これまでの「ハッピーファミリーファーマーズ日記」
次々とやってくる「移住希望者」
この数カ月で、我が家だけでも5組ほど「南阿蘇に移住を考えているんですけど…」という本気モードの来訪者が来ています。数年前から南阿蘇村も移住定住の窓口をつくっていて、聞いたところによると空き家バンク(住める状態の空き家を登録してあるデータバンク)には500人を超える登録者がいるとか。ワオ!実はかれこれ20年ほど前から「かつて、”金のタマゴ”と呼ばれた若者たちが、満杯の汽車に乗って都会に向かった逆の現象が起きる日が来るはず」と思い続けていました。もちろん今は、「満杯の汽車」ほど社会現象になってはいませんが、将来的には教科書に「新型コロナウイルスの世界的流行をきっかけに、日本では田園回帰現象が起きた」と書かれる気がします。
密を避けるため屋外で対応
とはいえ、まだ渦中なのと、こちらも移住促進を仕事にしているわけではないので、私たちの暮らしぶりを遠まきに見て、直接話すときは距離をとってマスクを着用。暑い時期は、近くの水源から汲んで来た天然水を出すことはありましたが、基本的にはお茶も出さないし、一緒に食事はしない。そんな最低限のサービスしかしない窓口な割に、「〇〇さんからの紹介を受けて」とか「記事を読んで」とかさまざまなルートで人が訪ねて来てくれるのは、やはりありがたいことだと思います。移住しようと思ったとき、実際に移住した人の話を聞きたい、というのは自然な欲求でしょうから。
「空き家」や「古民家」も住めば都!?
我が家は築140年を超える古民家暮らし。夫の祖父母や叔父が住んでいた家で、熊本地震が発災する直前に、それまで住んでいた同じく築130年超の古民家から引っ越しました。4年前のことです。最初に住んでいた古民家は、後継者がおらず、売ることも貸すこともできずに数年が経っていた空き家でした。叔父が話をつけてくれて、お隣さんのよしみで貸していただけることになり、東京から移ってきたのが2003年の春。
雨漏りはするわ、イタチは住みついているわ、風呂はないわ、汲み取り式のトイレだわ、仏壇は残っているわ…。今思えば「よく住んだなぁ」と思うような物件でしたが、住めば都とはよく言ったもの。
結果的には13年もそこに住み、たいていのセルフリノベーションの技は身に付きました。隣り合わせの家に引っ越してからも、毎年1部屋ずつリノベーション。都会のマンションで育った私にとっては、想像もつかなかった暮らしがここにはありました。
楽しい田舎暮らしを続けていくために ~「気軽に移住」のススメ~
もちろんある程度の苦労もありますが、それもすべて含めてやっぱり楽しい田舎暮らし。18年も経ってマンネリ化するかと思えば、まったくそんな兆しはありません。私たちの暮らしぶりを見に来る人たちに、日々「南阿蘇はいいよ、楽しいよ」と伝えることで、自分自身が洗脳され続けている感じです(笑)。いいとこだよなぁ、やっぱり、みたいな。
ただ、住むからには、その楽しさや農村の自然や風景や文化の恩恵を受けるだけでなく、それを守ったり良くしたりする努力をお願いしたいです。新たな「都市(住民)による田舎の搾取」にならないために。
もちろん、移住してみて「イメージと違った」とか「こんなはずじゃなかった」ということもあるでしょう。そんなときは、また引っ越せばいいんです。結婚だってやり直しがきく昨今。田舎暮らしが気になっているなら、コロナ禍の終息が見通せない中、いったん移ってみればいいんじゃないでしょうか。
熊本に移住したくなったらチェック!
地域おこし協力隊員さんという存在
南阿蘇を気に入って、地域おこし協力隊員として移住してきてくれている皆さんと最近コラボしています。彼らは、「この美しい村を引き継ぎたい、良くしたい!」という想いにあふれていて、自分たちに何ができるかを常に考えてくれています。
税金を使った、地域おこし協力隊という制度への賛否両論はあるでしょうが、私が知っている限り、南阿蘇に来ている協力隊員さんたちは本当に熱意があって、与えられた任務にとどまることなく、いろんなミッションを見つけ出しています。
「すまいるカンパニー」というチーム名で活動を始めた5名の隊員さんたちには、農村の子育て支援に参画していただけることに。彼らが南阿蘇をさらに好きになって、彼らからの発信でさらに南阿蘇を好きになってくれる人が増えてくれますように!
人口減少をなんとかして食い止めないと、「自然豊かな」農村は姿を消してしまいますからね。ハッピーファーマーはもちろんのこと、ハッピー村民が増えていきますように!!
【毎月更新!】月間連載アーカイブ「農業なくして持続可能な社会なし」
【週間連載】家族経営農家の日常を配信「ハッピーファミリーファーマーズ日記」
大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」