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そのことをふまえて、2019年には、農林水産省はこれまで女性農業者たちが培ってきた知恵を活かし、新規での女性就農者を増やすことを目的として農業女子プロジェクトを発足しました。これをきっかけに、全国各地で地域の女性農業者をつなげる取り組みが実施されています。今回は、静岡県の取り組み事例を紹介します。
参考:日本の農業構造と女性|農林水産省
教えてくれたのは
ひらまつファーム 平松美帆さん
所在地:静岡県浜松市
栽培品目:ミニトマト(18a)、トウモロコシ、リーフレタス、白菜、玉レタス、キャベツ(20a)
雇用人数:パート従業員4名
就農年:平成26年
就農に至った経緯:前職は事務職。結婚前から畑仕事を手伝っており、結婚後は栽培、経理などの事務、一部出荷や配送業務も。現在は、分業制によりミニトマトの栽培を担当。
販売:市場出荷、契約での卸販売、直売所など。昨年、圃場前に直売コーナーも設置。
所属:農業女子PJ(農林水産省)、つながる農業女子会(静岡県西部農林事務所)、ふじのくに農業女子ゆめ未来ネットワーク(静岡県)
ホームページ:ひらまつファーム
静岡県つながる農業女子会について
2015年に設立されたつながる農業女子会は、静岡県西部農林事務所が主催しており、静岡県浜松市など県西部地域と磐田市など中遠地域の40歳代以下の女性農業者を対象としています。毎年メンバーの募集と入れ替えがあり、おおよそ40~50名の農業女子がネットワーク構築と経営向上のために参加しています。つながる農業女子会の主な取り組み内容は、視察、研修会、マルシェの開催です。農業女子メンバーの要望を元に、静岡県西部農林事務所が年間スケジュールを作成し活動しています。2021年は、以下の2つのコースにわかれて募集・活動予定です。
ベーシックコース
先進的な経営体の視察や農業女子の交流会を中心としたコースです。アドバンスコース
税理士や社会労務士など専門家による経理や労務管理の基礎知識を学ぶことを中心とした実践的なコースです。視察先だけでなく道中でも学ぶ
つながる農業女子会に参加しているメンバーの作目は、野菜、果樹、水稲、酪農、茶など多岐にわたりますが、農業女子たちは、視察を通じて栽培技術だけではなく農業経営に直接的または間接的に関わる多くのことを学んでいます。また、視察では道中のバスの座席や、昼食時の席をくじ引きで決めるため、毎回異なるメンバーと同業者の女性同士だからこそ出てくる経理や事務処理、普段は話しづらい税務や福利厚生についてなど共通の悩みを相談し合うことができます。そこでも、経営や問題解決のヒントなどを得られる機会が多くあります。参加メンバーの圃場を見学
つながる農業女子会では、地域で活躍するメンバーの圃場見学を行っています。大規模経営している生産者の視察や、従業員を雇用し、誰でも使いやすいように作業所を整備している農園の見学など見学先もさまざまです。平松美帆さん
5S(整理整頓)の資格を取得している農園の見学もしました。自分の農場にどのように反映するか考えるきっかけになりました。
女性経営者が活躍している農業関連企業の視察
つながる農業女子会は、女性が経営する視察先に限らず、経営のヒントになり得る幅広い視察先を訪問します。通常の視察と比較すると、活躍している女性経営者がいる経営体が多いことも特徴です。視察先は、農園だけでなく、女性役員がいる種苗会社や女性が経営するインバウンド関係の企業など関連企業も多く含まれています。視察に参加するメンバーは、直接的に自身の経営に関係がない視察先であったとしても、自園で活用できる話を見つけ出し、経営改善に努めています。平松美帆さん
視察先で「仕事を単純化することでパートさんのミスが減る」という話を聞き、みんなでショックを受けました。それまでは、パートさんたちはできて当たり前だと思っていたのですが、私たちは多くを求め過ぎていたことに気がつきました。今は、マニュアルの作成やパートさんにわかりやすく伝える方法を考えています。
農業女子だからこそ実現した研修会
年間を通じて女性農業者の役に立つ研修会も企画されています。いずれの研修会も午前中に開催されることが多く、小さい子どもを持つ女性農業者にとって、参加しやすい時間帯に設定されています。事務に関連する実務的な研修会
夫婦や家族で営農している場合、女性農業者が経理や労務管理などの事務業務を担当していることが多く見受けられます。そのため、つながる農業女子会では、経理の基礎や従業員の育成、労働契約、福利厚生など実務的な内容を学ぶ研修会が開催されています。また、GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)やリスク管理などの押さえておきたいトピックに関するセミナーも企画されています。GAPについての基礎知識はこちら
消費者への見せ方に関するセミナー
農業女子ならではの研修会も開催されています。一例を挙げると、それぞれが栽培する作物を持ち寄り、それを材料としてフードコンサルタントの講師が実際に調理、盛り付けをするセミナーです。つながる農業女子会のメンバーは、市場出荷だけでなく、直販に取り組む人も多いため、このセミナーを通じて消費者の購買意欲を誘う「簡単」「ヘルシー」「時短」「SNS映え」などのポイントを押さえたメニューを知ることは有益です。平松美帆さん
自分の野菜をプロに調理してもらったことで、お客さんへの見せ方や食べ方の提案方法などを学びました。
「つながる農業女子マルシェ」から得る学びとは?
つながる農業女子会では、1年に1回その年の集大成として、つながる農業女子マルシェを開催します。研修会などで学んだ接客方法やPOP作成、商品の見せ方を生かして、当日の準備をし、その後の経営発展につなげます。マルシェの準備段階から学びがある
つながる農業女子会の参加メンバーは、マルシェを成功させるために事前にさまざまなセミナーを受けます。例えば、PRポイントの引き出し方や展示方法について商品開発のプロから学んだり、お客さんへの伝え方についてフードコンサルタントの講師から学んだりして、各自がマルシェを成功させるための戦略づくりの参考にします。マルシェを通じて広がるネットワーク
マルシェを開催することで、それぞれの農業経営に還元されるヒントを得ることができます。それだけではなく、何年かマルシェの出展者として参加していると、つながる農業女子会の仲間の中での信頼感関係も強固なものになっていきます。また、つながる農業女子会だけでなく地域の女性農業者とのネットワークも広がっていきます。平松美帆さん
参加メンバー同士が空き時間になんとなく話をしたり、売れない商品があれば、「なぜ売れないか」について話し、お互いにアドバイスをし合います。とてもいい機会ですね。
「つながる農業女子会」から「ふじのくに農山漁村ときめき女性」へ
つながる農業女子会の対象者は、40歳代以下です。しかし、せっかくつながる農業女子会で構築したネットワークを、卒業と同時に途切れさせてはもったいないので、つながる農業女子会を卒業したあとも、地域の女性農業者同士がつながりを持ち続けられるように「農山漁村ときめき女性」という認定制度があります。ときめき女性は、認定時の年齢が60歳以下で農林水産業に従事する女性であれば申請でき、農村漁村の中で優れた技術や感性を持ち、自らの人生を切り開いている女性を静岡県知事が認定しています。「つながる」と「ときめき」の交流
つながる農業女子会と農山漁村ときめき女性は、合同で研修会を開催したり、比較的大きな展示会に共同ブースで出展したりと、発展的につながりを持ち、地域の中で連携しています。どんどんつながるコミュニティ
お姑さん同士が農山漁村ときめき女性で仲間だったり、お嫁さん同士がつながる農業女子会で仲がよかったりと、農業女子プロジェクトに所属することで、家族を巻き込んで地域でつながりができていきます。女性農業者同士のつながりから、旦那さんも巻き込んで経営に関する相談がはじまることもあり、気軽に話し合える相手が増えていきます。平松美帆さん
農業女子のコミュニティに参加する前は、誰とも話さない日がよくありました。会に参加したことで、地元の女性農業者や県の方などさまざまな職種の方と知り合えて、何かあったら頼るところや相談できる人がいると思えるようになりました。地域の女性農業者たちと近況報告をするだけでも、気分転換になり楽しいです。
静岡県全域での取り組み「ふじのくに農業女子ゆめ未来ネットワーク」とは
平松さんは、ふじのくに農業女子ゆめ未来ネットワークの西部地区の世話役もしています。ふじのくに農業女子ゆめ未来ネットワークは、静岡県の管轄で県内の農業女子をつないでいます。静岡県西部、中部、東部にわかれており、合計で60名ほどの女性農業者が所属しています。会の目標は、県内の女性農業者の夢の実現を応援すること、会員が地域社会と連携して新たな価値を創造し、経営発展すること、女性が活躍できる環境作りを進めることを目標にしています。具体的な活動内容としては、交流会や情報交換会、経営発展などに活用できるセミナーの実施などです。平松美帆さん
静岡県全域で集まろうとすると、距離も遠くなかなか難しいのですが、コロナ禍でウェブ会議ツールを使うようになり、県内のメンバーと地域を超えて会話がしやすくなりました。