千円イベントはやってはいけない!農業の意味と価値を伝えるために

【連載】タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント|第10回は千円イベントはやるな!農業の意味と価値を伝えるために
1人都市型農業の成功事例として注目を浴びるタケイファームが、新規就農者や現状を打破したいと考える方へ、農業の価値を上げるための収穫イベントや野菜を食べるイベントの意味や方法をお伝えします。


アーティチョーク収穫イベント

撮影:AGRI PICK編集部
アーティチョーク農家として日本一の規模を誇るタケイファームの代表、武井敏信さん。「農業の地位を上げる」ことを目標に、日々邁進しています。

今回は、収穫イベントや野菜を食べるイベント等について、タケイファームの例を参照しながらその意味や方法について考えていきます。

「コト消費の時代」の農業イベントのあり方とは?

タケイファーム武井敏信氏
撮影:Yumi Yamashita
世の中はイベント盛り。すでにたくさんのモノを消費し所有している人々は、モノを買うことよりも、新鮮な体験・一回限りのコトを求めています。
そんな「コト消費」の時代、農業でいうならまず「収穫体験」イベントがたくさんの人をひき付けています。

秋の定番といえば、何といっても芋掘り。家族みんなで参加するという人も多いイベントでしょう。試しにWeb上で「芋掘り体験」を検索してみると「1,000円で堀り放題」「4~5株500~1,000円」と手軽に参加できるイベントが目白押しです。
しかし、武井さんは「千円イベントはやりません」と断言します。
一体なぜなのでしょうか?

「芋掘り体験が1,000円というのは一般的な価格だと思います。でも、あまり深く考えずに、人を集めやすいとか、ほかの農園もそうしているから、といった漠然とした理由で1,000円という参加費を設定しているケースも実は多いのではないでしょうか。ちょうど、直売所やスーパーで売る野菜に一袋100~200円の価格をつけるのにも似ているように思います。」

しかし、タケイファームはイベントに対してちょっと違う考え方をしているそうです。武井さんはあえて「千円イベントをやってはいけない」と言います。

「もし本気で農業の地位を上げようと思えば、イベント一つも安売りできないと僕自身は考えています。
もちろん農家イベントは積極的にやった方がいいと思いますが、もしやるのであればコストや時間、参加人数等をきちんと考えて、そこから逆算し赤字にならず収益を少しでも上げることができるような参加費にするべきでしょう。」

▼武井さんの商品の価格設定についての考え方はこちらをご覧ください。

赤字サービスではなく、商品として位置づける

大根の収穫体験
出典:PIXTA
確かに収穫イベントは農家にとって、普段なかなか直接話せない消費者と触れあう、数少ない機会であり、生きがいを感じる貴重な場かもしれません。
あるいは秋の収穫感謝祭のような意味合いで、その日だけ消費者にサービスをするというのであれば、黒字でなくてもよいのかもしれません。
ただしそれは、「野菜を作る」側、いわば生産者目線のイベントであるといえるでしょう。

一方、タケイファームのイベントは生産者主体ではなくて、消費者主体です。
消費者の目線に立って、「こんな体験をしてみたい」という欲求に応える「コトの提供」を目指しています。

この2つは似ているようで大きな違いがあります。
タケイファームとしてはイベントを赤字サービスではなく、仕事の一つ、いわば商品として位置づけているのです。

消費者目線のアーティチョーク収穫体験イベント

アーティチョークを収穫する会
撮影:AGRI PICK編集部
では、実際にタケイファームではどんなイベントを開催しているのでしょうか?
例年行われている「アーティチョーク収穫体験」を見てみましょう。参加費は8,000円程度とかなり高めです。
思い切った価格ですが、本当にこれで人が集まるのでしょうか?

「毎年開催していますがすぐ60人ほどの定員が埋まってしまいます。アーティチョークという個性的な野菜を収穫する体験は、ほかではなかなかできないので、一般消費者だけでなくシェフや料理研究家、ジャーナリストといった、プロの人たちの参加も多いですね。
もちろん収穫体験に加えて僕自身が野菜について詳しくお話をしますし、アーティチョークを調理して試食してもらったり、収穫したものをお持ち帰りいただけます。」

タケイファームは野菜を通して「心地よい暮らし」や「心を動かす体験」を売っています。だとすればイベントもそうした価値を提供する「商品」の一つです。

「特に、日本人になじみの薄い個性派野菜の場合は、初めて口にする、という人も多いことでしょう。参加してくださった人が記憶に深く刻んでくれて、かけがえのない思い出となるようなクオリティの高いイベントを提供したいと思っています。」

農業の地位を上げるということは、金銭的な収益を上げるということでもある、と武井さん。
充実したイベントにするための準備にかかる時間やコストを計算し、収益も含めて「8,000円」という適正価格が生まれてくるというわけです。

▼タケイファームのブランド戦略についてはこちらをご覧ください。

なかなかできない貴重な体験。
今の時代はそうした体験が、モノの消費よりも強烈な印象を残します。

アーティチョークの下ごしらえ
写真提供:タケイファーム
アーティチョークの収穫風景の写真は、たちまちSNSで拡散され、参加者が率先して自分の言葉でその楽しさや面白さ、貴重な体験の意味を、ほかの人へと伝えてくれます。
そう、クオリティの高いイベントを提供することは、結果としてタケイファームのブランドを強化し、宣伝につながっていくのです。

収穫体験にとどまらず、野菜の魅力を多角的に伝えるために

プレヴナンス アーティチョーク
写真提供:タケイファーム
農業に関心を持つ人を増やしていくためにも、イベントは有効な手段です。
タケイファームでは個性派野菜のアーティチョーク収穫体験イベントだけでなく、一流レストランで「アーティチョークを食べつくす会」も開催してきました。
イベントの会場は、畑から都会のおしゃれなレストランへと移ります。

「プロはどのようにアーティチョークを調理するのか。この野菜をどんな姿にしてお皿の上に表現するのか。多角的な視点から野菜の魅力を伝えていく、とても良い機会になります。」

野菜の第一の魅力は「味」かもしれません。
しかしそれだけにとどまらないということが、レストランの料理を食べるとわかります。
形の美しさ、香り、質感、触感、色彩も大切な魅力であり、野菜が発信していることなのです。

「収穫だけではなく、さらにいろいろな角度から野菜の魅力を知ってもらえたら、よりタケイファームのファンになっていただけると思います。」


イベントは乱発しないのがコツ

カレンダー
出典:写真AC
SNS等を使って効率的に集客することもできるようになり告知が昔よりぐんと手軽にできる時代。
だからといって、イベントは乱発しないことも大切なポイントです、と武井さん。

「なぜなら、イベントで一番大変なのは集客だからです。数を増やせばその分、集客する手間も時間もかかります。一度参加してくれたからといって、何度も来てくれるとは限りませんし、次々に別の新しいイベントがある時代なので、集客は想像以上に大変です。
タケイファームでは、イベントの企画内容をしっかりと練り上げて、また内容に変化を持たせ、テーマを絞って際立たせるなど工夫をし、貴重な体験を提供する意味のあるものにしたい、と考えています。」

量よりも質。たくさん開催することより、テーマを絞り込むこと。そうすれば訴求性が高まり、集客も可能になるはずです。
イベントは「開催すること」に意味があるのではなく、ねらいやテーマ設定、何を伝えるのか、収益性といった視点を度外視してはならないのです。

なぜ野菜を食べる「ベジ会」を47回も続けてきたのか

ナスタチュームを飾ったカルパッチョ
撮影:YumiYamashita
しかし一方で、タケイファームがコツコツと継続しているイベントもあります。
それが「ベジ会」。
「ベジ会」とは、2カ月に1回、タケイファームの野菜を使っていただいているお店に集い、料理を堪能しながら交流するというイベントで、すでに47回、回を重ねてきたそうです。

先ほどの話とちょっと矛盾するようですが、なぜ「ベジ会」だけは繰り返し開催してきたのでしょうか。

「続けている理由は明解です。まず、自分が栽培している野菜を食べる機会というものは案外限られているので、その機会を作りたいのです。同じ野菜でもどんな料理になってお客様に出されるのか、一つひとつのお店で違います。それを生産者としてリアルに体験したいのです。」

生産者の中にはたとえ自分が作った野菜であっても、販売後どのように使われ、味わわれているのか、さほど関心を持たない人もいます。
しかし、武井さんは「レストランに足を運ぶのは、自分の野菜について知ることができるから。そして新しいアイデアももらえます」と言います。

ベジ会のルールは一つ。一度開催したお店では二度はやらない、ということ。つまりこれまで多くのシェフによる、多種多様な野菜の料理に出会ってきた、ということです。

「自分の野菜が、想像を超えた料理になって出てきて驚くこともしばしばありますよ。お皿の上を観察していると、次にどんな野菜を育てればよいのかというヒントも見えてくるんです。」

つまり、ベジ会には自分の野菜の使われ方を観察しアイデアをもらう、という明確なねらいがあり、そのために継続しているのだそうです。

さらに、「ベジ会にはもう一つ意義があります」と武井さん。

「人と人との出会いです。見知らぬ人同士、違う仕事の人同士がそこで出会い、思わぬ化学反応を生み出すこともあります。」

こんな例が実際にありました。
センサーを研究している技術者が、ベジ会に参加。その人は、タケイファームと貝印のコラボで開発した野菜収穫用のハサミに関心を持ったそうです。

ITEM
貝印 収穫ハサミ 野菜用
アーティチョークのように茎の太い野菜から繊細なハーブまで対応している、貝印とタケイファームが共同開発した収穫ハサミ。
収穫時に傷つけにくい細く長い刃先や、野菜の鮮度を保てる切れ味など、武井さんのこだわりを最大限取り入れた特別設計です。

今まではぶどう用の剪定バサミを使っていたんですが、先が短くてズッキーニなどの収穫には不向きでした。
これは、ハサミの開き方が2段階で調整でき、細かい作業では狭くして刃先だけで、大きなズッキーニなどは大きく開いてザクッとカット出来ます。
これは良く出来ています。


「技術者の方は、ハサミの微妙な切れ味、手の感覚をいかに伝えるか、といったことをセンシングの技術と重ね合わせて興味を抱いたとおっしゃっていました。そこで後日、その方と貝印の担当者とを引き合わせました。ベジ会から新たな取組へと発展していったら面白いですね。」

ベジ会は、タケイファームのファンを増やし、人と人とをつないで、新たな出会いを作る創造的な場ともなっているのです。

「かけ算」から別の未来が見つかる

音楽×野菜×コンツェルト
撮影:Yumi Yamashita
畑の上で野菜を育てているだけでは、行き詰まることもあるでしょう。
そうではなく、農業や野菜とはまったく違う要素と掛け合わせることで、新しい何かが生まれてくる。それが武井流です。

「僕自身は、毎年その年のテーマを設定しています。例えば、『西洋野菜』『マイクロ野菜』『色もの野菜』、野菜以外にも『音楽』『肉体改造』などいろいろです。イベントもそこから生まれてきます。」

食に人やコトが掛け合わさると、そこから別の空気が生まれてきます。タケイファームが企画した「野菜×音楽」のイベント現場をのぞいてみると…

会場は、タケイファームの野菜を使っているイタリアンレストラン。
客が料理に舌つづみを打つ中で、武井さんが自分の野菜についてトーク。さらに、ライブで音楽を楽しむというぜいたくさ。

これまでタケイファームの野菜についてはシェフから繰り返し聞いてきました、というお客様が「でも今日初めて、生産者である武井さんから直接話を聞けてとってもうれしい」と感動していました。

生産者が、大切なことを伝える場。あるいは、音楽ライブを聴きたいと足を運んだ人が、偶然タケイファームの野菜に出会う場。また、タケイファームの野菜のファンであっても、そのイタリアンレストランのことは知らなかった、という人もいる。

異質なテーマ同士を掛け合わせることで、交流が生まれ、可能性が広がっています。

農家主催のイベントがもたらす無限の可能性

このように、農家が開催するイベントといっても収穫体験だけにはとどまらない、いろいろな方法があることが見えてきます。
イベントを、消費者を楽しませると同時に農家自身が元気をもらえて、かつ新しい着想も生まれてくるような場にできたら理想的ですね。

「タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント」も残すところあと2回。第11回目となる次回は、時短と効率を追求するタケイファームの「やらなくていいことはやらない。楽する農業」についてお伝えします。

「タケイファームから学ぶ時短と収益UPを目指すヒント」バックナンバーはこちらから。

 

イベント「都市型農業の成功者に聞く!営業しないレストラン取引の極意」のご案内
来月の連載終了を記念して、武井さんからリアルに時短と収益UPを目指すヒント、そしてレストラン卸の極意を学べる催しを開催します。
11月22日(金)、会場は青山のフレンチレストラン。武井さんのトークと食事会がセットになったイベントです。シェフからも、レストランが求める野菜や付き合い続けたい農家の姿を語っていただきます。
食事会では、ご自身が作った農産物を一流シェフが料理にし、提供するという試みも。レストランとの新たな取引が始まるチャンス!
詳細はこちら:https://www.facebook.com/events/876706069389719/
お申し込みはこちらから:https://takeifarm-agripick.peatix.com

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YumiYamashita
YumiYamashita

作家・コラムニスト 身体と社会との関わりに関心を持ち、五感、食、日本文化、ヒット商品などをテーマに取材。新聞、月刊誌、週刊誌、大手ニュースサイトにて時事問題からテレビドラマまで幅広く執筆。