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今回は、神戸市西区でCSAを実践している有機農家グループ「BIO CREATORS(ビオ・クリエイターズ)」の大皿一寿(おおさらかずとし)さんにお話を伺いました!
社会実験からスタートしたCSA「BIO CREATORS」とは?
教えてくれたのは
「BIO CREATORS」の運営をしている大皿一寿さん。CSAの実際の取り組みについて、詳しく教えてくださいました。大皿一寿さんプロフィール
株式会社ナチュラリズム代表取締役。
2010年に就農した有機JAS認定農家。神戸市西区で「ナチュラリズムファーム」を運営し、妻、研修生2人、従業員1名とともに米、麦、野菜(年間約40品目)を栽培している。
2016年、有機栽培の出荷グループBio creator’sを発足し、CSAの取り組みを開始。ナチュラリズムファームでは、会員への野菜のデリバリーや受付などの事務作業を担当している。
2019年、Kobe Local Beer Project 発足、耕作放棄地を利用した神戸のビールづくりにも取り組んでいる。
BIO CREATORSの概要
2016年に発足した有機栽培農家のグループ。神戸市西区を中心に4軒の農家と2軒のサポート農家で構成されており、「有機野菜が当たり前に食卓にならぶ社会」を目指してCSAに取り組む。会員数は45名(2021年4月現在)。また、将来的に有機栽培農家を増やすための活動として、耕作放棄地を活用し、地域の材料を使った「ローカルビール」醸造プロジェクトを立ち上げた。
BIO CREATORS
外国人のお客さんからの問い合わせが発端
「BIO CREATORS」の発足は2016年。始まりの舞台は、一般社団法人KOBE FARMERS MARKET主催のファーマーズマーケットでした。最初は試験的にスタート
ファーマーズマーケット自体も社会実験としてスタートしたもの。事務局は、地域の農業と消費者をつなぐ新たな試みとして、CSAに参加したい農家と会員を募りました。そして、3軒の農家と9組の会員で試験的に始まったCSA。10週だけやってみると、その期間が終了するころには、ほとんどの会員が今後も続けたいという気持ちを持ったといいます。CSAをもっと身近に!「BIO CREATORS」の取り組み
会員に確認する3つのこと
試験的に始まったBIO CREATORSのCSAへの取り組みは、その後も継続することになりました。大皿さんたちは、CSAの会員になることを希望する人に、次の3つのポイントを確認しています。1. 野菜セットで提供するので、野菜は選べない
2. 料金は前払い
3. ピックアップステーションまで会員が野菜を取りに来ること
旬のものを届ける
旬のものを旬の時期に届ける野菜セット。でも、種類は選べないため用意された野菜で料理を考えなくてはならないのは、会員にとって負担になることがあります。そこで、「BIO CREATORS」では、農家が自分の野菜のレシピを伝えるとともに、料理研究家と一緒に「置き換えレシピ」を発信しています。会員が参加できるイベントを開催
一般的にCSAでは会員が農作業にかかわるケースもありますが、「BIO CREATORS」では、会員が農作業をすることを条件としていません。地域の農業を支えたい気持ちが同じでも、その方法として農作業のボランティアを選ぶ人と野菜の購入を選ぶ人は層が異なると感じているのがその理由。CSAの会員向けには、ファームツアーやお米作りなどのイベントを開催しています。これが「BIO CREATORS」流のCSA。45人の会員がいます(2021年4月現在)。3人の会員はスタート時からの顔ぶれで、会員の約3分の2が次のシーズンも継続します。新型コロナウイルスの影響で自炊する人が増えているのか継続率は高まっているそうです。
生産者としてのCSAのメリット|農業がやりやすい
CSAは前金制がメリット?|BIO CREATORSの場合
一般的にCSAでは、生産者側のメリットとして「前金制」があります。前金制によって、生産者は種や苗を購入したり、先行して設備投資することができるため、経営が安定することがその理由です。しかし、「BIO CREATORS」では、前金制そのものが大きなメリットとなっているわけでないようです。そのため、ナチュラリズムファーム(大皿さんの農園)には会員から前金で受け取った代金の管理と送金の事務処理が発生します。
栽培計画が立てやすい
一方で、会員数が決まっているので計画が立てやすいと大皿さんは言います。作付け会議よりも「思いやり」や「モチベーション」を重視
現在、「BIO CREATORS」は、4軒のコアメンバー農家と2軒のサポート農家で運営しており、そのほかに、淡路島の農家が参加することがあります。そのため会員に提供される野菜ボックスには、各農家からの野菜が取り混ぜて入ります。CSAを始めた当初から2年目ぐらいまでは、メンバーが作付け会議を行ってそれぞれの栽培品目を決めていましたが、今ではその会議をしなくても役割分担ができるようになりました。このような譲り合いによって、「BIO CREATORS」は円滑に活動を進めています。Facebookに投稿されている野菜ボックスの写真を見ると、季節ごとに旬の野菜がバランスよく入り、色とりどりで美しく本当においしそうです。
会社に野菜をお届け!企業との連携でCSAの可能性が広がる
企業ぐるみでCSAに参加
企業ぐるみで「BIO CREATORS」のCSAに参加するケースもあります。1つの企業に複数の会員がいて、その企業に「BIOCREATORS」が野菜を届けることで、会員は自分の会社で野菜を受け取れる仕組みを作っています。中山間地域の農家でも販路拡大のチャンスあり
「BIO CREATORS」は神戸市の農家で構成されており、消費者との距離も近いため比較的CSAに取り組みやすい環境にありますが、大皿さんは、「企業との連携は、中山間地域の農家がCSAに取り組む方法の一つになる」と言います。CSAのハードルを乗り越えるために
煩雑な事務作業を乗り越えるツール
「BIO CREATORS」では、CSAをやってみたいという農家からの問い合わせがあれば、すべてのノウハウを公開して提供していますが、実際に取り組む農家はほとんどいません。大皿さんは、事務処理の煩雑さがその一因となっているのではないかと考え、仲間とともに、ITでCSAの事務処理の煩雑さを解決できるツールを作ろうとしています。CSAを支援する団体
CSAが広がらないもう一つの理由として、農家が会員を見つける難しさがあると大皿さんは指摘します。CSAが日本の農業を守る
CSAと産直販売の違い
農家から直接野菜を買う産直販売と、CSAとの絶対的な違いはどこにあるのでしょうか?大皿さんも、CSA以外で野菜セットの販売をすることがあるそうです。でも、CSAと産直販売は明確にわけて考えています。CSAを広げるための準備
大皿さんはCSAの取り組みを劇的に広げようと考えているわけではないと言います。CSAという言葉自体をまだ知らない人も多く、先の長い話になりそうだという認識も持っています。一方、少しずつ「BIO CREATORS」の取り組みがメディアで取り上げられるようになってきており、情報も集まってきています。「家族の1年分の食」を託す信頼関係
大皿さんは1年分の料金を前払いする会員に、その理由を尋ねたことがあるそうです。当たり前のように手に入っている食べ物が、手に入らなくなることがあるかもしれないという危機感。地域の農業を守っていきたいという気持ち。そんな問題意識を持っている人が、産直ではなく、CSAを選択するのかもしれません。CSAという取り組みが、生産者と消費者を強い信頼関係で結びつけています。