新規就農の時に気になるのがお金の話。「0円からでも始められる!」とうたっているネット記事もあれば、「1,000万円は準備してもらわないと」と役場の人に言われることも。いったいお金はいくら必要なの!?そんな疑問に実体験をもとに答えます。
前回の記事はこちら。
営農タイプでこんなに違う農業所得
農業はもうからない?所得の平均は約190万円
農林水産省の「営農類型別経営統計」(2019年)によると、農業経営によって得られた収益(農業粗収益)は、一つの経営体あたり全国平均で869.8万円。そのうち農業経営費が679.9万円で、農業粗収益から農業経営費を差し引いた農業所得は189.9万円(2018年までの旧基準をもとにした数字)です。厚生労働省の「2019年 国民生活基礎調査」によれば、一世帯あたりの平均所得は552.3万円ですから、農業所得はそれに遠く及びません。なにより約190万円では生活できませんよね。世間で「農業はもうからない」と言われるのも納得です。しかし、営農のタイプ別に見ると違った結果が見えてきます。作物によっては「農業で1,000万円」は普通!?
下の表は、営農タイプ別に農業粗収益と農業経営費、農業所得、その所得を得るための労働時間をグラフ化したものです。水田作は農業所得がたった40万円なのに対して、施設野菜作は452万円と、同じ「農業」でも所得が全く異なることがわかります。ただし、所得が高いほど労働時間も長いため、一概に「この作物はもうかる!」と言うことはできません。また、農業粗収益だけを見れば、畑作や施設野菜作は1,000万円を超えています。テレビや雑誌などで「農業で1,000万円」というフレーズを耳にすることがありますが、収益だけを見れば1,000万円を超えることはいたって普通なのです。農業の場合、実際の所得は農業経営費を引かなければ出てこないので、数字だけに惑わされないようにしましょう。
新規就農にかかるお金はどれくらい?
そもそも「新規就農者」とは
新規就農者と一口に言っても、さまざまな人がいます。農林水産省の定義では以下の3つのパターンに分けられます。自営農業就農者
農家世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」または「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者
雇用就農者
調査期日前1年間に新たに法人等に常雇い(年間7カ月以上)として雇用されることにより、農業に従事することとなった者
新規参入者
調査期日前1年間に土地や資金を独自に調達し、新たに農業経営を開始した者
農林水産省「用語の解説」より
農業を始めるのに必要なお金とは?
新規参入者の課題はさまざまですが、大きな課題の一つが「お金をどうやって準備するか?」これに尽きます。一般的に、個人事業を始めるために必要なのは開業資金、運転資金、生活資金の3つです。農業を始めるのに必要なお金
・開業資金(作業機代、農機具代、設備費など)
・運転資金(肥料代、種苗代、水道光熱費、資材代、土地代、出荷販売経費など)
・生活費(1〜2年分)
自己資金0円で開業できる!?実際いくら用意したか?
・初年度の費用:569万円
開業資金(機械・施設等)411 万円
経営資金(種苗・肥料・燃料等)158 万円
・自己資金:391万円
営農資金 232 万円
生活費159 万円
自己資金は信用でもある
なかには、必要な資材を人からもらったり、クラウドファンディングを使って自己資金0円開業する人もいるようですが、これは本当にまれなケースだと思った方がいいです。研修先を探す場合、貯蓄額を聞かれたり、残高証明書を求められたりするケースもあります。自己資金はある意味で就農への「本気度」を問われたときの判断材料にもなるので、一定の額がない場合は研修の受け入れを断られるケースもめずらしくありません。多額の資金を用意することができなくても、経営開始に必要な額に見合った自己資金を用意するのが理想だと思います。メロン栽培で新規参入をめざす私たち夫婦の場合
新規就農者への支援制度について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ところが、ここ最近の原油価格の高騰によって、ハウス資材が値上がりし就農計画を直撃しています。あらかじめ想定していたよりも、さらに初期費用がかかることが予想されるので事業計画を見直さないと…とわりと本気で焦っています(笑)。資材価格の高騰はしばらく続く見込みなので、これから就農を考えている人はその点も考慮に入れて綿密な計画を立てていくのがおすすめですよ。
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脱・東京!北海道でメロン農家になりたい夫婦の農業研修記小林麻衣子プロフィール
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。