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新規就農のリアルなお金の話|脱・東京!北海道でメロン農家になりたい夫婦の農業研修記 No.5


コロナ禍をきっかけに東京を離れ、メロン農家になるべく北海道安平町へ移住した夫婦の農業研修日記。第五回は「新規就農のリアルなお金の話」。実際、農業を始めるためには自己資金はいくら必要? 0円からのスタートってアリ?筆者自身の体験を交え、新規就農資金について考えます。

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小林麻衣子

北海道在住のライター。農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して移住。現在は農家見習い兼ライターとして活動中。…続きを読む

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土づくり

撮影:小林麻衣子
新規就農をめざして東京から北海道にIターンした夫婦が、農業経験なし、土地なし、人脈なしの状態から研修をスタートし独立するまでの道のりをつづります。

新規就農の時に気になるのがお金の話。「0円からでも始められる!」とうたっているネット記事もあれば、「1,000万円は準備してもらわないと」と役場の人に言われることも。いったいお金はいくら必要なの!?そんな疑問に実体験をもとに答えます。

前回の記事はこちら。

営農タイプでこんなに違う農業所得

収入
出典:写真AC
皆さんは、農家の収入はどれくらいだと思いますか?家族で細々と暮らしていけるような額?それとも、バリバリもうかっているイメージでしょうか。例えば会社員であれば、業種と年齢によってだいたいの収入のイメージがつくもの。しかし農家は家族経営から農業法人、法人に雇われている人まで働き方はさまざまです。そのため、農家の収入に具体的なイメージがわかない人も多いと思います。私もそうでした。

農業はもうからない?所得の平均は約190万円

農林水産省の「営農類型別経営統計」(2019年)によると、農業経営によって得られた収益(農業粗収益)は、一つの経営体あたり全国平均で869.8万円。そのうち農業経営費が679.9万円で、農業粗収益から農業経営費を差し引いた農業所得は189.9万円(2018年までの旧基準をもとにした数字)です。厚生労働省の「2019年 国民生活基礎調査」によれば、一世帯あたりの平均所得は552.3万円ですから、農業所得はそれに遠く及びません。なにより約190万円では生活できませんよね。世間で「農業はもうからない」と言われるのも納得です。しかし、営農のタイプ別に見ると違った結果が見えてきます。

作物によっては「農業で1,000万円」は普通!?

下の表は、営農タイプ別に農業粗収益と農業経営費、農業所得、その所得を得るための労働時間をグラフ化したものです。水田作は農業所得がたった40万円なのに対して、施設野菜作は452万円と、同じ「農業」でも所得が全く異なることがわかります。ただし、所得が高いほど労働時間も長いため、一概に「この作物はもうかる!」と言うことはできません。

また、農業粗収益だけを見れば、畑作や施設野菜作は1,000万円を超えています。テレビや雑誌などで「農業で1,000万円」というフレーズを耳にすることがありますが、収益だけを見れば1,000万円を超えることはいたって普通なのです。農業の場合、実際の所得は農業経営費を引かなければ出てこないので、数字だけに惑わされないようにしましょう。

営農タイプ別農業所得
出典:農林水産省「営農類型別経営統計」(2019年)より筆者作成
また、表2は畜産の農業所得を示しています。養豚経営であれば、農業所得は3,000万円近くになり、水田作や畑作、野菜作と比べて所得の桁が違います。この数字を見ると「畜産ってもうかるんだなぁ」と思ってしまいますが、その分新規参入は難易度が高く、初期投資の額も数千万円と高額になります。記事の後半で詳しく説明します。
営農タイプ別農業所得2
出典:農林水産省「営農類型別経営統計」(2019年)より筆者作成

新規就農にかかるお金はどれくらい?

お金
出典:写真AC
農業所得がわかったところで、実際に新規就農に必要なお金はどの程度なのでしょうか。


そもそも「新規就農者」とは

新規就農者と一口に言っても、さまざまな人がいます。農林水産省の定義では以下の3つのパターンに分けられます。

自営農業就農者
農家世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」または「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者
雇用就農者
調査期日前1年間に新たに法人等に常雇い(年間7カ月以上)として雇用されることにより、農業に従事することとなった者
新規参入者
調査期日前1年間に土地や資金を独自に調達し、新たに農業経営を開始した者
農林水産省「用語の解説」より

農林水産省の「令和2年新規就農者調査結果」によると、2020年の新規就農者は5万3,740人で、新規自営農業就農者は4万100人、新規雇用就農者は1万50人、新規参入者は3,580人です。ちなみに私は新規参入者に当たるわけですが、めっちゃ少ないですよね(笑)。今回は新規参入者に焦点を絞って見ていきたいと思います。

農業を始めるのに必要なお金とは?

新規参入者の課題はさまざまですが、大きな課題の一つがお金をどうやって準備するか?」これに尽きます。一般的に、個人事業を始めるために必要なのは開業資金、運転資金、生活資金の3つです。

農業を始めるのに必要なお金
・開業資金(作業機代、農機具代、設備費など)
・運転資金(肥料代、種苗代、水道光熱費、資材代、土地代、出荷販売経費など)
・生活費(1〜2年分)

どんな作物で就農するのか、営農タイプによって開業資金や運転資金は変わってきます。また、1年に1度しか収穫できない作物を扱う場合、1年に1度しか収入を得られるチャンスがありません。そのため、数年は生活できる資金を準備しておかなくてはならないのです。

自己資金0円で開業できる!?実際いくら用意したか?

積立
出典:写真AC
新規就農者の就農実態に関する調査結果」(平成28年度)によると新規参入者が初年度にかかった費用は次のとおりです。

・初年度の費用:569万円
開業資金(機械・施設等)411 万円
経営資金(種苗・肥料・燃料等)158 万円
・自己資金:391万円
営農資金 232 万円
生活費159 万円

つまり、初年度から完全に自己資金で営農できている人は少なく、不足している資金は借入で対応している場合がほとんどです。なお、就農1年目の農産物売上高は平均 259 万円のため、多額の投資をしても得られる収入が少なく、生活が厳しくなることが予想されます。
営農タイプ別費用
出典:農林水産省「新規就農者の就農実態に関する調査結果」より筆者作成
さらに営農タイプ別に見ると、畜産は初年度の費用がかさむことがわかります。JAひろおのウェブサイトによると、酪農で新規就農する場合に必要になる資金は最低でも5,000万円以上と書かれています。畜産は農業所得が高いですが、その分開業費用が非常に高額なため、新規参入のハードルも高くなっています。その証拠に、農林水産省の「令和2年新規就農者調査結果」によると、部門別の新規参入者は露地野菜が1,110人と最も多く、次いで施設野菜作の700人ですが、酪農は60人、肉用牛は120人、養豚と養鶏はそれぞれ10人と、畜産を全て合わせても新規参入者の5%ととても少ないのが現状です。

自己資金は信用でもある

なかには、必要な資材を人からもらったり、クラウドファンディングを使って自己資金0円開業する人もいるようですが、これは本当にまれなケースだと思った方がいいです。研修先を探す場合、貯蓄額を聞かれたり、残高証明書を求められたりするケースもあります。自己資金はある意味で就農への「本気度」を問われたときの判断材料にもなるので、一定の額がない場合は研修の受け入れを断られるケースもめずらしくありません。多額の資金を用意することができなくても、経営開始に必要な額に見合った自己資金を用意するのが理想だと思います。

メロン栽培で新規参入をめざす私たち夫婦の場合

ハウス建設中
撮影:小林麻衣子
前置きが長くなりましたが、私たちの場合は研修開始前までに生活費を含めて約700万円を用意しました。メロン栽培はビニールハウスなどの資材代がかかるため、これでもギリギリだと感じています。自己資金のほかに農業次世代人材投資事業(準備型)や町の補助事業も活用しながら、営農開始に向けての準備を進めているところです。

新規就農者への支援制度について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。



ところが、ここ最近の原油価格の高騰によって、ハウス資材が値上がりし就農計画を直撃しています。あらかじめ想定していたよりも、さらに初期費用がかかることが予想されるので事業計画を見直さないと…とわりと本気で焦っています(笑)。資材価格の高騰はしばらく続く見込みなので、これから就農を考えている人はその点も考慮に入れて綿密な計画を立てていくのがおすすめですよ。

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脱・東京!北海道でメロン農家になりたい夫婦の農業研修記

小林麻衣子プロフィール
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。

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