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ライター - 紀平 真理子
オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。
食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。
農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

撮影:紀平真理子
農業に関わるためには、農業経営体や農業法人などに就職し、従業員として働く方法もあります。雇用される形で農業に関わる人は、どのような理由で農業を選び、なぜ従業員として農業を選んだのでしょうか。
今回は、次世代施設園芸で大玉トマトを栽培するイオンアグリ創造株式会社埼玉久喜農場で栽培リーダーを務める入社4年目の松澤尚樹さんに、農業法人へ就職した経緯や、従業員としてチームで農業に関わる魅力や難しさについて話を聞きました。
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施設園芸のトマト栽培に魅せられイオンアグリ創造株式会社に入社するまで
撮影:紀平真理子
松澤さんは、農業に関わる仕事に就くことは念頭になかったものの、植物が好きという理由で農業高校に入学しました。何か農業を職業にしたいと考えたきっかけがあったのでしょうか。また、独立就農をせず、雇用就農を選び、イオンアグリ創造株式会社 埼玉久喜農場に入社した理由は何でしょうか。
イオンアグリ創造株式会社 埼玉久喜農場の概要

写真提供:イオンアグリ創造株式会社
イオンアグリ創造株式会社 埼玉久喜農場
所在地:埼玉県久喜市
栽培品目:大玉トマト(3.3ha)
栽培方法:隔離培地での施設養液栽培、低段密植栽培を採用
従業員数:正社員10名/パート従業員約90名
販売先:主に関東圏のイオン、まいばすけっと、ビッグ・エー、マックスバリュ、アコレ、ダイエー
年間休日:125日(うち20日は長休:連続5日以上の休暇を取得)
Webサイト:イオンアグリ創造株式会社
Instagram:イオン農場

お話を聞いた人

撮影:紀平真理子
プロフィール:栽培リーダー 松澤尚樹(まつざわなおき)さん
略歴:長野県の非農家出身の24歳。
農業高校卒業後に農業大学校に進学。
2018年にイオンアグリ創造株式会社 埼玉久喜農場に正社員として入社
2021年4月より栽培リーダーとして活躍
農業高校を選んだきっかけは植物好き
長野県の非農家出身の松澤さんは、農業高校へ進学しましたが、その時点では農業に関する仕事に就くことを具体的にはイメージしていませんでした。
植物が好きだから、農業高校を選びました。生物科学科で基礎を学んだあとで植物バイオコースを選択しました。品種改良や無菌でウイルスフリーの苗を作っていましたが、今思うと高校生には難しい内容ですよね。
農業大学校時代には「施設・トマト」に興味関心
3年間、農業高校で農業にどっぷりつかった松澤さんは、卒業する時点で、「農業関係の仕事がしたい」と考えるようになりました。
高校時代にホームセンターの園芸コーナーでアルバイトをして、お客さんに苗や資材を販売した経験から、トマトなどの果菜類に興味を持ちました。施設園芸については、たまたまTV番組の施設園芸特集を目にして「すごいな、働いてみたいな」とぼんやりと思うようになりました。
高校卒業時には農業関連企業への就職も視野に入れましたが、さらに農業経営についても学びたいと考え、2年制の農業大学校へ進学します。松澤さんが選択した大学校は、有機認証機関でもあり、有機農業に力を入れていました。
農業大学校で有機農業を学び、「露地栽培は環境に左右されるし、自分の力だけではどうしようもならないな」と感じ、この時点で、僕がやりたいのは施設園芸だと心に決めました。プライベートでは超インドア派だから、施設園芸を選んだのかもしれません(笑)。生徒のやりたいことを尊重してくれる学校だったので、協力を得て、僕が興味のあったメロンの水耕栽培に挑戦したり、簡易ハウスをつくってトマトの養液栽培などを実践したりしていました。
独立か就職か|イオンアグリ創造株式会社を選んだ理由は
松澤さんは、農業大学校の卒業時には独立就農も検討したと話します。なぜ大企業が母体の農業法人への就職を選んだのでしょうか。
新規就農も考えましたが、僕がやりたいスタイルの最先端施設での農業を個人の力で実現するには、資金的にも知見的にも難しいと考えました。なので、経営基盤がしっかりした企業直営の農業法人で働くことに決めました。
また、数ある農業法人の中からイオンアグリ創造株式会社 埼玉久喜農場に決めたポイントはどこにあるのでしょうか。
イオンアグリ創造株式会社に入社したのは、社長の「農業を変えていく、企業として農業をよりよくしていく」という考えに共感したこともありますが、実は一番の決め手は、久喜農場の開場時に僕が就職活動をしていたことなんです。開場と同時に入社し、農場と一緒に自分も成長していきたいと思いました。
作業オペレーションで基礎を固め、周りの信頼を得て4年目で栽培リーダーに

撮影:紀平真理子
イオンアグリ創造株式会社埼玉久喜農場に入社した松澤さんですが、初年度は選果などの作業が中心だったと言います。やりたいことをすぐにはできませんでしたが、松澤さんはやる気を失わず一生懸命に作業に取り組みました。それは、松澤さんを支え、背中で引っ張っていく人たちの存在も大きかったと話します。
作業中心の1年目の松澤さんを支えたのは?
栽培知識を学びたくて2018年に入社したものの、1年目は作業が中心の日々を送りました。これまでの知識を活用し、新たな知見を得たいと入社した松澤さんが、モチベーションを維持できた理由は何だったのでしょうか。
作業はとても大事ですが、知識を得たいと思って入社した人にとっては、モチベーションが下がってしまうことも事実です。僕の場合は、さまざまなアルバイトも経験してきたので、最初の基礎が大事なことはわかっていましたし、「こういうものだ」と自分の中で納得がいっていたのでモチベーションを維持できました。
自分の中で折り合いがついていたことに加え、上司など周りの人たちのサポートも大きかったようです。
上司たちが、新入社員をやる気にさせるのが上手だったことも大きいです。今になってわかりましたが、段階的に計画的に僕に仕事を与えてくれていて、それがモチベーションの維持につながっていました。また、たとえ僕の考えが間違っていたとしても、話を聞いて、議論できる時間も作ってくれていたので、僕も農場の経営に参加できていると感じていました。
作業に専念して得たものは?
さらに、作業をして得たものがあると松澤さんは言います。それは、1年間、パート従業員と一緒に作業をする中で、お互いに信頼関係を築くことができたことです。
上司の働き方を見て学び、1年目であっても自分が率先して動いて農場を引っ張っていくことや、一緒に働く人たちへの気配りについては意識していました。1年目に頑張ったことで、パートさんたちと信頼関係を築くことができ、現在いい雰囲気で働けることにつながっている気がします。
栽培リーダーとしてやるべきことは?
松澤さんは、入社2年目からは栽培に深く関わるようになり、年々任される業務が増えていきました。そしてついに、2021年4月からは栽培リーダーとして栽培管理をすることになりました。よりよい栽培の仕組みを構築すると同時に、上司たちが松澤さんにしてきたように、今度は松澤さんが後輩たちを支え教育し、栽培管理ができる社員を増やしていく重要な役割を担っています。
栽培リーダーになって、業務内容としては大きく変わりませんが、後輩を育てることと、新たにデータ化・数値化をして、人による栽培のバラツキを減らし、平準化できる仕組みを構築することを課題ととらえて取り組んでいます。
上司の農場長から見る松澤さんは?
久喜農場の農場長である髙橋寛さんは、栽培の中核を担う松澤さんのことを以下のように見ています。
直属上司だった副農場長が「彼の植物の見立て方のセンスがすごい」と言っていました。彼は、植物の変化だけでなく、実となり、食卓へ届くところまでをトータルで楽しんでいます。
農場長が考える松澤さんの良さ
・一緒に働く人たちを慮る(おもんぱかる)ことができ、彼のまい進を周りが支えたいと思っている。
・栽培チームが持つ不満や課題、より利益に結びつけるための改善点を洗い出すことができる。
・今までのやり方だけに固執しない。
・改善するために仮説→計画→実行→効果測定を繰り返して成果の良し悪しを判断する力もある。
チームで栽培をするとは?|企業農業のおもしろさとジレンマ

撮影:紀平真理子
イオンアグリ創造株式会社 埼玉久喜農場には、現在10名の正社員が勤務しています。農場長、松澤さんも所属する栽培班、選果班、施設修繕担当に分かれています。栽培班は、統括として副農場長、松澤さんを含めて栽培リーダーが2名、担当が1名の計4名で構成されています。また、今後は新入社員の数名も栽培班に加わる予定です。パート従業員は90名ほどで、60歳以上が60%を占めます。この状況において、チームで農業をするおもしろさと難しさについて松澤さんに話を聞きました。
チームで農業をする楽しみと難しさ
松澤さんは、日々変化するトマトの樹の姿や形を見ていることが楽しいと話します。それだけでなく、
農業の魅力は、モノを作っている実感がわき、それが会社の収入につながっていくことも手に取るようにわかることだと言います。チームで農業をすると、人ごとに細かい作業のやり方や結果が異なり、平準化をすることが難しいそうです。その反面、松澤さんは、栽培する人によるバラツキを減らすことを目標に工夫を続けられることがチームで農業をする楽しみでもあると話します。
同じ時期に同じ条件で栽培しても、栽培者が違うと樹の姿も収量も変わります。データや数字をもとに、誰が作業しても狙った樹の姿や形、狙った収量に近づけていくことが難しいけれど、最高におもしろいです。
チーム内でどのように情報共有をしている?
久喜農場では、シフト制で出勤日が毎日同じになるとは限りません。そんな中で、オンライン、オフライン共にチームで綿密な情報共有を行い、共通認識を持つように心がけているそうです。
日々の出来事などをslackというビジネス用メッセージングアプリで共有しています。そのほかにも、各自で話をする時間を設けたり、2週間に1回はミーティングをしています。さまざまな方法でコミュニケーションは取れていると思います。
久喜農場の魅力は、一丸となって上を目指しているところ
松澤さんが久喜農場のどこに魅力を感じているかと言うと、「みんなで上を目指して進んでいるところ」だと話します。2017年の開場以来、収量や収益が増加し続けているのはもちろんのこと、農場をよりよくしていこうとする姿勢が好きだと言います。
収量を上げていかに利益を出していくかを目標にして、みんなで考えるところが好きですね。それは、利益を出せば、労働環境もよりよくできるし、チャレンジできる幅が広がるからです。開場当時は、安定を大切にしていましたが、ここ2年くらいは一度完成したものであっても、よりよくしていくために日々検証、改善を続けています。
従業員であることの葛藤
従業員として農業に携わる中で、葛藤を感じたこともあると松澤さんは話します。それは、企業に雇用される形で農業をするメリットとしてあげられることが多い「安定収入」についてです。もちろん、安定的な収入は、収入が不安定だといわれている農業という産業において、大きなメリットではありますが、松澤さんはかつてそれにもどかしさを感じた経験があると言います。
夏場に僕が栽培に関わったトマトが大量に裂果してしまったことがありました。会社にも多大な迷惑をかけたのに、僕の収入はいつも通りでした。個人経営であっても、その責任を全部負うべきというわけでもないのでしょうが、従業員として責任をもって栽培をしているのに、その責任を負えないもどかしさを感じたことがありました。
雇用される形で実現できたこと、これからやりたいこと

撮影:紀平真理子
雇用される形で農業法人で働くと、「自分のやりたいことができない」というイメージを持たれがちですが、松澤さんはそうではないと言います。イオンアグリ創造株式会社のことをどのように見ているのでしょうか。
僕は、この会社は、もともとの農業のやり方にしばられていないと感じています。仮説を立てて効果を説明できたり、検証を元に導入可否を決めるなどのプロセスをきちんと踏めば、新しいことにチャレンジしたり、やりたいことを実現したりできる場所だと思っています。
具体的に、松澤さんが今までに実践した改善は、細かいことから大きなことまでさまざまだと言います。新しいことにチャレンジすることは、リスクも伴いますが、そのリスクを検証によって定量化しながら久喜農場も松澤さん自身も変化を続けています。
細かい作業のオペレーションの改善や、資材の変更など改善は多岐にわたります。たとえば「よりいい苗を作る」という目標があった場合に、育苗施設の照明や棚の高さを変えるなどの細かい点から、新しい機器の導入などの比較的大きな投資までを組み合わせて改善を重ねます。最近、改善による効果が見えてきているのでうれしいです。
最後に、今後松澤さんが挑戦したいことについて聞きました。
今は、久喜農場の収益を上げることを目指して全力で取り組んでいるので、遠い未来のことはあまり考えていないのですが…農業をよりよくしていく役割として、イオンアグリ創造株式会社を通じて久喜農場で構築した仕組みを広めながら、より日本の農業が安定して農産物を供給できるような取り組みをしていきたいです。
イオンアグリ創造株式会社には、後継者や独立志望の人も働いているそうです。松澤さんのように、
個人ではできない規模の農業を通じて、農業を発展させたい、
リスクを考えながらも、現状に満足せず新しい目標に向かっていきたいと主体的に行動できる人にとっては、雇用される形での就農もおもしろい農業への関わり方でしょう。
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