぐるぐるに巻いたとしても、イメージ通りに機能すればそれが正解です。まずは、手を動かしてみましょう。ロブストスと生産者は刺激し合い、効率的な作業を追求し続ける
ロブストスの高垣さんは、相談を持ちかけてくる生産者たちへ農業機械のカスタマイズや特注部品を使って回答し続けています。そのほとんどが、高額な機械で一発逆転ホームランを狙うのではなく、細かくて小さな内野安打を積み重ねていく作業です。しかし、内野安打で出塁した生産者たちは、次の塁に進む方法を自ら考え工夫を重ねていきます。ロブストスとそのまわりの生産者は、より効率的によりよいものを作るための小さな工夫合戦を続けお互いに刺激し合います。これを続けてきた結果、アイデアがどんどんわき起こり好循環が生まれています。
農機や道具をより効果的、効率的に使うために「農業に使えるものづくりのための小さな5つのアドバイス」を実行し、小さな工夫を積み重ねていきましょう。そして、信頼できる農機具店などの外部サポーターを見つけ高め合っていくことも、よりよい農産物を作りよりよい農業経営をしていくためには大切です。