サラリーマンと違って、自営の農家は決まった勤務時間やお休みがありません。そのため、新規就農をめざす人の中には「農家ってどんな生活をしているのかよくわからない」という人も多いのではないでしょうか?栽培する農作物の生育とともに仕事内容が変わってくるので、働き方や働く時間も人それぞれ。そこで今回は、「農閑期の過ごし方」をテーマに、北海道の農家の暮らしについて紹介します。
前回の記事はこちら。
「農閑期」っていつのこと?
農業には、いわゆる繁忙期にあたる「農繁期(のうはんき)」と、閑散期の「農閑期(のうかんき)」があります。春から夏、そして秋にかけては、農作物の栽培に適している季節なので、必然的に農繁期になります。農繁期のある1日を例にすると、朝4時ごろから日の出とともに働き始め、日が暮れるころに仕事を終えるというのが大まかなサイクル。忙しくてどうしても仕事が間に合わないときは、夜にライトを点けながら働くこともあります。
一方、冬は栽培できる農作物が限られてくるため、忙しさが落ち着く農閑期になります。北海道では11〜3月ごろまでの約半年間が雪に閉ざされるので、この時期が農閑期にあたります。
冬は何をしているの?
半年も雪に閉ざされているなら、いったい冬の間何をしているのでしょうか。私も農業研修を始める前はすごく不思議でした。この時期にどんなことをしているのか、自分の体験や周りの農家の話をもとに紹介します。リフレッシュする
農繁期は休みなく働き続けることが多い農業という仕事。その分、農閑期はしっかりと休んでリフレッシュします。北海道は雪国なので、ウィンタースポーツ好きな人は毎日のようにスキー場に通ったり、温泉でゆっくりしたりと、かなりしっかりと休養できます。これはサラリーマンにはない醍醐味ですね。ちなみに私たち夫婦はアウトドアが好きなので、夫婦で冬山登山に出かけています。また、実家が遠方にある人は、農閑期に入ってすぐ、雪が降り出す前に帰省しています。
冬の作業をする
農閑期とはいえ、まったく仕事がないわけではありません。とくにメロンのようにハウス栽培をしている農家は、雪かきという大切な仕事があります。冬を越すときは、ビニールハウスのビニールは取り払い、骨組みだけの姿にします。そして3月ごろから栽培を始めるハウスは、遅くとも2月にはビニールをかけ始めます。一度ビニールをかけたハウスは、雪が大量に積もると潰れてしまうこともあるので、こまめに雪かきをしなければなりません。また、倉庫などがある場合は、その周辺の雪かきも必要です。
しかし、毎日雪かきをするのではなく、雪がたくさん降った日にトラクターでまとめて除雪を行います。幸いなことに安平町は雪が比較的少ないので、天気さえよければ除雪の頻度は週に数回程度です。
今年の北海道は、札幌近郊や日本海側などで、災害級の大雪が降りました。これらの地域はもともと雪が多い場所ですが、そこの住民でさえも「もう雪を見たくない!」と言うほど。それを考えると、道内でも雪が少ない地域に住んでいてよかったなと思います。
また、除雪だけでなく、夏の間にできなかった事務作業などもします。2〜3月は確定申告の時期なので、帳簿の整理をしたり、栽培スケジュールを考えたりするのも大切な仕事です。
まったく違う仕事をする
本州の農家であれば、冬も絶え間なく農作物を栽培している、という人も多いかもしれません。しかし北海道の場合は雪に閉ざされてしまうので、農業とはまったく別の仕事をしている人が多いです。私の知る限りでは、道路や線路の除雪作業、酪農家の手伝いなどでしょうか。時間に縛られたくないと、空いた時間にフードデリバリーの配達員をしている人もいました。私はライターの仕事をしていますが、ブログやデザイン関係の仕事など、最近は在宅でできる仕事をする人もいます。
新規就農者の場合は、経営が安定するまで収入面でも不安があるので、農業以外の収入も確保できるようにしたいですね。
農業に関する勉強をする
まとまった時間があるうちに、農業関係の勉強をするのもおすすめです。すぐに役立つ簿記の資格の勉強をしたり、経営や農作物関係の本を読む時間に当てたりすることが多いよう。私も空いた時間を使って簿記の資格を取得しました!また現在、土壌医検定にも挑戦中で、果たして受かるかどうか…。このコラムで結果を報告しますね(笑)。農閑期は自分の生活リズムを作ることが大切!
夏はひたすら働いて、冬になると時間ができる、という生活サイクルにも最近ようやく慣れてきました。サラリーマン時代の習慣を引きずって、農繁期に休みなく働くことに体が慣れるのに時間がかかりました。そして、忙しい分にはまだよいのですが、暇になる農閑期の方がやっかいなのです。長い休みができると最初は楽しいのですが、しばらくすると「いったい私は何をしたらいいんだろう」という不安な気持ちになります。収入も定期的に入ってくるわけではないですから、冬の寒さと、経済的な不安が相まって、精神的に不安定になってしまうのです。
朝起きて「さあ何をしよう?」と考えられるのが自営業の醍醐味(だいごみ)でもありますが、自分のルーティーンを決めておくのがおすすめです。今までは、会社に行くことで日々のサイクルが強制的に作られていましたが、それを自分で作らなければなりません。些細(ささい)なことですが、こうした工夫が農閑期をメンタル面でも充実して過ごすコツではないかと思っています。
2月に入り、農閑期もそろそろ終わりです。3月からは今シーズンのメロン栽培の準備がスタートします。「昨年研修で学んだことをどれだけ実践できるのか?」とかなりドキドキですが、その様子はまた次の連載で紹介するので楽しみにしていてくださいね。
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脱・東京!北海道でメロン農家になりたい夫婦の農業研修記小林麻衣子プロフィール
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。