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【就農体験談】トマト栽培・販売計画を徹底的に作り込み、学びを忠実に再現して初年度から計画通りの売上|江戸崎トマト 飯沼学さん

農業大学校を卒業後、れんこん三兄弟、久松農園での勤務、研修を経て、2020年に新規就農した茨城県稲敷市の江戸崎トマトの飯沼学さんにインタビュー。就農前研修中には、ハウス建設会社や野菜販売会社でのアルバイトも。新規独立に憧れがないからこそできた、徹底的な栽培、販売計画の立案。模倣により再現性を高め、初年度から計画通りの収入を得るきめ細やかな作り込みにせまります。新規就農者を考える人への手引きにも。


江戸崎トマト

撮影:紀平真理子
江戸崎トマトの飯沼学さんは、2020年に新規就農し、茨城県稲敷市で中玉トマトとミニトマトを栽培し、スーパーマーケットのインショップ(ショップインショップの略称で、スーパーマーケット内などの一角で売場を設置して、自らが配送、陳列するやり方)で主に販売しています。

ご自身で、キラキラじゃない新規就農者と語る飯沼さんは、独立にあたり、数々の経験をベースにした徹底的な栽培・販売計画を作り込みました。また、研修時に詳細にリサーチを続け、技術ややり方を模倣し、再現性を高め続けています。飯沼さんのこれまでや新規就農時の検討事項は、多くの新規就農者の指南書になるでしょう。

話を聞いた人

飯沼学
撮影:紀平真理子

江戸崎トマト 飯沼学さんプロフィール
1985年 兵庫県に生まれる。
2010年 茨城県の農業大学校へ入学
2012年 株式会社れんこん三兄弟に入社
2016年 株式会社久松農園に入社
2年間のトマト農家での研修と、ハウス建設会社、野菜販売会社でのアルバイトを経て
2020年 茨城県稲敷市で新規就農


農園名/所在地江戸崎トマト/茨城県稲敷市
栽培面積10a(ハウス)
栽培作目中玉トマト、ミニトマト
販路6~7割はスーパーマーケットのインショップ販売(10店舗と契約)、週一回の直売
家族構成妻、子ども2人(妻は別の仕事)
従業員数パート3人
就農時の年齢35歳

茨城県での新生活のために農業大学校へ

江戸崎トマト
写真提供:飯沼絵梨香
兵庫県出身の飯沼さんは、茨城県出身の女性(現在の妻 絵梨香さん)との結婚を考え、茨城県稲敷市へ引っ越すことを決めてから、農業との関わりが始まります。
飯沼学さん
飯沼学さん
茨城で就職先を探していたときに、同時に受験した全寮制の農業大学校に受かりました。そのころ、運送業などでアルバイトをしていたのですが、社員の人たちが現場から事務へ異動する様子などを見て、僕はずっと現場がいいな、と思っていました。兼業農家でお米を作っていた彼女の実家で農業を仕事にできるかもという甘い期待もあって、進学を決めました。

就職する形で農業へ|栽培だけでなく業務改善にのめり込む

れんこん栽培
写真提供:飯沼学
農業大学校では「お米コース」を選択した飯沼さんですが、大規模大豆や落花生、サツマイモ、また試験的にカリキュラムに含まれていたレンコンについても学びました。
飯沼学さん
飯沼学さん
稲敷市で寒い時期に上半身だけ出して作業をしているレンコン農家を見て、興味を持ちました。休暇中にアルバイトにも行きました。「レンコンは2haで食べられるらしい」と聞いて、あまり深く考えず、同規模の兼業稲作農家もレンコンに変えればいいと思っていました。

給与をもらいながら農業ができると思っていなかった

飯沼さんは農業大学校を卒業後、レンコン栽培をするためには、新規就農しか方法が思い浮かばず、就農準備を進めていました。しかし、書類が通らなかったこと、親族からの反対を受けたことで独立を諦めました。

レンコン栽培が盛んな茨城県ですが、「レンコンは大変だ」と話す人が多かったと言います。飯沼さんの中でそれは本当なのかと答えを見つけたくなっていた折に、アルバイトをしていた株式会社れんこん三兄弟から声をかけてもらい、社員第一号として働き始めました。
飯沼学さん
飯沼学さん
お給料をもらいながら農業ができると思っていませんでした。待遇にも、仕事内容にも大満足で、余暇も楽しんでいました。独立したいという気持ちはまったくなくなりました。

株式会社れんこん三兄弟についてはこちら

教える立場になって業務改善にハマった

2年目のときに飯沼さんのほかにも従業員が入社し、仕事を教える立場になります。
飯沼学さん
飯沼学さん
あうんの呼吸で覚えていたことをほかの人に教えるためには言語化した方がいいと、業務改善に取り組みました。自分がやれることはたくさんある!と初めて思えた瞬間で、実績や効果はわかりませんが楽しかったです。

業務改善の知識を深めに久松農園へ|栽培の成功失敗の理由を探し求めた

飯沼学
写真提供:飯沼学
もっと業務改善のやり方や知識を学びたい、ほかの作物も栽培してみたいという理由などによって飯沼さんは転職を決意しました。「久松農園しか知らなかった」という理由で門をたたき、転職に至りました。働いてみると、久松農園の段取りを、入り込んで触ってみることができて楽しかったと言います。畑でそのまま野菜を食べておいしさにも感動しながら1年目を過ごします。

株式会社久松農園の関連記事はこちらから
久松達央さんのジツロク農業論

管理された環境で栽培し、植物生理を追究すれば答えが見つかると思った

必死に栽培を覚えた1年目を終えるとある疑問がわいてきました。天候などの外的要因に対して弱すぎる露地での多品目有機栽培では、「今年はなぜこの作目はうまくいっているのか、なぜうまくいっていないのか」が明白にわからず、そこに引っかかってしまいました。
飯沼学さん
飯沼学さん
同時期に施設栽培の管理された環境の中で、単品目でいろいろな資材や手段を使っている生産者を見に行く機会がありました。可能な限り環境が管理された状態で栽培すれば、植物生理もすっきり理解でき、今抱いている疑問が解消される、そこに答えがあるって思っちゃったんです。

「独立したくない気持ち」を妥協して新規就農へかじを切る

新規就農トマト
写真提供:久松達央
2018年ごろから抱いていた疑問の答えを見つけるために、久松農園に所属している間も全国各地の施設園芸生産者を見て回りました。答えを見つけることが最優先で、独立の気持ちは起こりませんでしたが、そんな気持ちの同僚がいたら嫌だろうと考え退社を決意したそうです。

やりたいことを経営に落としこむと、できる規模や作型は決まってしまう

先輩生産者たちに、施設栽培で新規就農する場合に必要な金額や参入障壁など教えてもらったうえで、全国の施設栽培の視察や見学をしながらそれらを一つずつ確認していきました。そのうちに、やりたいことを実現するために経営に落とし込むと、できる規模感や投資できる金額で作目や作型が決まってしまうことがわかりました。

飯沼さんは、当時はオランダの施設園芸を皆が目指すべきで、それ以外はそこに達することができなかった人たちだと思っていましたが、現場を見ていくうちに、最先端のものを見ようとしない人と、見ているけれど選ばない人、選んでいてもキットとして手に入れていて実は本質を見ていない人がいることがわかりました。
飯沼学さん
飯沼学さん
投資が少なくて、売上が上がればそれでいい。僕は、見て、理解したうえで適したものを選択することが大切だと考えました。

転職ではなく新規就農に至った理由

今でも独立したくなかったと語る飯沼さんが新規就農の方向へかじを切れたのは、同僚に相談しているうちに、転職したとしても新たに生じた疑問の答えを探し続けること繰り返すだろうと思ったことも大きいと言います。
飯沼学さん
飯沼学さん
独立をゴールに設定している人にしか、先輩生産者や協力者が教えない情報があることもわかりましたし、自分の責任において、独立してやっている人にしか見えない何かがあるのではないかと思い、転職の選択肢はなくなりました。

トマト栽培の師匠に弟子入り。建設現場の職人と野菜販売会社のアルバイトも

江戸崎トマト
写真提供:飯沼学
独立の方向へ歩き出した飯沼さんは、自分にとって適切だと考える栽培方法と販売方法をしている師匠のもとに弟子入りします。その品目がたまたまトマトでした。また、研修と同時並行でハウスを建設する現場の職人と、野菜をスーパーの産直コーナーなどに販売する会社でのアルバイトも始めました。

キラキラじゃない新規就農者は、研修中に情報収集に徹し、逆算して作り込む

長い間農業に携わってきたこともあり、現実を知って夢みがちではないと飯沼さんは話します。
飯沼学さん
飯沼学さん
栽培方法の選択、販売方法まで、現実的な規模にして、身の丈に合わない投資はしないように組み立てました。やれることから現実的に逆算して作り込んでいきました。

研修先の師匠は居抜き施設を自分で移設したので、自分にもできるだろうとハウス付きの居抜き物件を探し続けたと言います。しかし、物件を見つけられなかったことに加え、ハウスの建設現場のアルバイト先で情報を集めていくうちに、ハウスの設計も以前より改善されていることや、居抜きでは融資を受けられないことなどを知りました。居抜き物件で初期投資を少なくして始めることにもなんらかのリスクがあることがわかり、ハウスを新設することにしました。

新規就農の最後の一歩を踏み出せたのは「独立する」がお題になったから

研修先やアルバイト先で、仕組みを聞いているのは楽しかったと飯沼さんは言います。しかし、実際自分でやるには大きなハードルがいくつも立ちはだかっていました。
飯沼学さん
飯沼学さん
いろいろな人に助けてもらいながら実現できる方法を探していたのに、「やっぱりやめます」とは到底言えないという理由で、独立の準備を進めていた時期もありました。最終的に独立できたのは、自分の中で独立をゴールに設定し、今までやってこなかった「決定していくという作業」を、一個ずつつぶしていきながら進めることに心が決まったからです。

妻の絵梨香さんも、「まわりからはいろいろな意見がありましたが、何をやるのかは決まっていないくても、ぐるぐる考えていたことが一つの終着点にたどり着いた感じがしたので、見つかってよかったねと思いました」と話します。

師匠の真似をして完璧に再現。1年目から計画通りの収入

江戸崎トマト
写真提供:飯沼学
2年間の修行期間、飯沼さんは研修先とアルバイト先でとにかく模倣して技術ややり方を習得することに努めました。2020年に独立し、1年目を終えた今、大きな枠組みを真似できたことで、収量も計画以上、スーパーへの販売額が売上の半分以上を占め、収入も計画した通りだったと話します。しかし、課題も見えたと言います。

販売面の課題|流通をすべて自分で担う善し悪し

アルバイト先だった野菜の販売会社で教えてもらったスーパーマーケットなどのインショップでの販売方法は、新規就農者には合っていると飯沼さんは考えます。一方、アルバイト先のやり方の再現を試みる中で、個人生産者取り組む場合の課題も見えてきたと話します。

インショップ販売のメリット
・契約のしばりが少ないので、持っていきたいときに、どれだけでも持っていくことができる
・トマトの産地ではなく、市場流通のように物量が多くなくても経営が成り立ちやすい
インショップ販売の課題
・梱包(こんぽう)、配送、陳列など流通をすべて自分で担っているため、コストが負担になる
・一生産者の物量では、スーパーマーケットの本部などと置き場所などの交渉は難しい


経営の課題|予定通りに進めるよう自分自身に指示を出す

自分が働き過ぎていることを経営するうえでの課題と捉えている飯沼さんは、2年目は効率化のために仕事の予定立てや段取りを自分自身に対して作ってみようと考えています。
飯沼学さん
飯沼学さん
1年目は忙しく、目の前の仕事をやり続けていました。僕は感覚で動けず、事前に準備が必要なタイプなので、2年目は予定を立て、自分自身に指示を出してみようと思います。

独立しなければ見えなかったもの

トマト新規就農事例
写真提供:飯沼学
指示を出してもらい、誰かの責任下で、自分でものごとを判断することを長い間していなかったと話す飯沼さん。新規就農したことで「これは乗り越えられないぞ」と思うことも起こっていると言いますが、同時に、独立した人にしか見えない“何か”も日々感じていると話します。

目的が「答え合わせ」から「現場を回す」へ

今までは準備や計画の時間をもらって、実行し、答え合わせをしていました。飯沼さんは疑問の答えあわせするために独立した側面がありましたが、実際にはじめてからは実行の連続で、現場を回すことを優先できるようになりました。

すぐに解決できない問題に向き合えるようになった

今までは、疑問を持つと翌日にでも答えの方向へ走り出したいと思っていましたが、経営者には翌日では解決できない問題がたくさんあって、何年もかけてそれらをつぶしていっていること、その状態になることこそが独立することだとわかったそうです。

すぐに解決できなくてもいいと思えるようになったのは、販売についても同様です。「飯沼さんのトマトのおかげでトマトが食べられるようになりました」と言われたときに、昔なら成分の説明からはじめたり、「今の時期はそんなに…」などと思っていたそうですが、今は素直に「ありがとうございます!」と言えるようになりました。
飯沼学さん
飯沼学さん
自分が今納得できない、解決できないことより、もっと大事なことがあることがわかりました。現場がちゃんと回っているとか、お客さんが納得してお金を出してくれている状態であればいいんです。自分が納得できるように技術を磨いて頑張ることは、また別の仕事だと考えられるようになりました。

計画通りにいかないことがあると知った

飯沼さんは緻密に計画立て、計画に沿って忠実に実行を重ねてきました。しかし、独立後は必ずしも計画通りにいかない問題にも直面しています。独立後は「止まっていても仕方がない」と気持ちを切り替え、強制的に計画が変えられることで何か新しい発見するかも、ということをモチベーションにできるようになりました。

データを取って、残していくことがモチベーションに

れんこん三兄弟、久松農園、研修先などで経験し、与えてもらった情報やデータを使って失敗を回避するための緻密な計画を立て遂行していると、飯沼さんは言います。そして、自分が失敗してやめたくなったときに、なぜ問題が起こり、どのように対処したのかをデータとして残していくことが農業を続けるモチベーションになっていると話します。
飯沼学さん
飯沼学さん
問題が起こったときに、自分の一存ではやめられないのが独立です。僕は、「危機を乗り越えてやったぜ」ということに喜びを感じるスーパー社長タイプではありません。スーパー社長はその人がすごいのであって、情報を受け取る側もスーパーマンでない限り、再現性は低いと考えています。スーパーマン以外の人のために、経営を続けてデータを残し続けていけば、なにか意味を持つのではないかと考えています。

今まで出会ってきた人たちの思考回路も真似て解決策を見出す

江戸崎トマト
写真提供:飯沼学
飯沼さんは何か問題が起こり困ったときや、疑問が生じたときに、データはもちろんですが、今まで出会って、一緒に仕事をしてきた人たちの中から、その答えを持っていそうな人を頭に思い浮かべ、「あの人だったらどうする?」と思考回路を真似たり、その人たちの言葉を思い出したりして解決の糸口を探ります。長い期間、疑問が生じたら、さまざまな場所で答えを探し求めてきた飯沼さんだからこそできることです。

現在、詳細なデータを記録し、つまずきに対する解決方法の言語化を試みる飯沼さんは、近い将来、新規就農者が困ったときに頭に思い浮かぶ経営者になっているでしょう。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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