今回の後編では、ジャガイモの栽培、貯蔵、加工、調理など工程に分け、オランダをはじめとしたヨーロッパと北米についての情報をベースに考えます。
ジャガイモ栽培|水と肥料と農薬と
ジャガイモは、ほかの作物、特に穀物と比べて投入した窒素、リン酸、水などが効率的に利用されるので、酸性化、富栄養化などの影響が比較的少ないといわれています。水の再利用
ジャガイモは、1キロ生産するのに必要な水の量が少ないといわれていますが、北米ではジャガイモ栽培にはかんがいを使うことが一般的ですし、ヨーロッパでも近年の干ばつで導入しはじめた人もいます。そうなると、水の再利用というテーマは重要になりそうです。また、農業用井戸の使用についても議論が生じています。カナダのプリンス・エドワード・アイランド州では、2002年以降、水資源の持続可能性を確保することを目的に、かんがいに利用するための大容量の農業用井戸の使用が禁止されてきました。降水量が少ない時期の水の供給量が十分ではないことが多いので、反収はカナダのほかの産地と比較して低い傾向にあります。
このような経緯もあり、2021年6月に同州ではWater Act Water Withdrawals Regulationが施行され、干ばつの定義の追加や、制限されていた農業用のかんがいのための大容量の井戸の掘削作業を解除、かんがい戦略に基づき実施され許可を得た場合にはかんがいが可能になるなどの措置が取られました。環境負荷の低減と経済的なバランスは本当に難しい!
肥料
オランダの新しい品種は栄養素の取り込みが効率的で、最適な栽培結果を出すために必要な施肥量が少なくてすむそうです。結果として、肥料の過剰施用がおさえられ地下水などへの影響も少なくなっているとか。化学肥料でも有機肥料でも無限ではないことを認識しておきたいです。そして、ヨーロッパでは窒素政策で家畜頭数を減らそうとしていますが、減少した場合でも今後増えるであろう堆肥を必要とする生産者に堆肥が十分に供給できるのだろうか、というのが最近の関心ごとです。
化学農薬
オランダのジャガイモ栽培は、化学的防除には低ドリフトスプレーノズルやサイドノズルなどを使用してドリフトを防ぎ、機械的防除も組み合わせながら、さまざまな技術や工夫で、地下水や地表水に可能な限り肥料成分や農薬成分がいかないような取り組みがされています。最適な時期に最適な作業をすることは大事!まとめて貯蔵か、各農場に太陽光パネルか
水分量が多いジャガイモは、収穫後の貯蔵が課題になります。ジャガイモの冷却と貯蔵には比較的エネルギーが必要です。日本では貯蔵設備を持たず、収穫後すぐにJAや加工会社の貯蔵施設に運ぶケースが多いです。一方、ヨーロッパではほぼ全農家が貯蔵庫を保有しており、近年は太陽電池を設置して、農家が独自でエネルギーを生産しながら農場のエネルギーをまかなっている場合もあります。環境面だと一箇所にまとめた方がいいのでしょうか、各農家がエネルギーを生産しながら同時に消費する方がいいのでしょうか。
小芋を無駄にしないためのジャガイモ加工品
世界中のジャガイモ加工会社は、食品ロスの観点から小さなジャガイモも無駄にしないよう全量買い取ってあらゆる種類の製品(pommes duchesseなど)を作るなどの工夫もしています。おいしそう!家庭での調理|ソラニンには気をつけて
Nederlandse Aardappel Organisatieが刊行する読み物に、「一番環境負荷が少ない調理方法は、水を一切使わない油調理」と書いてあって、環境面での良さと、人への健康に対する良さは非なるものなのかと思いました。皮付きで食べた方が食品ロスが少ないといわれていますが、ソラニンには注意を!皮が緑になったもの、芽が出ているもの、家庭できちんと管理せず保管したもの、小さいサイズのイモなどは皮を厚めにむいてください。フードロス削減も大事ですが、食中毒になったら元も子もない!
残さずおいしくジャガイモを食べよう
ジャガイモはうわさ通り、何となく環境負荷が低そうですが、やはり各国の栽培・消費条件によっても異なりそうです。環境負荷の低減と食料の供給や生産者の経済的な負担や利益のバランスってやっぱり難しい。いろいろ言いましたが、おいしく残さずジャガイモ食べることが何より大切です!さあ、環境負荷が少ない油調理のフライドポテトとポテトチップスを食べようっと。
参考:Kennis platform aardfapple/Nederlandse Aardappel Organisatie
カナダにおけるばれいしょの生産および輸出動向/独立行政法人農畜産業振興機構
Water Act Water Withdrawal Regulations – Irrigation Strategy/Princess Edward Island
Land&Water Potato/FAO
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おしゃれじゃない世界の農業見聞録おしゃれじゃないサステナブル日記
紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate