- Miyuki Tateuchi
アメリカのミシガン州に居住中。海外の農業情報や普段の生活を通して感じた食農トピックを紹介します。祖父が農家だった影響もあり、四季折々の「旬」を大切にしたいと思っています。…続きを読む
前回は「売り場で驚いた野菜の実情」として、アメリカでの量り売りや陳列棚でのミスト噴射、思わず目をひく商品パッケージなどを紹介しました。
今回は、夏に見ごろを迎えるラベンダーについて取り上げます。
ミシガンには「ラベンダー・フェスティバル」なるものがあり、ラベンダーが今、ちょっとしたブームになっています。フェス自体は1〜3日程度の短期間での開催で、終わった後はU-Pickが主な楽しみ方となります。
ミシガンでの様子を紹介しつつ、日本で楽しめるラベンダー情報についても紹介します。
紫だけではなかった。実はいろいろな種類があるラベンダー
ポプリやエッセンシャルオイル(精油)として、人気の高いラベンダー。シソ科のハーブで、品種によっては一度植えると10年以上にわたって楽しめるので、植えっぱなしOKの「手間のかからない植物」として紹介されることもあります。ただし、地中海沿岸が原産地であるため、日本の夏場の高温多湿には注意が必要です。
花の本数を増やしたい場合は、種よりも早く楽しめる挿し木がおすすめ。春の気温が上がってくる時期に穂先10cmくらいのところを斜めに切り、乾燥に気をつけながら直接土に挿すと、比較的簡単に育つとされています。
花の色は、髪色にも「ラベンダーカラー」という言葉がある通り紫の印象が強いですが、中には白やピンクに近い色もあります。品種は、香りが強い「イングリッシュラベンダー」のほか、うさぎの耳のような形が特徴的な「フレンチラベンダー」(上の写真参照)、交配種で暑さに強い「ラバンディン」などがメジャーです。
品種改良も進んでいるので、育てる場合には、気候に合わせて最適なものを選んでくださいね。
想像を超えていたミシガンのラベンダー祭り
北海道と気候が似ているミシガン州。各地のラベンダー農場では7 月10日前後(独立記念日の翌週の週末)に、イベントがよく開かれています。天気と日程の関係で、私は残念ながら大規模なイベントには参加できなかったのですが、各農場のホームページから「フラワーフェス」のアイデアが多く得られたので、概要を紹介します。
U-Pick (花摘み)
英語だとU-Pickと表記されている花摘み。You pickということで「あなたが摘む」、つまり、切り花を買うのではなく、自分で花を摘むことを楽しむイベントです。入場料が必要なところもありますが、私が行ったところでは摘んだ花の量で料金が決まるシステム。目安となる紙の輪(この輪に収まるだけの量を収穫できる)を見せられ、Sサイズ(11ドル)にするか、Lサイズ(17ドル)にするかを聞かれました。
ただ、花の量って、実物がないとなかなかわからないもの。迷ってLにしてみましたが、これが意外と多いボリューム。はさみを渡され、子どもたちと100本以上を収穫しても、渡された紙の輪がまだ余っている状態でした。
ラベンダー畑ではオープンエアのためか、最初は思ったほど香りがしませんでしたが、1本ずつ摘んで束ねていくと、顔の近くで香りがどんどん強くなっていきます。無心に花を摘み取ることも楽しく、あっという間に時間が過ぎていきました。
ウェディングフォトを含む写真撮影
ジューンブライドの言葉の通り6月に始まって、アメリカでは気候の良い7月も結婚式が多い時期です。そこに重なるのがラベンダーの開花時期。アメリカのラベンダー農場では、プロのカメラマンを手配してくれるラベンダー畑での撮影パッケージに始まり、満開のラベンダーを結婚式の会場として貸し出すプランもあります。
ちょうど私達が畑に行った日も、カップル1組がありとあらゆるポーズでロマンチックな写真を撮影していて、思わずこちらが気恥ずかしくなる場面もありました。
一面ラベンダーの風景はフォトジェニックなのは間違いなし。撮影の小道具として、薄紫色の自転車やドラえもんの「どこでもドア」のような白い扉が置かれている農場もあります。
恋愛にまつわるラベンダーの花言葉
ラベンダーの花言葉には、「沈黙(香りが精神を落ち着かせる効果があるから)」「疑惑(なぜこんなに香りが強いのかというところから)」と恋愛にはあまり望ましくない言葉もありますが、「献身的な愛」や「あなたを待っています」と純愛を表す言葉もあります。
クラフト系ワークショップ
ラベンダーはドライフラワーにもできるので、長い間、楽しめることもまた魅力。ラベンダーフェスでは、ドライフラワーを使ったリース教室や袋状のサシェ作りなど、ラベンダーを活用したクラフト教室も開催されていました。
中には、ラベンダーソープやボディスクラブのようなバス用品を作る本格的なワークショップも。香りと色が唯一無二という点で、ラベンダーはとても強みがある花なのです。
ラベンダーから派生するものなら何でもOK
子ども向けには、ラベンダーの花自体を使わない工作も。紫色の粘土を使ったり、ラベンダーのイラストが描かれている塗り絵式の壁掛けを作ったり。ラベンダーに少しでもまつわるものであれば、何でも題材にしてしまうのが、アメリカ流なのかもしれません。
ラベンダーフェスでは、参加者が作るだけではなくグッズを売るお店も多く出店しており、Tシャツが意外と人気を集めていました。
ラベンダー色に染め上げられたTie Dyeという模様のTシャツで、草木染のようなニュアンス豊かな風合いがすてきです。
食を通しての楽しみ方
長時間滞在するフェスでは、食べ物や飲み物が欠かせません。ラベンダーは食用にもなるハーブのため、食への添加も自在です。アイスクリームに混ぜてきれいな紫色にしたり、ハーブティーとしてレモネードに混ぜてみたり(以前、日本のハンバーガーチェーンでも色の変化を楽しむ「ラベンダーレモネード」なるものが商品化されていました)、決してきわどい食ではなく、でも普段はあまり使われない珍しい色なので、「どんな味がするのだろう?」と好奇心がそそられる素材なのです。
お菓子でも紫がきれいなマカロンや花の穂先をのせたカップケーキなど。ラベンダーをちょっとのせるだけでオシャレ度が上がり、ハーブということで鼻の通りを良くしたり、リラックス度を高める食にも活用できるのがラベンダーの魅力といえます。
心身のリラックス効果を狙ったエクササイズ
屋外で外の空気を吸いながらのエクササイズは気持ち良いですよね。それが、ラベンダー畑だったら…。遠景で紫のじゅうたんを目で楽しみつつ、アロマ的な癒やしをもたらしてくれるかもしれません。
アメリカでも無理のない運動方法として、ヨガが人気。アウトドアでのクラスも公園などで開催されており、ラベンダー畑も例外ではありません。
場合によっては、ラベンダーオイルを使ったマッサージも。
何とも贅沢(ぜいたく)な楽しみ方に見えますが、フェス会場では体験会を開いているところもあり、気軽に楽しめます。
養蜂体験や農業や園芸に関するセミナー
ラベンダー畑には、蜜や香りに導かれて、沢山のミツバチが花に集まってきます。基本的に攻撃性は弱い種類の蜂なので、邪魔をしなければ人を襲ってくることはなく、来場者も安全性を気にしないで花を楽しむことができます。
「ラベンダーはちみつ」というのも魅力的な商品。しっかりとした甘さがありながら、ハーブ特有のさっぱりとした味わいがあります。
フェスでははちみつを売るだけでなく、養蜂体験ができる一歩進んだ活動も見かけました。
会場はラベンダー畑ではなく、隣接したりんご畑ですが、実際の蜂を前に養蜂体験やはちみつの作り方を学ぶことができます。
さらに派生して
ほかにも、農業やエコ、園芸が好きな人を対象にした無料セミナーも開催。フェスというお祭りに近い位置づけのところで、学びの場があるというのが新鮮でした。ラベンダーに集う人は花好きな人が多いので、園芸資材などの会社にとっても絶好のターゲットにリーチできるという利点もあるのです。
参考:Blake’s Lavender Market
ちょうど良い時期に咲くラベンダー
ミシガンのラベンダーフェスは、ラベンダーを軸にしながらも、さまざまな関心を持つ人が集い楽しめる場を作り出していると感じました。フェス自体は1〜3日程度の短期間での開催で、終わった後はU-Pickが主な楽しみ方となります。
開花時期が夏休み前半で、ひまわりが満開になる前の畑を彩ってくれる貴重な植物なのがラベンダー。他地域での盛り上がりを見て、新たに栽培する農場もあり、ミシガンのラベンダー畑は今後もますます増えていきそうです。
ひとつだけ注意したいこと
摘んだラベンダーのその後について。3週間ほど経った今も香りはまだ楽しめますが、1つだけ問題がありまして…。収穫した後の花は意外ともろく、何かに当たった拍子に小さい花がポロポロとこぼれてしまいます。部屋に置いておくと、こまめな掃除を余儀なくされるようになりました。
ただ家事の中で掃除嫌いの私にとっては、掃除をするための良いモチベーションとなっています。これを機に、ラベンダーのドライフラワーが似合うきれいな部屋づくりを目指していきたいです!
日本でも各地でラベンダーが見られます!
日本ではラベンダーといえば北海道のイメージが強いですが、標高が高く夏の暑さが厳しくない場所であれば育つので、実は全国各地に名所があります。
王道の北海道
ラベンダーといえば北海道、中でも富良野が有名です。香料会社によるラベンダーオイルの買い上げ終了に伴い、1970年代に一時激減した畑も、国鉄(JRの前身)のカレンダーに取り上げられたことがきっかけで、今では観光スポットとして完全復活をとげました。
例年7月中が見ごろですが、遅咲きであれば8月上旬、その後は花の形と色が似ているブルーサルビアを楽しめるところもあります。
関東の穴場といえば
夏休みにラベンダーを見たいなら、群馬県沼田市に「たんばらラベンダーパーク」があります。標高1,300m、冬はスキー場としてオープンしているところで、こちらでは遅咲きのラベンダーを8月20日ごろまで楽しめます。
そのほかにも今年の見ごろは終わっている可能性が高いですが、全国にラベンダー畑はあります(例として兵庫や大分にも)。近隣情報を確認したら、意外と身近で見られる場所が見つかるかもしれません。
なお、その年の気象状況で開花時期は前後するので、ホームページでの事前チェックは欠かさずに。
次回は、ミシガンのブルーベリーを取り上げます。アメリカでは、ベリーの種類も豊富で、いろいろな味を楽しむことができます。自宅での栽培もできるので、その方法も紹介します。
バックナンバーはこちら
「アメリカ生活アグリ日誌」Miyuki Tateuchi プロフィール
就職情報会社、外資系人事コンサルティング会社を経て、2017年よりアグリコネクト株式会社でリサーチ業務に従事。2019年より夫の転勤に伴い、アメリカのミシガン州在住。成長期真っ只中の2児の母。農業と地域、世界の料理などへの興味を元に、情報発信していきます。