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CSAで農家を応援する人とつながる!神戸市の農家グループ「BIO CREATORS」の取り組み


神戸市西区でCSA(地域支援型農業)を実践している有機農家グループ「BIO CREATORS」の大皿一寿さんにお話を伺いました。CSAにより、消費者と強い絆で結ばれている大皿さん。CSAを始めたきっかけ、生産者としてのメリット、今後の課題など惜しみなく教えてくださいました。

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神山 朋香

大学卒業後、地方公務員として消費者教育や労働福祉の普及事業に従事した後、AGRI PICK編集部に。AGRI PICKでは、新規就農に役立つ情報などを執筆しています。…続きを読む

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bio creators

写真提供:boma(davars)
CSAについて知っていますか?CSAとは、「Community Supported Agriculture」の略で、日本では一般的に「地域支援型農業」と訳されています。その取り組みはファームシェアと呼ばれることもあります。

今回は、神戸市西区でCSAを実践している有機農家グループ「BIO CREATORS(ビオ・クリエイターズ)」の大皿一寿(おおさらかずとし)さんにお話を伺いました!

社会実験からスタートしたCSA「BIO CREATORS」とは?

教えてくれたのは

大皿さんと妻
写真提供:boma(davars)
「BIO CREATORS」の運営をしている大皿一寿さん。CSAの実際の取り組みについて、詳しく教えてくださいました。

大皿一寿さんプロフィール
株式会社ナチュラリズム代表取締役。
2010年に就農した有機JAS認定農家。神戸市西区で「ナチュラリズムファーム」を運営し、妻、研修生2人、従業員1名とともに米、麦、野菜(年間約40品目)を栽培している。
2016年、有機栽培の出荷グループBio creator’sを発足し、CSAの取り組みを開始。ナチュラリズムファームでは、会員への野菜のデリバリーや受付などの事務作業を担当している。
2019年、Kobe Local Beer Project 発足、耕作放棄地を利用した神戸のビールづくりにも取り組んでいる。

 

BIO CREATORSの概要
2016年に発足した有機栽培農家のグループ。神戸市西区を中心に4軒の農家と2軒のサポート農家で構成されており、「有機野菜が当たり前に食卓にならぶ社会」を目指してCSAに取り組む。会員数は45名(2021年4月現在)。また、将来的に有機栽培農家を増やすための活動として、耕作放棄地を活用し、地域の材料を使った「ローカルビール」醸造プロジェクトを立ち上げた。
BIO CREATORS


外国人のお客さんからの問い合わせが発端

「BIO CREATORS」の発足は2016年。始まりの舞台は、一般社団法人KOBE FARMERS MARKET主催のファーマーズマーケットでした。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
神戸市中心部で行うファーマーズマーケットは外国人のお客さんが多いのですが、あるとき外国人のお客さんから日本にCSAはないのか、と問い合わせがありました。その後、ファーマーズマーケットの事務局がCSAを行う農家を探していると知り、面白そうだからやってみようと僕たちが手を挙げたのがきっかけです。

最初は試験的にスタート

ファーマーズマーケット自体も社会実験としてスタートしたもの。事務局は、地域の農業と消費者をつなぐ新たな試みとして、CSAに参加したい農家と会員を募りました。そして、3軒の農家と9組の会員で試験的に始まったCSA。10週だけやってみると、その期間が終了するころには、ほとんどの会員が今後も続けたいという気持ちを持ったといいます。

CSAをもっと身近に!「BIO CREATORS」の取り組み

BIO CREATORSの畑の野菜
写真提供:boma(davars)

会員に確認する3つのこと

試験的に始まったBIO CREATORSのCSAへの取り組みは、その後も継続することになりました。大皿さんたちは、CSAの会員になることを希望する人に、次の3つのポイントを確認しています。

1. 野菜セットで提供するので、野菜は選べない
2. 料金は前払い
3. ピックアップステーションまで会員が野菜を取りに来ること

大皿一寿さん
大皿一寿さん
お客さんにとってハードルは高いと思いますが、意味合いを説明して納得していただいています。

旬のものを届ける

旬のものを旬の時期に届ける野菜セット。でも、種類は選べないため用意された野菜で料理を考えなくてはならないのは、会員にとって負担になることがあります。そこで、「BIO CREATORS」では、農家が自分の野菜のレシピを伝えるとともに、料理研究家と一緒に「置き換えレシピ」を発信しています。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
例えば、ラディッシュとコマツナで焼きそばを作って、キャベツがなくても焼きそばが作れるということを知ってもらいます。こんな野菜でこんな料理ができるんだということがわかって、どんな野菜がきても料理がつくれるようになるとだんだん楽しくなってきます。

会員が参加できるイベントを開催

一般的にCSAでは会員が農作業にかかわるケースもありますが、「BIO CREATORS」では、会員が農作業をすることを条件としていません。地域の農業を支えたい気持ちが同じでも、その方法として農作業のボランティアを選ぶ人と野菜の購入を選ぶ人は層が異なると感じているのがその理由。CSAの会員向けには、ファームツアーやお米作りなどのイベントを開催しています。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
春と秋に行うファームツアーでは、野菜を生産しているところや生産している人をお見せします。お米作りでは、田植え、除草作業、稲刈りのほか、収穫祭という食べるだけのイベントやみそづくりなどを行っています。

これが「BIO CREATORS」流のCSA。45人の会員がいます(2021年4月現在)。3人の会員はスタート時からの顔ぶれで、会員の約3分の2が次のシーズンも継続します。新型コロナウイルスの影響で自炊する人が増えているのか継続率は高まっているそうです。

生産者としてのCSAのメリット|農業がやりやすい

写真提供:boma(davars)

CSAは前金制がメリット?|BIO CREATORSの場合

一般的にCSAでは、生産者側のメリットとして「前金制」があります。前金制によって、生産者は種や苗を購入したり、先行して設備投資することができるため、経営が安定することがその理由です。しかし、「BIO CREATORS」では、前金制そのものが大きなメリットとなっているわけでないようです。


大皿一寿さん
大皿一寿さん
前金制にしているのは、事務作業とデリバリーをしている窓口(ナチュラリズムファーム)までなんですよ。予定していた野菜が生産できなかったときには「BIO CREATORS」のほかの農家がその分をカバーします。前金制にしてしまうと、チーム内でのお金の移動が大変になるので、野菜を納品した月ごとに伝票を集計して各農家に送金しています。


そのため、ナチュラリズムファーム(大皿さんの農園)には会員から前金で受け取った代金の管理と送金の事務処理が発生します。

栽培計画が立てやすい

一方で、会員数が決まっているので計画が立てやすいと大皿さんは言います。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
お客さんの数によって数字が読めるのがいいですね。作付けもCSAを主体に考えると品目数が決まるので、単作の農業をやっているよりもやりやすいような気がします。

作付け会議よりも「思いやり」や「モチベーション」を重視

現在、「BIO CREATORS」は、4軒のコアメンバー農家と2軒のサポート農家で運営しており、そのほかに、淡路島の農家が参加することがあります。そのため会員に提供される野菜ボックスには、各農家からの野菜が取り混ぜて入ります。CSAを始めた当初から2年目ぐらいまでは、メンバーが作付け会議を行ってそれぞれの栽培品目を決めていましたが、今ではその会議をしなくても役割分担ができるようになりました。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
CSAを続けていくうちに、「あの人はあの品目が得意だから自分はやめておこう」というような、仲間を配慮する気持ちが表れて、品目が重ならなくなってきたのです。会議で決められたものを栽培するよりも、自分でほかのひとと重ならないものを見つけて、栽培したいものを栽培する方がモチベーションも高まります。


このような譲り合いによって、「BIO CREATORS」は円滑に活動を進めています。Facebookに投稿されている野菜ボックスの写真を見ると、季節ごとに旬の野菜がバランスよく入り、色とりどりで美しく本当においしそうです。

会社に野菜をお届け!企業との連携でCSAの可能性が広がる

農村の風景
出典:写真AC

企業ぐるみでCSAに参加

企業ぐるみで「BIO CREATORS」のCSAに参加するケースもあります。1つの企業に複数の会員がいて、その企業に「BIOCREATORS」が野菜を届けることで、会員は自分の会社で野菜を受け取れる仕組みを作っています。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
電車通勤の会員が多いので、荷物になるという問題はありますが、今後企業と農家の連携は広がりそうだと思っています。

中山間地域の農家でも販路拡大のチャンスあり

「BIO CREATORS」は神戸市の農家で構成されており、消費者との距離も近いため比較的CSAに取り組みやすい環境にありますが、大皿さんは、「企業との連携は、中山間地域の農家がCSAに取り組む方法の一つになる」と言います。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
今、産直インターネット通販も盛んになって、産地と消費者は簡単につながれます。でもインターネットだと、生産者は出品者全員と競争しなくてはならないし、人より1円でも安い価格にしようとして疲弊してしまう。例えば、企業とつながったCSAをして、30名、50名を会員にできれば一度に配送できて、中山間地域の農家を支援できるのではないでしょうか。そこに正当な価格と応援する気持ちがあれば、CSAは成り立ちます。

CSAのハードルを乗り越えるために

パソコンとタブレット
出典:写真AC

煩雑な事務作業を乗り越えるツール

「BIO CREATORS」では、CSAをやってみたいという農家からの問い合わせがあれば、すべてのノウハウを公開して提供していますが、実際に取り組む農家はほとんどいません。大皿さんは、事務処理の煩雑さがその一因となっているのではないかと考え、仲間とともに、ITでCSAの事務処理の煩雑さを解決できるツールを作ろうとしています。


大皿一寿さん
大皿一寿さん
例えば、お客さんが旅行に行くなどの理由で次の注文をスキップする場合、工程表を変えて対応しているのですがミスが発生することもあります。このような会員のリクエストはシステム上で解決し、農家は必要な野菜の収穫だけに集中できるようになればいいと思ってます。

CSAを支援する団体

CSAが広がらないもう一つの理由として、農家が会員を見つける難しさがあると大皿さんは指摘します。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
アメリカのオレゴン州ポートランドでは、CSAガイドが発行されていて、消費者が多くの農家の中から会員になる農家を選ぶという環境が整っています。農家の中には卵や乳製品も一緒に扱うところもあり、コロナ禍でCSAの人気が再燃して、たくさんの消費者が順番待ちをしている状況です。日本でもNPOのような支援団体がガイドを発行したり、消費者を集めて活動を知ってもらえばCSAが広がるのではないかと考えています。

CSAが日本の農業を守る

ネイバーフード
写真提供:boma(davars)

CSAと産直販売の違い

農家から直接野菜を買う産直販売と、CSAとの絶対的な違いはどこにあるのでしょうか?大皿さんも、CSA以外で野菜セットの販売をすることがあるそうです。でも、CSAと産直販売は明確にわけて考えています。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
消費者がどんな理由でその野菜セットを選択しているかというマインドの違いです。おいしそう、ほしいときにほしいという消費者側のニーズが多いのは産直販売です。CSAのお客さんは、この農家を助けたい、この活動を応援したいと、気持ちが農家寄りにあります。実際、CSAのお客さんからはクレームなんて1回もないんです。それは、多少何か満足のいかないことがあったとしても、その人たちが消化してくれているのだと思っています。

CSAを広げるための準備

大皿さんはCSAの取り組みを劇的に広げようと考えているわけではないと言います。CSAという言葉自体をまだ知らない人も多く、先の長い話になりそうだという認識も持っています。一方、少しずつ「BIO CREATORS」の取り組みがメディアで取り上げられるようになってきており、情報も集まってきています。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
消費者にCSAの取り組みが浸透し、いざ始めたいと思ったときに、農家側に準備ができていないと広げることはできません。農家がCSAに参入しやすくなるようなツールの開発は急いだほうがいいと考えています。

「家族の1年分の食」を託す信頼関係

大皿さんは1年分の料金を前払いする会員に、その理由を尋ねたことがあるそうです。
大皿一寿さん
大皿一寿さん
そのお客さんから、「うちの家族の1年分の食を託しています」と言われました。今の時代、食べ物が手に入らなくなっても不思議ではない。でも、こういうつながりを持っていたら、何かあったときでも優先的に食べ物を回してもらえると思ったと。そのお客さんとは信頼関係にあって食を託されているから、何かあったときに、私が家族の次に誰に食べ物を届けるかといったら、その人に届けると思うんです。


当たり前のように手に入っている食べ物が、手に入らなくなることがあるかもしれないという危機感。地域の農業を守っていきたいという気持ち。そんな問題意識を持っている人が、産直ではなく、CSAを選択するのかもしれません。CSAという取り組みが、生産者と消費者を強い信頼関係で結びつけています。

日本の農業を守るための選択肢

大皿さんは、日本の農業は危機的な状況にあり、守らなくてはならないと考えています。実際に、2000年に233万7千戸あった日本の販売農家数は、2020年には102万8千戸にまで減少しています。(参考:農林水産省「農家に関する統計」
大皿一寿さん
大皿一寿さん
価格競争が農業を疲弊させています。直売所では、長年農家をやってきた生産者が年金を受給しながらとても安い価格で商品を売っています。その隣に新規就農者が出品し価格競争しても勝てなくて、苦しくなって農業を辞めてしまうようなことが起きています。でも、CSAで農家を応援してくれる人とつながれば、理不尽な競争をしなくていいのです。

生産者と消費者が共有するもの

木漏れ日
出典:写真AC
大皿さんは「有機農業をもとに身体と環境にやさしい野菜づくりを行い、有機農業を広く普及させていく」を経営理念としながら、これからも農業を続けていくつもりです。CSAについての情報をすべてオープンにして提供する姿勢は、自分や仲間たちだけではなく、日本の農業全体を見渡して必要な選択肢を提示しているように見えました。生産者と消費者が共通の問題意識を持ってCSAに目を向けるとき、日本でCSAが大きく普及することになるのではないでしょうか。


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