目次
話を聞いた人
プロフィール:ヒノン農業株式会社(販売)・株式会社まさ屋(生産) 代表取締役社長 影山雅也さん
所在地:静岡県浜松市
栽培品目:天使音(あまね)マスクメロン
経営面積:20a(ガラスハウス14棟+育苗ハウス)
従業員数:2名
資本金:ヒノン農業株式会社840万円、株式会社まさ屋370万円
販売:料亭、レストラン、ホテルなどの飲食店7割、そのほかデパートや個人顧客
ホームページ:ヒノン農業株式会社
天使音マスクメロンとは
天使音マスクメロンの母親は、ヒーロー・オブ・ロッキンジという白肉系の「クリームメロン」と呼ばれ、クリーミーな肉質と高い香りをもつおいしいメロンです。もともとはイギリスのメロンですが、2011年にその種がある研究所に保管されていることを知り、この種をさまざまな緑肉系のアールスフェボリットの種と掛け合わせて改良が繰り返されました。こうして誕生したのが、現代のクリームメロン「天使音マスクメロン」です。(参考:天使音メロンオフィシャルサイト)
コロナ禍で売上は60%減
2020年7月の調査では、農業者の半数が売上高にマイナスの影響があると回答し、2021年1月には、その割合は6割強に上昇しました。売上減少の理由として、単価や相場の下落が最も多く、次いで既往販路・出荷ルートの縮小・停止や直営所等の縮小・休業などが挙げられました。
参考:農林水産省|令和2年度 食料・農業・農村の動向
コロナ禍で新たに取り組んだこと|ジュレの商品化・自社ECサイト
ジュレを商品化して作付け済みメロンの廃棄を免れる
収穫後に冷蔵しても最大で1カ月しか保存できないメロンですが、加工原料にすると、缶詰で3年ほど保管できます。そのため、収穫したメロンを原料としたジュレの開発に着手し、2020年4月の時点で製品化することができました。次の作戦を練る中で自社でのインターネット販売が検討に上がる
2020年7〜9月は作付け面積を減らし、次の作戦を練る機会にしました。12月はギフトシーズンで、平年はメロンの需要期です。全国でも、2020年3月以降、インターネットによる通信販売での食料支出額が増えています。同年5月には前年同月比で8割増加し、その後も前年同月比で5〜7割程度増加しています。
参考:農林水産省|令和2年度 食料・農業・農村の動向
自社ECサイトの構築へ
自社サイトの構築にいたるまで、既存プラットフォームへの出店・出品も含めてインターネット販売のさまざまな可能性を検討し、いろいろな人と話をしたと言います。最終的には「自分たちの思いとマッチした売り方をしたい」と自社でECサイトを立ち上げることにしました。
クラウドファンディングの支援額は1,000万円以上
クラウドファンディングに取り組んだ理由
コロナ禍で困っている生産者も多いためクラウドファンディングに取り組んだからといって、必ずしも支援されるわけではないと躊躇(ちゅうちょ)したそうですが、実際に危機的な状況だったことも後押しして、思い切って挑戦しました。農産物に適したクラウドファンディングサイトは?
クラウドファンディングを提供するサイトは多々あります。影山さんが農産物ならではの特徴をふまえて、READY FORを選択した理由は以下だそうです。READY FORを選んだ理由
・既存商品でも可(サイトによっては、新商品のみ可)
・目標金額を達成したら、いつでも返礼品の発送可(サイトによっては、募集期間の終了後にしか発送できない)
成功のために工夫したこと
クラウドファンディングにあたり、影山さんが意識したことは、「いかに自分たちの知り合いに協力してもらえるか」だと言います。こうして、作付けした分は廃棄することなく支援者に発送でき、数カ月分の売上になったと話します。
クラウドファンディングから自社ECサイトへの誘導
クラウドファンディング終了とほぼ同じタイミングで、自社ECサイトの天使音メロン/amane melon 公式ショッピングモールの運用がはじまりました。これは、クラウドファンディングの支援者へ、自社ECサイトを紹介して顧客を固定化する狙いもあったそうです。2021年の仕掛けは冷凍メロンの商品化
盛り上がったあと落ちきらないうちに次の仕掛けを
クラウドファンディングが終了すると、販売数も再び元に戻りました。それでも影山さんは前を向いて次の仕掛けに乗り出します。原点回帰の冷凍メロン
2021年には、冷凍メロンを商品化することで、廃棄せずに活用できるよう工夫しているそうです。影山さんが、困難な状況でありながらも淡々と、しかし熱意を持って挑戦し続けられる理由は、何でしょうか。それは、影山さんが天使音マスクメロンの販売をはじめた経緯にも関係ありそうです。10年ほど前までは、メロンを栽培して静岡県温室農業協同組合へ出荷していました。しかし、やりたいことが異なるという理由で、2012年に販路を一つも持っていない状況で組合を脱退し、天使音マスクメロンの栽培・直販に乗り出しました。
続く困難な状況の中で仕掛けをして活路を見出す
現在も、数は減少してはいますが、飲食店からの注文も継続的に入ると言います。そのため、作付け面積を減らし、予約制で収穫できた時点で確保しながら、ロスなく販売していくことも検討しています。
また、並行して、加工原料や冷凍メロンとして保管するためには、加工費や冷凍倉庫代などのがかかってしまうことに留意しながらも、おいしい天使音マスクメロンをより多くの人にさまざまなシーンで食べてもらいたいと「ジュレ」や「冷凍メロン」などの商品開発をしました。
困難な状況であっても、お客さんのこと、自分たちの思い、経営状況を考えながら、新たな仕掛けを重ねて活路を見出す姿勢に感銘を受ける人も多いのではないでしょうか。