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今回は、施設園芸での新規就農や農業に携わりたい人が基礎知識や技術を学べる「トマトパークアカデミー」を中心に、株式会社トマトパーク代表取締役の杵渕覚さん、株式会社誠和 農場事業部事業推進課課長でトマトパークアカデミーの運営を担当している田中祥章さんに話を聞きました。
株式会社 トマトパーク概要
所在地:栃木県下野市
設立年:2017年8月1日
従業員数:5名
事業内容:農産物販売、食料品の製造販売、人材教育、コンサルティング事業、作物栽培の試験・研究受託、人材派遣
栽培面積:第一農場(研修用農場)0.8ヘクタール(1棟/5部屋)、第二農場(生産農場)1.1ヘクタール(1棟/1部屋)
栽培品目: 大玉トマト、ミニトマト、高糖度トマト
栽培方法:ロックウールを使った隔離培地、長期多段型栽培
収量:10アールあたり50トン/標準、10アールあたり66トン/LED補光、外気導入システムを導入した部屋(2019年)
販売先:主に仲卸業者
WEBページ:トマトパーク、トマトパークアカデミー
トマトパークの三本柱|技術・情報発信・教育
トマトパークアカデミーを運営するトマトパークは、「試験・研究」、「視察・見学」、「教育・研修」の三本柱で事業を展開しています。試験・研究|トマトの知見と栽培技術の確立
高収量、高品質のトマトを栽培するために、親会社である株式会社誠和が積み上げてきた栽培技術や知見を集結させ、栽培の実証試験や統合環境制御技術の試験研究、資材の評価試験などを実施しています。視察・見学|情報発信を続ける
栽培状況や最新資材や研究の成果などの情報を施設園芸業界へ発信し続け、業界の知識を蓄積していけるよう努めています。教育・研修|経営者育成のためのトマトパークアカデミー
講義から実践まで幅広いカリキュラムで、施設園芸に特化した経営者を育成する「トマトパークアカデミー」を開校しています。これまでに40名以上の卒業生を輩出しています。トマトパークアカデミーでは、どのようなカリキュラムを受講できるのでしょうか。トマトパークアカデミーで身につけられることは?|知識と技術を得られるカリキュラム
トマトパークアカデミーでは、講義(年間260時間)、実習(年間1,755時間)、OJT(年間216時間/OJTとは、研修を通じて知識や技術を身につける方法)を組み合わせて、施設園芸分野でのスペシャリストの養成を行っています。「講義」で基本的な知識を身につける
講義では、植物や栽培の基本的な知識を基礎から学びます。また、経営、会計、労務管理、流通・販売の学習についても講義形式で行います。週に2回、火曜日と金曜日の午後が講義の時間にあてられています。「実習」で作業スピードを身につけ、観察する目を養う
研修生は、年間で最も多くの時間を実習に費やします。1年を通して、トマトの定植から栽培終了まですべての作業に関わり、作物管理(摘花、葉かき、収穫など)、生育調査、作業工数の予測なども実践で身につけていきます。トマトパークアカデミーで行っている生育調査とは
生育調査とは、植物の身体測定のようなもので、研修生自身で毎週実施しています。研修開始時に、研修生の希望も合わせて担当者を決め、同じ人が同じ品目を年間を通して調査します。
・茎の太さをノギスで計測
・生長点がわかるよう誘引線に印をつけ、1週間で伸びた長さを計測
・1株に花も含めて果実がいくつついているのか計測
・葉が何枚ついているかの計測など
「OJT」でデータをもとに考える力をつける
毎週木曜日の午後に行われるOJTは杵渕さんが担当しています。ほ場を全員で歩きながら観察し、研修生たちが生育調査で得たデータと環境データをもとに総合的に判断し、その後の戦略を立てるために議論します。研修生たちが楽しみにしている時間でもあるそうです。「卒業時の事業計画」で現実的に経営方針を組み立てる
7月に開催される卒業発表会では、現状分析をもとに、研修生それぞれが就農地を想定して作成した事業計画の発表を行います。栽培だけでなく、どの規模で、どれだけ作って、どれだけ売れば経営が成り立ち、投資分の返済ができるかなども計画に組み込みます。最先端の施設で学ぶメリット
トマトパークは、環境制御技術の試験研究や栽培実証試験のための施設でもあります。そのため、研修生が作業をするほ場にも、統合環境制御機器、温湯暖房、連続希釈型(排液殺菌装置)、ハンギングガター・ロックウール培地が設置されています。また、天敵昆虫なども活用したIPM(総合的病害虫・雑草管理)技術を採用しています。部屋によっては外気導入システムやLED補光、除湿機などの最先端で最高スペックの設備が準備されています。しかし、後継者として研修を受けている人の中には実家で使用しているハウスが同等のスペックでないケースもあります。さらに、また独立就農の初期投資ですべてそろえることも容易ではありません。このような状況において、最先端のトマトパークアカデミーで学ぶ意味はどのような点にあるのでしょうか。
杵渕さんは、家を建てるときに最高スペックの展示場を見ながら、予算や状況に合わせてそれぞれが決定していくように、最高スペックの施設や設備を知って経験していることは研修生たちにとって大きな財産になると話します。
トマトパークアカデミーと実際の現場の設備が異なる例
・トマトパークでは温湯暖房だが、一般的には温風暖房のケースが多い
・トマトパークでは、ハウスの光透過率は70%だが、一般的には50〜55%が多い
→例えば、このような違いを認識し、どう考え、どのように実際の栽培や経営に生かすかをトマトパークアカデミーでの経験をもとに考える力をつける
卒業後の進路やサポートは?|得られた経験を活かし、つながり続ける
最先端の設備のトマトパークアカデミーで学んだ研修生たちは、卒業後にどのような進路を選んでいるのでしょうか。卒業後の進路は?
4期生までの卒業生39名の卒業後の進路は、親元就農の16名が最も多く、次いで農業法人への就職が8名、進学が約6名、独立就農が3名、そのほかが6名です。卒業後のサポート体制
縦のつながりだけでなく横のつながりも持てるよう定期的にOB会も開催しています。卒業後であっても、研修生は気軽に質問や問い合わせをしやすい雰囲気が醸成されていると言います。新規就農希望者や後継者、農業参入を考えている企業も受入可能
研修を始める前に、農業の基礎知識や基本的な栽培技術を身につけておく必要があるのでしょうか。また、どのようなバックグラウンドを持った研修生がいるのでしょうか。研修生にはどのような人がいる?
全国各地から集まる研修生たちは、新規就農希望者と親元就農がおおむね半々です。トマトが中心ではありますが、過去にはイチゴ、キク、花きの施設栽培の後継者が受講された実績もあります。農業経験や知識がなくても大丈夫?
研修生には、農業高校や農業大学校などで農業を学んだことがある人から、まったくの未経験者までさまざまです。研修に来てほしい人は?
トマトパークアカデミーは、50歳以下の心身ともに健康な人であればどんな人でも入校できます。その中でも、充実した研修を送り、卒業後に経験を生かせるのはどのような人なのでしょうか。やる気や野心がある人
トマトパークアカデミーでは、月〜土曜日までの週に6日研修があります。また、経験を積むための実習時間も長く確保されています。ハウス内が高温になる夏場などは環境的にもハードです。毎年8月に入校して作業に慣れてきた1〜2月あたりは単純作業につらさを感じる研修生もいて、決して楽な研修ではありません。充実した研修期間を過ごし、その後の営農に生かすためにも、「施設園芸の世界で頑張ってもうけたい」などの何かしらのやる気や野心があることが大切だと杵渕さん、田中さんは言います。生き物を育てるのが好きで農業に意義を感じる人
一方、環境を制御した施設園芸であっても、生き物である植物を育てることが好きな人が向いているそうです。施設園芸をお金もうけの手段としてだけ考えるのではなく、作ったものをほかの人に食べてもらいたい、農業に携わりたいという気持ちや意義を持っていることも、実りある研修期間を過ごすためには重要です。トマトパークアカデミーに入るためには?|入校条件や費用、コース内容など
全寮制のトマトパークアカデミーに入校する場合の条件や費用、1年制コースと2年制コースの違いなどについて説明します。入校、卒業時期
毎年、定植時の8月に入校し、収穫・片付け終了後の翌年7月に卒業です。2年制コースの場合は、翌々年の7月に卒業となります。費用
年間で132万円(税込)の費用がかかります。費用には、研修費、寮費、食費(月〜土曜日)、作業着代、万が一ケガをしてしまった場合の保険料などが含まれています。健康保険の切り替えは不要です。また、トマトパークアカデミーは、全国型教育機関として認定されているため、就農準備を支援する資金として年間150万円を受け取る農業次世代人材投資事業(準備型)への申請が可能です。入校条件
50歳以下の心身ともに健康な人であれば誰でも入校できます(定員18名)。研修コース
トマトパークアカデミーには、1年制コースと2年制コースがあります。スタンダードコース(1年)
例年10名程度が研修を受けるスタンダードコースでは、基本的には作業を分担しながら栽培をすることが主な内容です。個人が自由に栽培してよい区画も準備されており、環境制御の設定や使用する資材、品種などは定められたものを使いますが、一列単位で自由に作業を試すことができます。マスターコース(2年)
毎年1名程度が進むマスターコースでは、1年目で得た知識と技術をもとに、1部屋(10a)を一人で管理をします。具体的には、品目・品種の選定、施肥設計、農薬の選定、環境制御の設定、栽培計画の策定、パート従業員への作業指示など、より卒業後に近い環境での実践的な研修を行います。トマトパークアカデミーの基盤であるトマトパークは技術を発信し、利益を出す姿を見せ、卒業生たちとの協業も
技術、情報発信、教育の三本柱で施設園芸を盛り上げてきたトマトパーク。今後も施設園芸を持ち上げる役割を追求し続けることこそが、トマトパークがこれまで歩んできて、これからも進んでいく道だと杵渕さんと田中さんは話します。トマトパークで得た知見を栃木と徳島から情報発信を続ける
2020年8月より、徳島県でも株式会社トマトパーク徳島として次世代型トマトハウスを運営しています。研究開発拠点としての役割を持つトマトパークでは、得られた研究結果や新たな知見を施設園芸業界や施設園芸に取り組む生産者たちに発信し続けます。農地所有適格法人として利益を出すために業務用トマトの栽培も
農地所有適格法人の株式会社トマトパークは、トマトを販売することで従業員に給与を支払っています。現在は、利益を確保するためにも業務・加工需要に適したトマトの品種も栽培しています。それだけでなく、今まで輸入品で占められていた業務用の加工トマトを国産に切り替えることにも意義を感じながら事業を進めています。トマトパークアカデミーの卒業生たちと一緒にビジネスをする構想も
株式会社誠和と共同で、将来的にはトマトパークアカデミーの卒業生たちとネットワークを組み、情報交換だけでなく共にビジネスも行えるような事業の構想も立てています。観察眼・知識・技術という道具を使って考える力を身につけよう
トマトパークには、国内最高レベルの施設園芸の設備や栽培ノウハウがあります。講義についても、それぞれの専門家から基礎的な知識を学ぶことができます。ただ、栽培のための知識や技術を身につけただけでは、実際の現場で経営に落とし込むことはできません。そこで、トマトパークアカデミーの研修には「自分で考える」ことをクセづけるためのカリキュラムが随所に組み込まれています。研修生たちはトマトパークアカデミーを卒業するころには、観察したデータ、数値のデータをもとに、知識や技術を組み合わせながら経営や栽培の方向性を自分自身で考えられ、現場で生かせる力になるのでしょう。