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【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし森のようちえん「おてんとさん」は、南阿蘇のすてきな幼稚園♪
我が家に4人いる子どものうち、一番下は4歳の女子です。彼女はおととしから、野外保育をする森のようちえんの「おてんとさん」に通っています。今回は農業の話ではなく、農村での子育ての話として、“森のようちえん”について書きたいと思います。ドイツで見てきた「憧れ」の存在
“森のようちえん”というのは、デンマークで生まれた取り組みです。北欧だけでなく、私が1999~2002年に留学していたドイツでも全国的な広がりをみせていました。基本的に園舎は持たず、避難場所だけ確保して毎日森に出かけるのです。「悪いのは天気ではなく服装」という、ことわざがあるドイツ。雨でも雪でも、それにふさわしい恰好で森に出かけます。散策ルートはいくつかある場合が多いですが、子どもたちは繰り返し同じ場所に行くことで、四季の変化や森のルールを体感します。
ドイツの子どもたちが自然の中でのびのびと遊びながら、しっかりと森との付き合い方を覚えていく様子を垣間見て、「いつか私に子どもができたら、こんな幼稚園に入れたい!」と憧れに近い思いを持ったのでした。
森のようちえんならぬ “田んぼのようちえん”
日本に帰ってきて、いざ子どもができてみたら双子の男の子。さらに、ほどなくして三男も生まれました。エネルギーの塊みたいな3人の男児たちを、家の中で遊ばせておいてもろくなことはありません(笑)。息子3人は歩き始める前から、毎日が野外保育。田んぼや畑、山や川で泥んこになってよく遊んでいました。そのころ、南阿蘇エリアには東日本大震災後に関東からの移住者が増え、その中でも豊かな自然の中で子育てしたい家族が集まって、2013年には森のようちえんの活動をスタートさせていました。森のようちえんの存在を知りながらも、息子たちは自宅周辺での私設「田んぼ・畑ようちえん」で十分楽しそうだったのと、通うには隣町まで送迎をしなければいけないこともあり、活動には参加していませんでした。
諦めかけていた女の子を授かったら…
息子たちを「リトルファーマーズ」と呼んでいた話(No.2:就農3年目にやってきた小さな農家たち)は、以前書きました。彼らは田んぼや畑で農作業のまねをし、それに飽きたら3人で自由に遊んでいたので、私は子どもたちがいても農作業をすることができていました。その後、三男と7歳離れた女の子が誕生。私は女の子が欲しかったので心底うれしかったのですが、遊び方が違い過ぎて面食らうことばかり!彼女は田んぼや畑で、服や体に土が付くのを嫌がります。息子たちはそんなこと、気にしたこともなかったのに…。
トラクターやコンバインなどの大型農機具にも興味を示しません。小さいころから牛小屋に行くのは好きでしたが、遊び相手が近くにいないので「お母さん、遊ぼう~」とすぐに甘えてきて、仕事になりゃしない!!
そんなわけで、2歳を過ぎたころに、ついに憧れの“森のようちえん”に通い始めたのです。
毎年進化していく森のようちえん
私が娘を連れて参加し始めたころは、森のようちえんの活動日は週に2日だけ。主にお母さんたちが当番制で先生を務め、月に2、3回ぐらいではありますが、丸1日つぶして森のようちえんに参加するというスタイルでした。でもそれだと農家の母ちゃんとしてはちょっと苦しい。特に農繁期は。そこで、補助金をうまく活用して、保育士さんを週に1回だけ雇って活動日を増やし、しかも預けられる状況を作ることに成功しました。すると、「やっぱり保育士さんに預けられる方がいい!」というお母さんたちの声が大きくなったのを受け、託児サービス事業をするのが前々からの夢だったというご夫婦が、森のようちえん「おてんとさん」を立ち上げたのです。それが2019年4月のこと。
この噂はじわじわと広まり、参加する子どもたちが増えたので、2020年4月からは預けられる日が週3日から週4日に発展。これは、実にありがたい!
自然も大事だけど、鍵は「友達」の存在
「おてんとさん」の子どもたちを見ていると、本当にほほえましい姿ばかり。プロの保育士さんたちに見守られて、子どもたちは次々と自分たちで遊びを創り出していきます。おもちゃは持っていきません。森に落ちているどんぐりや枝、葉っぱやつるがおもちゃです。そして、季節ごとに自生する木苺や桑の実、アンズ、柿などの果物は、見つけておやつに。アトラクションは、水たまりやときどき遭遇するタヌキの死骸などです。それらのアトラクションでひとしきり盛り上がることもあれば、特別なできごとがなくても、遊び相手さえいれば楽しさは100倍!友達が一緒なら、水たまりも最高の遊び場です。農村で子育てするなら、これは理想だな、と毎回感動します。
子どもが小さいうちは、自然豊かな場所で育てるという選択肢
私は都会が嫌いではありません。新型コロナウイルスの感染拡大は怖いですが、美術館やコンサートが選べるほどあるし、たくさんのおもしろい人がいるし、なにより飲みに行っても電車で帰れる。でも、子どもが小さいうちは、「農村での子育て最高!」と心底思っています。排気ガスの少ないおいしい空気や新鮮な農産物が身近にあり、公園はなくとも自然の中でたっぷり遊べますから。世界的に新型コロナウイルスの感染が広がっている今、半年でも1年でもいいので、テレワークやリモートワークをしながら、子どもを連れて農村に住んでみませんか?子どもたちにきっと大きな変化があるはずですよ。
森のようちえん「おてんとさん」の園児たちは月に2回、我が家の田んぼや畑にもやってきます。田植えをし、草取りをし、田んぼで活躍するアイガモをみつけては喜び、秋には鎌で収穫もします。ぜひご検討くださいませ!
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大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」