環境にいいのは、全員有機?農家数カット?|おしゃれじゃないサステナブル日記No.18

【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第18回は「環境にいいのは、全員有機?農家数カット?」。 議論好きな人が多いというオランダで今、農業と環境について、ある2つの極論が注目を集めているようで…。さて、そのテーマとは?


農地と環境

写真提供:maru communicate 紀平真理子(重い話の前に心休まる絵で小休止。私が描きました)
前回の「明けましておめでとうございます。御嶽海関に会いに行きたい(No.17)」では、POPに新年のご挨拶と抱負を語らせていただきました。
今回は、ガチな「農業と環境」の話です。
最近、オランダでは Land sharing(土地の共有)Land sparing(土地の節約)という考え方について議論されることが、農業関係の業界団体を中心に流行っています。これについて、私はまだ是非を論じるほど、理解ができていません。ただ、わからないことをわからないまま伝えることができるのも、日記ならではかな?と思うので書いてしまいます。そして、皆さんのお考えやご意見いただけると嬉しいです。

Land sharingは「できれば全員が有機栽培に転換する」という考え方

農業と環境
写真提供:maru communicate 紀平真理子(環境を気にして、かつて室内でミミズを飼っていました)
まず、言葉の概念から説明します。Land sharing(土地の共有)とは、農地の生物多様性を担保することによって環境が守られることを主軸にして、「農業生産は、複雑で多様な機能を持つ農地で行われるべきだ」という考え方です。

この考え方が派生して、「多くの、できれば農業者全員が有機農業に転換すべきだ」と乱暴にいわれることも多々あります。ただし、食料を供給するために、農業者数や農地面積自体も増やす必要があるとされています。

Land sparingは「生産性の高い農家だけに集約する」という考え方

農業と環境
写真提供:maru communicate 紀平真理子(生産性の向上を追求し続けるオランダのWorld horti center)
一方で、Land sparing(土地の節約)とは、「農地面積を限りなく減らして、現農地の大部分を自然に戻すべきだ」という考え方です。その少ない農地面積での生産性を最大化することによって、食料も確保しながら自然保護区の生物多様性を守ろうという考え方です。

かなり乱暴にいうと、生産性の高い農家のみにしぼって、農家数(農地面積)をぐっと減らそうということです。オランダのように少ない農家数で高収量を目指す国(農業系、特に施設園芸の業界団体)では、基本的にはこちらの考えを支持することになります。

白黒つけられないけれど…

農業と環境
写真提供:maru communicate 紀平真理子
これは、もちろん白黒はっきりつけられるような話ではないのですが、これらの考え方を元に議論することは必要だと思います。超個人的な論点をまとめました。

1. 日本のような複雑生態系でも、欧米と同様に評価していいの?

日本は生物多様性が高いだけでなく、自然地理学上の多様性、生態系の多様性が組み合わさっています。Land sharing(⼟地の共有Land sparing(⼟地の節約)の考え方は、欧米中心で議論されていますが、日本の生態系は構成する種の数が多いのでヨーロッパと比較しても複雑で、一般化や数値化が難しいことをどのように考えればよいのでしょうか。

2. 両者の最適なバランスは?

KPI(重要業績評価指標/目標=環境保全の実現と食料の供給の両立、を実現するために必要なプロセスを定量化)をどこに設定すべきでしょうか。特定の作物の収量をKPIにするのか、生物多様性指数をKPIにするのかという点も気になります。いずれか一方を選択するのではなく、「どの割合」であれば、環境にも配慮し、食糧生産も続けられるのでしょうか。

3. 生産性のタイムスケールは?

生産性をKPIに設定した場合も、単年なのか、50年の持続性も含めた生産性なのか、どのタイムスケールで考えるかという視点も必要だと思います。

4. 土地の機能をどう捉える?

そもそも「土地とは何か」という点にまで考えが及びます。土地の機能を人間のベネフィット(利益、恩恵)として設定すべきか否かという点も気になるところです。

5. 農地だけの話でいいの?

さらに、農地に限らず、市民農園や都市の公園など総合的な土地利用計画にLand sparingの要素を盛り込めないのだろうか、という疑問も持っています。

極端な主張を見かけたら、一度立ち止まる

オランダのお茶
写真提供:maru communicate 紀平真理子(お茶を飲んで立ち止まる)
どちらに振り切った場合は、「方向性から漏れたスタイルで営農している農家」にとって喜ばしいことではないと思います。そもそも、どちらかに振り切った政策をとることは日本ではできないでしょうし、得策ではないように思います。だからこそ「すべてをオーガニックに!」とか「高収量の農家以外は不要!」などの極端な主張に対して闇雲に同意せず、一旦立ち止まって考えることが大切なのだと思います。

人生は正しい/間違ってるだけでは判断できないことがたくさんあると思うし、だからこそおもしろい。この議論に関しても、あーだこーだと考え続けたいと個人的には思っていますが、皆さんはどのように思いますか?

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おしゃれじゃないサステナブル日記

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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紀平 真理子
紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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