目次
「おしゃれじゃないサステナブル日記No.1」はこちらから。
オーガニックはおいしい?
オランダ在住時、有機野菜は価格だけでなく利便性においても手に取りやすく、非常に身近な存在でした。しかし、「有機栽培は人の健康によい」「慣行栽培は人の健康に悪い」という認識は持っていませんでした。それは、周囲の友人たちとオーガニックの話をする時に、「身体にいい/悪い」という議論が出ることはあまりなかったからです。ちなみに「オーガニックはおいしい」という話も聞いたことがありませんでした。有機栽培が環境を守る絶対条件ではない?
では、なぜオランダ人がオーガニック製品を選択するかというと「環境にいいから」です。この理由を5年間も耳にし続けていたことから、「有機栽培の方が慣行栽培より環境にいいだろう」と思い込んでいました。その思い込みに加えて中途半端に農業を見聞きした私は、「慣行栽培は大規模経営」と「有機栽培は小規模経営」や、「慣行栽培は大量単一作物」と「有機栽培は少量多品目」と勝手にステレオタイプに当てはめて考えていました。
ついでに告白すると、「化学肥料より有機物の施肥の方が環境に良い」「農薬を使わない方が環境にいい」と手練れのふりをして持論を展開していた時がありました。
「環境によい農法」という迷いの森を無防備に彷徨う
ある日「有機の方が環境によい」と発言したあとに、一本のメールが届きました。「必ずしもそうとは言えませんよ」
これが分岐点となり、土壌の専門家、生産者の方々の意見や、文献などいろいろなもので調べていくうちに、「環境によい農法とは?」という完全に出口のない(見えにくい)森を彷徨うことになってしまったのです。
有機物ならどれだけ入れても大丈夫は本当?
まずはじめに立ち止まったのは、「有機物は土に分解されるから、どれだけ入れても大丈夫なんだよ」というフレーズです。今までは、「そうそう!」と聞けていたのが、「そう?」と疑心暗鬼に。土壌分析などをもとにした適正量の施肥ではなく、「有機物だから」と堆肥を大量に(10aあたり7トンとか)施用することが本当に環境にいいといえるのでしょうか。
というのも、有機物(特に堆肥)を施用し過ぎると、肥料の3要素のうち窒素やカリに比べて作物の吸収率が低いリン酸が、可給態リン酸として土壌中に蓄積します。硝酸化成作用により硝酸となり、地下水に流出することが考えられます。有機物であっても、化学肥料であっても、量やタイミングを遵守することが大切で「有機物だからどれだけでも大丈夫」はいささか暴論のような気がしてしまいます。
有機物だけで土作りをすることの難しさに震える
また、化学肥料は単肥(窒素だけ、リン酸だけ、カリだけ)も選択できるので、土壌分析のうえ、必要な養分を施肥することもできます。しかし、有機物は単肥もなければ、窒素無機化率(堆肥や肥料に含まれる全窒素含有量の何%が無機化するか)も予測して施肥する必要があると思うと、有機物のみでしっかり土作りをすることのハードルの高さがわかってしまって恐れおののきました。「無条件に有機栽培が環境にいい」と信じていた時より、ちゃんとした有機栽培農家へのリスペクトが増しています。
さらに迷う
こんな感じで、「環境にいい農法とは何か」についてさらに迷走を続けることになります。あらかじめ断っておきますが、これは何かを教えたいのではなく、このモヤモヤに一人でも多くの人を巻き込みたいと思う私の小賢しい策略です。ここまで読んでしまった方は、次回以降もぜひ巻き込まれてください。
「おしゃれじゃないサステナブル日記」は毎週更新!バックナンバーはこちら。
紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate