6次産業化事例インタビュー|北海道津別町でカフェ「ぎゅぎゅ~っとテラス」を営む川瀬牧場 川瀬保子さん

これから6次産業化を考えている農業者に向け、6次産業化に踏み切り継続している事例をご紹介します。北海道で牧場を営む川瀬さんは、妻・保子さんの希望で自宅内にカフェを併設。自牧場で生産したぎゅぎゅっとビーフを使用したホットドック等を提供しています。


カフェのキッチンに立つ川瀬保子さん

撮影:髙橋みゆき
北海道網走郡津別町にてブランド和牛「流氷牛」と交雑種(F1)の「ぎゅぎゅっとビーフ」を生産する川瀬牧場は、自牧場産の牛肉を使ったホットドックを提供するカフェ「ぎゅぎゅ~っとテラス」を運営しています。

毎週土曜日の限られた時間にのみオープンする牧場にあるカフェは、町内外から多くの人が訪れる人気店です。自宅の庭に小さな販売所を設けてホットドックを販売し始めたのが2013年のこと。2015年には自宅を改装し、アットホームなカフェを開店しました。

牧場の代表・川瀬伸一さんの妻で、カフェを切り盛りする川瀬保子さんに、6次産業化までの道のりやカフェの運営の実際についてお伺いしました。

インタビューイー:川瀬保子さん
20歳で川瀬牧場の4代目、伸一さんのもとに嫁ぎ、以来畜産業に従事。子どもの自立を機にファームステイを始め、2013年6月に自牧場の牛肉を使用するホットドッグの直売所をスタート。2015年には自宅を改装しカフェを開業。各種メディアに取り上げられ、2018年には「女性・高齢者チャレンジ活動表彰」を受ける。

川瀬牧場 ぎゅぎゅ~っとテラス
北海道網走郡津別町字豊永214番地2
TEL:0152-76-2596
営業日:土曜日のみ 11:30~16:00

津別町の和牛「流氷牛」を生産する牧場に嫁いで

川瀬さんの牛舎
撮影:髙橋みゆき
ーーはじめに、川瀬牧場が生産している牛肉について教えてください。
川瀬さん
川瀬さん
現在の川瀬牧場では、黒毛和牛の流氷牛と、交雑種(F1)のぎゅぎゅっとビーフを生産しています。流氷牛は、私が川瀬牧場に嫁いですぐのころ、約30年前に夫の父とその友人の農家3戸で生産を始めた牛肉です。
当時、JAでは和牛を取り扱わないということで、「流氷ファーム」という名前で肥育牛生産グループを独自に設立して生産に励んでいました。2020年現在、5戸の牧場が流氷牛を生産する「流氷ファームグループ」に属しています。
交雑種のぎゅぎゅっとビーフは、カフェで使用している牛肉です。これは流氷牛の母牛で、受精卵移植で子牛を産んだ後に肉用牛にして、解体・業者委託にて加工品や精肉パックにしてもらいます。それをホクレンを通して丸ごと買い取ってメニュー食材として使用し、さらに牛肉販売をしています。

ぎゅぎゅっとビーフがカフェで提供されるまでの流れ

川瀬さんの肉牛
撮影:髙橋みゆき
ーーぎゅぎゅっとビーフがカフェで提供されるまでの過程はどのようになっているのでしょう?
川瀬さん
川瀬さん
交雑種(F1)とは、和牛とホルスタインを掛け合わせた牛で元々は肉用牛です。1度お産をさせた後、流氷牛の飼料を与え肥育して肉用牛にしています。以前はお産の回数を決めていなかったのですが、年齢を重ねた母牛の肉は濃厚な味わいと旨みがある一方で、筋張っているため精肉としてパックで販売するとなると、どうしても硬い肉になってしまいます。加工品を作る分には問題なかったのですが。

ところが1度くらいの経産牛だと、もとが肉用牛なので、一般的な肥育牛とほとんど同じような肉質で出荷できるんですね。特に近年ではやわらかい肉質の赤身が好まれる傾向にあるので、和牛用の飼料を与えるなど工夫をこらして、お客様に喜んでもらえるような牛肉の生産に努めています。

川瀬牧場の生産形態

川瀬牧場の形態
図:髙橋みゆき

繁殖牛と肥育牛
肉用牛経営には、繁殖経営と育成経営そして、肥育経営、この3つを1つの牧場が行う一貫経営があります。繁殖農家は子牛を生産・販売し、乳飲み子を10カ月ほど育て販売する育成経営、肥育農家は育成農家が販売する子牛を購入・肥育して肉牛を出荷します。


ぎゅぎゅ~っとテラスを始めた理由|6次産業化のきっかけは

ぎゅぎゅ~っとテラスのホットドック他
提供:川瀬牧場
ーー川瀬さんが6次産業化に踏み切ったきっかけは何だったのでしょうか?
川瀬さん
川瀬さん
本当に始めのころは、6次産業化までは考えていなかったんですが、子育てをしながら「いつか何かをやってみたい」という思いがありました。嫁いですぐに町主催の交流事業で千葉県の子どもたちのホームステイ受け入れを始めました。それがきっかけで、ファームイン事業に参入し津別町グリーンツーリズム協会の会員として活動をしてきました。

ファームステイをしていると楽しくて、そこからはさまざまなことに挑戦しました。その時はハーブやアロマなど牧場経営にプラスになるというよりは、自分の好きなことを優先させてファームインの体験メニューとして活用していました。それなりに楽しんではいたのですが、経営にプラスになることという意味では「少し違うのかもしれない」という思いもありました。

川瀬さん
川瀬さん
そうこうしているうちに、夫が「牧場の牛肉で加工品を作って販売したい」って言いだしたんですね。「これだ!」という感じで、そこでやっと経営にプラスになることを始めるチャンスが拓けてきました。当時、流氷牛を産む繁殖用のメス牛は繁殖できない状態になると廃用牛として出荷するほかなく、肉用牛として生を全うさせたいと気持ちがありました。そこで、繁殖用のメス牛を自牧場で活用しようと夫が思い付きました。


ーー川瀬さんとご主人の方向性が一致して、初めて6次産業化という具体的な方向が見えてきたんですね。
川瀬さん
川瀬さん
夫は私が何か新しいことをしたいという気持ちを持っているのを知っていたので、発案したのは夫でしたが、「お母さんが中心でやってね」と。夫としては、ウインナーなどの加工品を作って販売することを想像していたようです。私自身は、当初からお客様とコミュニケーションを取りながら飲食物が販売できたら、と考えていました。

2013年、小さな直売所からスタート。6次産業化プランナーや補助金の利用は?

ぎゅぎゅ~っとテラス ウッドデッキ
撮影:髙橋みゆき
ーー川瀬牧場さんのホットドッグ、販売開始当初から大盛況でしたよね。実際に販売を始めてどのように感じましたか?
川瀬さん
川瀬さん
まず、直売所の狭さが問題になりました。私ははじめからパンを焼いてホットドッグを提供するつもりでいたので、設備などの関係上「6畳から8畳はないと始められない」と夫に伝えていました。

ところが、夫は加工した肉を手渡しで販売するだけの施設と考えていたので、4畳半もあればいいだろうと。直売所に関しては夫の自己資金でまかなう予定でしたし、広い施設を作るのはコストがかかりますしね。結局、自宅の真横に小さな直売所を作ってもらいました。ところがこの建物には断熱材も入っておらず、冬は寒く夏は暑く、かつ狭くて作業ができず、万全のスタートとはいえませんでした。

自宅を改装して本格的なカフェに大変身!

ぎゅぎゅ~っとテラス店内
撮影:髙橋みゆき
川瀬さん
川瀬さん
その後、自宅がそろそろリフォームの時期だったこともあって、2015年には思い切って自宅内にカフェスペースを作りました。それでも業務用の設備はスペースの関係から導入できず、家庭用のガスオーブンを使ってパンを焼いています。カフェの資金は、一部中小企業持続化補助金を活用しました。食器洗浄機、オーブン、冷蔵庫など、新しく購入した設備の資金に充てました。

ーー6次産業化に関する補助金等は活用しましたか?
川瀬さん
川瀬さん
6次産業化に関連する補助金や制度は規模的に我が家のケースには合わなかったので利用しませんでした。融資制度もありますけれど、まずはできることから少しずつ、コツコツやっていこうと。
6次産業化サポートセンターから派遣される6次産業化プランナーの方とも話を進めていたのですが、工場を建設して人を雇って、という形で話の規模が大きくて、我が家にはマッチしませんでした。



6次産業を継続するうえで見えてきた課題

川瀬牧場
撮影:髙橋みゆき
ーー6次産業化に踏み切ってからこれまでを振り返ってみていかがですか?経営を継続していく中で課題や壁を感じたことはありますか?
川瀬さん
川瀬さん
年々お客様も増えて、それに比例して売り上げも少しずつ上昇している状況で、当初に比べるとお店の経営を続けていくことの不安はわずかに軽減されました。ただ、飲食店としてどのようにリピートしてくださるお客様を獲得していけるのかという課題はあります。

川瀬さん
川瀬さん
同じメニューを続けていてもマンネリ化してしまうので、日々の牧場業務・カフェ運営に加えて新たなメニューの考案にも注力しなければなりません。ホットドッグに使うパンも手づくりなので、イーストを「とかち野酵母」に変えたり、材料を入れる順番を変えたりと、パンの改良も続けていました。
また、カフェで使用する牛肉をいかに使い切り、原料代をカフェの売上でまかなえるようにするか、これも課題です。当初から今も、原料代は牧場の売上から捻出している状況です。業者に委託して解体してもらい、買い取ったぎゅぎゅっとビーフを賞味期限内にすべて消費して、そのうえでぎゅぎゅ~っとテラスの売上から元牛の代金を支払えるようになりたいですね。

課題解決に向けて、新たなチャレンジ

川瀬保子さん
撮影:髙橋みゆき
ーー現在、カフェの運営資金は牧場全体の売上からも出ているという形なのですね。売上を伸ばすためにどのような取り組みをされているのでしょう。
川瀬さん
川瀬さん
毎週の来客数にも幅があります。忙しい日もあれば、お客様が来なくて暇な日もあります。週に1度しか営業していないので、毎年「今年もやっていけるのだろうか」という不安と隣り合わせの中で継続しているのが正直なところです。
そこで店舗だけでなく、近郊のお祭りなどイベントへの出店も精力的に行っています。加えて2018年からは、東京農業大学のオホーツクキャンパスの食堂跡に毎週出店しています。店舗で提供する商品を改良して、学生でも購入しやすい価格帯の商品を新たに作りました。

6次産業化には家族の協力が不可欠だった

川瀬牧場の娘さんと牛
撮影:髙橋みゆき
ーー牧場の業務に加えて、カフェの営業や出店に関する業務も加わると、負担はとても大きいのでは?
川瀬さん
川瀬さん
我が家の場合、私と夫、それに娘の3人で仕事を分担しています。牧場の仕事だけでなく、カフェの仕事も家族ならではのあうんの呼吸で。カフェ事業を今よりも拡大しようとすると、家族だけで運営するのは難しいと考えています。

堅実に、楽しく。ゆるやかな6次産業化

ぎゅぎゅ~っとテラス カフェのメニュー
提供:川瀬牧場
ーー農家が6次産業化によって既存の事業と新規事業を一連のサイクルとしていくのは、なかなかハードルが高そうですね。
川瀬さん
川瀬さん
北海道の農業は規模が大きく、その収入だけで家計をまかなえる農家も多いので、リスクを負って6次産業を興して既存の事業に組み込む、あるいは新たな事業形態にしていくのは確かに難しいと思います。実際、当牧場もカフェの運営資金を本業から補填してもらっている状況です。ただ、「レストラン運営が成功して農業の規模を大幅に縮小した」事業者の例もあるので、6次産業化は難しいと一概にはいえないのかなと。

川瀬さん
川瀬さん
どちらにせよ、「自分がやりたいこと」「楽しいと思えること」に挑戦して、それを継続していくことが大切だと考えています。私の場合、自分の置かれた立場でできることを見つけて、コストは最小限に抑えつつ、好きなことに取り組み続けた先に現在があります。

強い想いがあれば、行動してそれを形にすることができるのではないでしょうか。

取材を終えて~川瀬牧場の事例から見えたもの~

川瀬保子さん
撮影:髙橋みゆき
筆者が暮らす北海道は、作付面積も経営規模も大きい経営体が多く、「新規事業よりも既存事業の方が利益を出しやすい」という背景があるからか、6次産業化に踏み切る農家は思ったよりも少ない印象です。リスクのある新規事業を、家族の賛同のもとに始めるのは難しいのかもしれません。
川瀬さんは、インタビューの中で何度も「あらゆる面で家族が協力してくれている」とおっしゃっていました。そして家族の理解を得るためには、事業の継続が大切とも。

これから6次産業化を考えている方は、次の点を紙に書き出すなどして可視化してみましょう。6次産業化までに解決すべき課題が見えてきます。

・自分がやりたいことは何か
・やりたいことを実現するために必要なものとは
・経営資産(ヒト・モノ・カネ)はそろっているか

家族の理解と協力を得られるようしっかりと話し合いを行ったうえで事業化を進めていきましょう。

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高橋 みゆき

北海道在住のフリーライター。北海道の畑作農家に生まれ、高校卒業後に農業協同組合に入組。JAでは貯金共済課の共済係として、窓口にて主に組合員の生命保険・損害保険の取り扱いをしていました。退組後、2013年まで酪農業に従事。現在はスマート農業に興味津々。テクノロジーを活用した農業についてお伝えしていければと思います。

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