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新規就農時の農機は新品?中古?
新規就農時には必要な営農に農機をそろえる必要がありますが、新品の農機と中古の農機のどちらを購入すればがいいのでしょうか。中古農機のメリットとデメリット、作目や目的、周囲の環境もふまえて農機を選択するための基準を教えてもらいました。話を聞いた人
株式会社 唐沢農機サービス
専務取締役 唐澤重徳
所在地:長野県東御市
事業内容:農機マーケットプレイス(ノウキナビ)事業、新品中古農機の販売/修理/再生事業、WEBコンサルティング・マーケティング事業
中古農機のメリットとデメリット
新規就農者が中古農機を選ぶ一番のメリットは、費用をおさえられることです。一方、新品で農機を購入すると、おおむね5年はトラブルがないことが多いですが、中古農機の場合は1〜2年目に何らかのトラブルが起こる可能性が高いそうです。これは使用していない期間があり久しぶりに動かすと、金属疲労や割れなどが起こるからだと言います。使用開始から数年経過すればなじんできてトラブルも起こりにくいのですが、新規就農後すぐのトラブルをどのように考えるかで新品か中古かの選択基準も変わります。
作目や作型、周囲の環境などの要因も選択基準の一つ
唐澤さんは、管理方法や機械の使用方法でも中古農機か新品農機かの選択は変わってくると言います。唐澤重徳さん
中古農機でトラブルが起こった場合に、1日でも待てない作業や作目なのか、修理の間の2〜3日は待てるのかは、中古か新品かの選択のための一つの基準になります。
新規就農者の中には、機械のトラブルが生じた場合に近隣で同じ作物を栽培する先輩農家に機械を借りたり、作業をお願いする人もいるそうです。同じ作目を栽培する産地で新規就農をするのか、地域の先輩農家とのつながりがあるのかなどの周りの環境も機械を選ぶポイントになり得ます。そのほか、作目ごとの機械投資の考え方について唐澤さんは次のように説明します。
作目ごとの機械投資
果樹栽培で新規就農の場合:収入を得るまでに時間がかかるので、1〜2年間中古で対応できるとその後の経営イメージがわきやすく、数年後に規模や経営に合わせて新品の機械投資も検討する手も。
葉物野菜や稲作の場合:1年目から収入を得られ、規模によって収支計画が立てやすいので新品の購入も検討できる。
ケースバイケースでホームセンターで農機の購入も
資金不足の新規就農者に、状況に応じてホームセンターで道具類や小型の機械類の購入をすすめることもあると言います。ホームセンターの農機は安価で手軽に購入できますが、耐久性についてはプロの農家向けの機械とは異なるそうです。唐澤重徳さん
ホームセンターで購入すると、基本的には修理ができません。はじめは安価なものをホームセンターで購入し、壊れた時点の経営規模や戦略に合わせて次の機械を検討・購入する方法もあります。農機具販売店で扱うプロ向けの農機は、高価だけれど壊れたら修理して使えますので、初期投資は必要ですが修理しながら長く使用する方法もあります。ケースバイケースだと思います。
中古農機の購入時の確認ポイント
ノウキナビは、当初インターネットのみで完結させるサービスを検討していましたが、農業は対面を好む顧客や、実際に機械を見たいという声も多かったことから、現在ではその要望もカバーできる仕組みになっています。一方で、地域の農機具店に中古農機が販売されていないなどの理由でインターネット経由での購入も多いそうです。生産者がインターネットで中古農機を購入する場合、どのような点に気をつけるべきでしょうか。実際に必要な作業ができるかどうかが最大の確認ポイント
農機は中古自動車とは異なり、使用履歴がわかっているものはあまり多くありません。唐澤さんは、メーカーの正規販売店で新車として販売され、正規販売店で買取もされた中古農機がおすすめだと言いますが、このような中古機械の価格はそこまで安くはありません。予算が確保できない新規就農者の場合、実際に必要な作業ができるかどうかが最も重要な確認すべきポイントだと話します。具体的には、エンジンがついており走行できるか、動力噴霧器の場合は薬剤が噴霧できるのか、などです。
部品が廃盤になっている可能性も考える
中古の農機の部品がすでに廃盤になっている可能性もあります。農機の部品は、廃盤になったあとも8〜10年は部品を供給するよう定められていますが、中古市場には20〜30年前の中古機械も数多く出回っているため、購入した時点で部品が廃盤になっている可能性もあります。部品が入手できず機械自体を使用できなくなってしまうこともあるので注意しましょう。唐澤重徳さん
明確に確認する方法がないのですが…。現存していないメーカーの場合には部品が入手できません。リスク回避のために、クボタ、ヤンマー、ISEKI、三菱の4大メーカーを購入すると部品が手に入る可能性が高いです。
インターネットで中古農機を購入した場合のメンテナンスや修理は?
唐沢農機サービスの運営するノウキナビなどで中古農機を購入した場合、修理やメンテナンスはどこでどのようにお願いすればいいのでしょうか。ノウキナビの場合、全国各地に300ほどの農機具販売店の加盟店があります。唐澤さんは、購入者があらかじめ以下の点を地域の農機具販売店に確認しておくことが重要だと言います。
中古農機購入前の確認事項
・近隣に農機具販売店(加盟店)があるか
・その販売店には新品だけでなく中古農機の修理やメンテナンスもしてもらえるのか
・その販売店にはどの農機具なら対応してもらえるのか
・その販売店にはどのメーカーの製品なら対応してもらえるのか
農機具販売店を選ぶポイント
メンテナンスや修理をお願いする農機具販売店を選ぶポイントの一つとして、ノウキナビの場合は基本的には4大メーカー(クボタ、ヤンマー、ISEKI、三菱)の正規代理店で、直接取引がある「ノウキナビ認定農機具販売店」があります。生産者が認定農機具販売店を選ぶメリットは、工場や修理設備や専門知識を持った難しい修理もできるスタッフがいること、メーカーの純正部品が入手しやすいことなどです。認定農機具販売店についても事前に上記「中古農機購入前の確認事項」の内容確認をしておきましょう。
新規就農時に必要な機械類の一例|ブドウ栽培の場合
新規就農者は、どのような条件やどの状態のほ場で就農するのかによっても必要な機械の種類やスペックが異なります。唐澤さんに植え付けてから収穫できるまでに5〜6年要するブドウ栽培(生食、ワイン)で新規就農する場合に必要な機械類の一例を教えてもらいました。薬剤散布のための機械
ブドウで新規就農する場合には、薬剤散布のための道具や機械が必要です。すでに木がある状態でのスタート
近年、生食用ブドウの場合には離農した人のほ場を活用して就農するケースも多々あります。このケースでは、新規就農であっても1年目から収穫が可能です。そうなると防除が必要なのですが、手作業での薬剤散布はムラがでやすいのでスピードスプレーヤーを準備する必要があります。何もない状態からスタート
何もない状態の農地に植え付けをする場合には、初期の木が小さい段階では手作業での薬剤散布でも問題ありません。唐澤さんは「1〜2年は手動で、その後採算が取れるようになったら乗用の動力噴霧器を検討してもいいのでは」と言います。ワイン用のブドウ栽培の場合には、生食より販売単価が安いのでほ場面積を拡大していくことが避けられません。そうなると、早かれ遅かれスピードスプレーヤーは必要になるので最初から購入する手もあるそうです。
中古?新品?
薬剤散布のための機械は、中古か新品のどちらがいいのでしょうか。手動の薬剤散布機は中古でも見つかりやすいそうですが、新品を購入したとしてもあまり高くありません。スピードスプレーヤーについては新車は高価で、中古は市場での流通量があまり多くないですが、唐澤さんは「状態のよい中古が見つかれば検討してもいいのではないか」と言います。運搬用の軽トラック
収穫物を運搬する軽トラックは必須です。状態がよいものが見つかれば中古でも十分です。雑草管理のための機械
ブドウ栽培をする場合には、雑草管理のための農機類も基本的には必要です。生食用ブドウ|栽培方法によっても必要な機械が異なる
生食用ブドウ栽培は作型によって必要な機械が異なります。例えば、生えている雑草を除草せずそれらの根を利用して農地の土壌を管理する「草生栽培」という栽培手法が果樹栽培で取り入れられることがありますが、その場合は歩行型の管理機で十分です。しかし、土を起こす作業が必須な栽培方法なので、小型のトラクターや耕うん機などが必要になります。草管理をしっかり行う栽培方法の場合には、乗用モアが必要です。
ワイン用ブドウ|乗用モアは必須
ワイン用のブドウ栽培の場合は、収益を確保するためには広い面積が必要なので乗用モアは必須です。中古?新品?
歩行型の管理機は、比較的中古でも見つけやすいそうです。乗用モアは中古市場に台数も出てきており比較的見つけやすいそうですが、作業の性質上部品類が消耗している場合もあるので、消耗部品を中心に状態を確認して精度がいいものを選びましょう。ワイン用ブドウの場合はオーガ、穴掘り機も
ワイン用ブドウ栽培の場合、栽培面積が必要なこともあり、栽培本数も多く毎年少しずつ改植を続けます。そのため、唐澤さんは「新規就農当初から深い穴を掘るためのオーガや穴掘り機などもあった方がいいのではないか」と言います。唐澤重徳さん
ワイン用ブドウの場合、3年後までに約半数が離農します。新規就農者が経営を軌道に乗せ、しっかり設備投資をしてもらうことが農機具店にとってもありがたいので、私たちは予算的にも作業的にも現実的なラインで新規就農者の経営が軌道に乗るための機械類のアドバイスもしています。
購入後のメンテナンスについても考えておこう
ノウキナビのコミュニケーションセンターへの相談は具体的に購入する農機が決まっている場合の相談が多いと思っていましたが、実際には「何を購入すればいいのか」「どんな農機が必要なのか」などの幅広いお困りごとの相談も多いそうです。農業機械に関する相談は、プロへの相談が一番です。農業機械類は購入がゴールではなく、栽培や経営をサポートするもので、修理やメンテナンスをしながら長くつきあっていくものです。購入後のメンテナンスや修理も視野に入れて地域でなじみの農機具店を見つけておくことも大切です。
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