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実践編では、若手就農者の悩みや課題に久松さんがアドバイスをします。
静岡県富士宮市で栽培期間中農薬・化学肥料不使用で多品目栽培をしているふもとも農園の田邉友章さんに、久松さんがオンラインで課題を整理し、よい方向に導くためのアドバイスをしました。
プロフィール
株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう)
1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)
ふもとも農園 田邉友章さんの相談内容
ふもとも農園の田邉友章さんは、静岡県富士宮市で栽培期間中農薬・化学肥料不使用で多品目栽培をしています。就農6年目になり売上を伸ばしたいと考えていますが、十分な量の野菜を作って売る時間も、人手も確保できていないそうです。今回の相談者
プロフィール
ふもとも農園 田邉友章さん
静岡県富士宮市出身の41歳。就農して6年目。現在、露地1.2haで栽培期間中農薬・化学肥料不使用で野菜類の多品目栽培のほか、もち麦、米を栽培。販路は、地域の直売所や小売店の産直コーナー、野菜セットの宅配、ECサイト、マルシェなど。そのほか共同出荷グループを設立して飲食店への販売や、百姓のOIMOYAとして石焼き芋も販売している。
各種情報:ふもとも農園のホームページ、Facebook、Instagram
5年間の青年就農給付金(現・農業次世代人材投資資金)の受給期間を終え、自力で経営を成り立たせないといけない転換期を迎えた田邉さんは、栽培と販売の両立がうまくできず、日々試行錯誤をしています。現在、以下のような課題を抱えています。
・販売と栽培を基本的に一人で行っているので、栽培にかけられる時間が不足している
・販売できる農産物の量も不足している
・現在の売上約450万円を1,000万円まで伸ばしたい
・人手が足りないが、雇用するための資金が不足している
「有機×多品目×直販」は時間と手間がかかる農業経営だと認識する
今回は、悩みを抱える田邉さんにとって、今後の経営のヒントになるように、久松さんに指南いただきました。久松さんは、まず「(栽培期間中農薬・化学肥料不使用の)有機・多品目栽培も直販も時間を要し、売上の天井があるやり方だということを認識する必要がある」と言います。また、やることや販売先を増やしている田邉さんですが、「そのすべてが本当にやりたいことなのか」と問います。モノが足りない、時間がない
栽培と販売に係る作業を基本的に一人で行っている田邉さんは、時間が足りず、販売できる農産物が足りていないと悩みます。現在野菜セットなどの出荷や、マルシェの事前準備で収穫以外ではあまり畑へ行けず、なかなか作業も進みません。また、出荷調整などで夜中まで作業をする日々を送っています。有機・多品目栽培は全体の統括力が必要
多品目栽培は、いろいろなものを作れるので、楽しいのは当たり前ですが、その作物に関わる時間が少ないので栽培技術を磨きにくいと久松さんは言います。直販は販売業務に時間を取られる
直販についても、販売業務への負担が大きい売り方だと久松さんは言います。具体例を交えて説明してもらいました。直販、野菜セットについての記事はこちら
本当にやりたいことは何か?
田邉さんは、いろいろな旬の野菜を作ることが楽しく、栽培も販売もすべて自分がやりたいと考えています。しかし、久松さんは、目の前のことに一生懸命に取り組んでいても、俯瞰(ふかん)の視点で見ると本来やりたい方向性ではないことに時間も労力も注いでいる可能性があるのではと投げかけます。個人の農業経営で売上を上げたいなら断捨離が必要
田邉さんの現在の売上は約450万円ですが、1,000万円までのばしたいと考えています。基本的には一人で営農し、ときどき配偶者が手伝っている状況です。一人ではかけられる時間が不足しているため雇用も考えていますが、現在の売上では雇用は難しいと悩んでいます。売上を伸ばしたい
久松さんは、田邉さんの場合、まずはどの程度の面積で、どの程度の収入があったら経営的に成り立つのかを精査して、何かを諦めないと本当にやりたいことはできないのではないかと問います。そのために、まず田邉さんが取り組んだ方がいいことはいわゆる「断捨離」だと言います。
断捨離とは
断捨離とは、自分に本当に必要なものだけを選んで、ほかを残さないこと
何かをあきらめた場合を具体的にイメージしてみる
多品目栽培をしている田邉さんですが、現在は品目をしぼることも検討しています。久松さんは、品目を減らす場合には、その品目を栽培し、販売するために要する時間を細かく計測してみてはどうかと提案します。そして、マイナスに寄与しているものについてはあきらめることも大事だと助言します。さらに、具体的にあきらめた場合にはどうような経営になっているのかを想定してみることも有益です。
誰かと一緒に整理する|公的機関に依頼してみるのも手
さらに、久松さんは「誰か」ほかの人と一緒に整理をしたり、やることを減らすことを推奨します。業務フローを整理するための準備
業務の断捨離を進めていくにあたり、参照する資料になるものを久松さんに教えてもらいました。リアルタイムかつ客観的にデータを記録することで見えてくるものがあるのではないかと提案します。会計処理の頻度を上げる
確定申告時の会計処理だけでは、年単位でしか経費や利益の把握ができません。そのため、会計の頻度を上げて、1カ月あたり、または日々リアルタイムでどの部門にどれだけコストがかかっているかが見えやすい管理会計をすることが大切だと説明します。作業記録を取る
久松さんは、メモでの作業記録では問題が起こったときの原因を探ることも難しく、また次作のときに見返すこともしにくいと言います。そのため、記録についても、あとで振り返ることができる形にすることを推奨しました。売り伸ばせるのは何か?ネックになっているところをリストアップする
田邉さんは、今後はサツマイモの生産と焼きいもの販売をメインにしようと思案しています。久松さんが焼き芋事業を推進したい田邉さんに確認したいこと
・特定の人に依存するやり方ではない?教えればほかの人でも同じように売れる?
・どの場所で、どれくらいの時間で、どの程度売れるのか把握している?