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ここでは、地域の中で生産者と消費者が結びついてお互いに助け合う、持続可能なフードシステムとして注目を集めるCSA(地域支援型農業)についてお伝えします。
CSAとは何か|その意味と特徴
CSAとは
CSAとは、「Community Supported Agriculture」の略で、日本では一般的に「地域支援型農業」と訳され、地域の生産者と消費者がともに生産のリスクとその収穫物を分かち合うことを意味します。CSAは、生産者と消費者がお互いに暮らしを支え合う農業のかたちです。「Community」
単なる地理的な地域を指しているのではなく、価値観や思想を共有している、リスクを分かち合うという意味も含まれています。「Supported」
支援の方法はさまざまですが、CSAの特徴として、収穫物とその代金だけでなく、栽培中のリスクも分け合うという特徴があります。例えば、天候の影響で収穫がなくなった場合、売り上げがなくなるというリスクを生産者と消費者がともに負担するということです。「Agriculture」
単なる地域で行われている農業を指しているのではなく、地域を持続可能にする環境に配慮した栽培がのぞましいとされています。CSAの特徴
CSAの規模や形態はさまざまですが、一般的には、農場と消費者が結びつき、消費者は代金を前払いして、生産者は野菜の詰め合わせなどの農産物を定期的に供給します。消費者が農場に足を運んで農作業や収穫などを行うケースもあります。CSAの特徴
1. 生産者と消費者が直接的に結びつく
2. 消費者は年間契約をして、前払いで収穫物を購入する
3. 生産者は収穫物を詰め合わせて提供する
4. 消費者は自分で野菜を引き取りに行く
5. 消費者も農場の運営(農作業、収穫物の分配作業、作付け計画など)にかかわる
CSAの誕生|アメリカで発展し、世界に広まる
CSAに近い取り組みとして、日本では1970年代から、有機農業運動で「産消提携」が実践されていましたが、CSAの取り組みの出発点として知られているのは、1986年に取り組み始めたアメリカ北東部の2つの農場です。この2つの農場はそれぞれ、ドイツ、スイスの農場の影響を受けて設立されたといわれています。しかし、CSAの取り組みはアメリカで広く普及し、現在ではアメリカの取り組みとして紹介されることが多くなりました。世界的にみるとフランス、イタリア、スペイン、中国、韓国などにもCSAの取り組みは広がっています。日本国内では、平成11年(1999年)版『環境白書』に取り上げられたことから、知られるようになっていきました。令和2年(2020年)に農林水産省が公表した『食料・農業・農村白書』にも消費者と生産者の関係強化の事例としてCSAが紹介されています。
CSAの目的|現代のフードシステムに対抗して
CSAの目的の一つは、生産者と消費者が協働して、持続可能な食料供給の仕組みをつくることです。経済のグローバル化が進み、生産から消費までの過程が複雑になった現代の食料供給の仕組みに対し、CSAは、生産者と消費者の距離を近づけて、新たな関係性を構築する動きだといえます。また、生産者と消費者が連帯することで、持続可能な地域社会の実現や、小規模農家の地位向上も目指しています。CSAを実践するための3つのポイント
CSAの実践には、次のようなことが必要です。1.生産者と消費者の関係づくり
生産者と消費者が信頼のおける関係を作る必要があります。コミュニケーションの場を持ちながら、CSAというコンセプトを生産者と消費者の双方が理解し、お互いに支え合うという気持ちを持つことが大切です。2. 環境や安全性に配慮した農法の実践
CSAでは、地域の持続可能性が一つのテーマとなっています。有機農業など、消費者が安心して会員になれる農法がとられていることが期待されています。3. 一定の品目数を安定的に栽培する
会員に定期的に収穫物を提供できるように、ある程度の品目数を安定して栽培することが求められます。複数の農家で協力して運営するのも一つの方法です。CSAのメリット|生産者と消費者それぞれに
CSAには、生産者と消費者に顔の見える関係ができるというメリットがあります。そのほか、生産者と消費者のそれぞれにメリットがあります。生産者のメリット
1. 収入が安定する
CSAでは、会員が1シーズンの代金を前払いで支払い、消費者がリスクを共有するので、天候などにより収量が減ったとしても生産者は安定した収入を確保できます。2. 収穫物が無駄にならない
多くの作物が一度に多く収穫できたり、規格外品があったとしても、会員に分配することで無駄なく活用することができます。また、病害虫による被害を発見したり、台風などによる被害が出そうな場合、早めに収穫して会員に分配することで大きな被害を抑えることができます。3. 消費者と直接話ができる
自分が栽培した生産物を直接渡すことができるので、栽培のストーリーやおすすめの食べ方などを伝えることができ、生産物の価値を高めることができます。また、消費者からの声を聞くことが励みになったり、栽培計画の参考になったりすることもあるでしょう。消費者のメリット
1. 新鮮な生産物を食べることができる
地域の生産者から直接購入するため、新鮮な収穫物を食べることができます。2. 生産者と直接話ができる
残留農薬など、食の安全について関心が高まる中、生産者と顔の見える関係を築けることは安心につながります。3. 畑を訪れることができる
自分の目で、生産現場を確認することができることは安心につながるほか、農業体験は楽しみの一つになるかもしれません。CSAの課題|理念の共有と運営方法
CSAには生産者、消費者それぞれにメリットがあり、持続可能な地域づくりに役立つものですが、日本で普及するには課題もあります。CSAのコンセプトの浸透
生産者と消費者が生産物の受け渡し以外に、リスクとコストを分かち合うという理念を共有することが最も大きな課題といえます。また、日本の農産物の取引では、消費者が直売や通信販売で直接農家から購入することはあっても、多くは商品と引き換えに支払いをする方法がとられています。消費者がCSAの理念を理解するとともに、前払い方式の契約に慣れることも重要なポイントです。会員の募集と関係の維持
生産者や消費者がCSAを始めたいと思っても、両者を結びつけるものがなければ、CSAを始めることは困難です。欧米にはCSAを支援したり、農家間のネットワークづくりを支援する団体などがあり、CSAの普及に貢献してきました。日本でもコミュニティコンポストなどを企画・運営する株式会社4Natureと、ファーマーズマーケット株式会社が共同で、堆肥から野菜へ資源循環を実現するCSAを開始するなど、新しい動きが出てきています。また一度会員になった人が継続しなければ、常に会員を探さなくてはなりません。CSAの取り組みを継続したいと思うような、消費者とのきずなづくりや、消費者が利用しやすいシステムを導入するなど、運営の工夫が求められます。
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安定的に野菜を生産する難しさ
年間を通して数種類の作物を生産し続け、定期的に配布することは、特に経験の浅い農家にとっては、プレッシャーを感じるかもしれません。そのため、会員と相談しながらしっかりした栽培計画をたてたり、CSA以外の販路は柔軟に対応できるものにするなど、CSAを継続できる営農スタイルを模索する必要があります。また、いくつかの農家が連携して取り組む方法もあります。野菜の受け渡しの手間
生産者は野菜の詰め合わせを作って会員数分用意する必要があり、消費者は受け取り場所まで野菜を取りに行かなくてはなりません。生産者にも消費者にも受け渡しの手間がありますが、特に消費者は忙しい日々の中で、決まった日時に野菜を取りに行くということに負担を感じる人もいるでしょう。例えば、住んでいるところが近い会員同士でグループを作って代表者がまとめて受け取るなど、手間を減らす工夫を検討する価値はあります。持続可能な農業と地域をつくるCSA
⽇本では安⼼安全な農作物がスーパーマーケットなどで⼿に⼊りやすいこともあり、欧⽶に⽐べCSAが普及しているとはいえません。しかし、CSAに近い取り組みとして産消提携や地産地消の取り組みが古くから⾏われており、最近では、産直野菜のインターネット通販も広がりを見せ、消費者と産地がつながろうとする機運も高まっています。その中で、あえてCSAに魅力を感じる人たちは、経済的なメリットや新鮮でおいしいものを食べたいという個人的な欲求だけではなく、食料供給の仕組みや地球環境が持続可能なものであることを願い、自らのライフスタイルで実践しようとしています。生産者と消費者が手を結ぶCSAは、地域の未来を変える可能性を秘めています。