教えてくれたのは|社会保険労務士 橋本將詞先生
2001年に橋本將詞社会保険労務士事務所を開業。農業労務管理、就業条件の作成、労働時間管理、事業継承など農業経営を人事面からサポート。2010年には、特定農作業従事者団体 京都農業有志の会を設立。
家族経営協定とは
家族経営協定締結のきっかけ
家族協定を締結するきっかけはさまざまです。家族経営協定のセミナーや協定を締結した農家の講演を聞いたことが契機となる場合や、 過重労働など日ごろの悩みの解決方法として経営方針や家族内の役割分担について話し合ったことがきっかけとなり、家族経営協定を締結することにした例もあります。家族経営協定を締結する主な目的
家族経営協定を締結する主な目的は、以下のようなものが挙げられます。1. 農業経営目標と家族の目標を同時に実現
2. ワークライフバランスの確立(農業の役割分担・家事の役割分担、社会参画、趣味など)
3. パートナーシップ経営による経営発展(経営方針、経営会議、休日・労働時間・収益の分配などの就業条件、資質向上など)
4. 経営内容・経営目的・家族の目標を「見える化」 (経営資源データの見える化、資金計画、農業経営発展計画、生活設計)
5. 次世代育成、経営継承のツール
参考:家族経営協定|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/keiei/jyosei/kyoutei.html
家族経営協定書に盛り込む主な内容
家族経営協定書に盛り込む内容は、それぞれが自由に取り決めできますが、基本的に、経営体が目指している目標や経営計画、経営方針などが盛り込まれます。また、家族間における経営の役割分担や、ワークライフバランスを考慮した労働日数、労働時間、休日が記載されます。そのほかに、報酬、収益の分配や福利厚生、経営譲渡などが記載されることもあります。様式はこちらからご確認ください。
家族経営協定|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/keiei/jyosei/kyoutei.html
家族経営協定締結農家が増加している理由
家族経営協定締結農家の増加の要因として、一般社団法人全国農業会議所の普及推進活動により青年等就農計画および農業経営改善計画の夫婦共同申請時の締結、農業者年金加入時の締結などが挙げられます。例えば、家族経営協定を締結することで、農業者年金の保険料について協定対象者も国庫補助の対象となることができます。家族経営協定を締結するタイミングは?
家族経営協定を締結するタイミングは、「経営の内容が変わるとき」が適しています。例えば、後継者が就農するとき、その後継者が結婚し、配偶者が家業を手伝うとき、法人化を視野に入れた土台づくりなどが挙げられます。
家族経営協定を締結するメリット
参考:農業版女性が働きやすい職場づくりポイントガイドブック|公益社団法人 日本農業法人協会
作業分担の視点が持てる
今後の農業には、家族経営、法人経営関係なく作業の分解や担当分けによる役割分担が不可欠です。家族経営協定の有無に関わらず、家族経営協定を取り決めるための話し合いの中で、調整作業、出荷段取り、農作業管理、農薬管理、納品、配送など、家族間であっても、誰がどの業務を責任を持って担当するかを取り決めることが大切です。家計と収支を分割する意識が持てる
家族経営協定締結以前の話として、農業経営の中で家計と収支を分けることには大きなメリットがあります。ただし、これを家族経営協定と結びつけるのは少々難しいようです。労務管理の観点から見ることができる
家族経営協定を締結する一番大きいメリットは、「労務管理の意識をしっかり持つことができるようになる」ことです。「家族だから」という理由で、一度外で働いた後継者や、その婚姻者と、かつてのように曖昧なまま一緒に仕事を進めることが時代に合わなくなってきました。後継者のジレンマ
昔は、家族の長男が学校を卒業後すぐに就農するのが一般的でしたが、現在は、卒業後に一旦就職する場合がありますし、必ずしも長男が後を継ぐというわけでもありません。外の世界で働くと、仕事とプライベートの境界線が曖昧な農業の世界に違和感を感じてしまう人もいます。後継者の婚姻者の思い
後継者の婚姻者の事例として、農業に対し「時間にしばられる」、「どこも行けない」、「農作業の終了後も家事に追われて、プライベートと仕事の区切りがなく、自由な時間を持てない」というイメージを抱いている方が多くいます。農業経営協定には行動の強制力はありませんが、書面でルールを明記することで、家族内の意識が変化することには大きな意味があり、仕事と家事を両立している家族にとっても働きやすい環境が構築されます。
家族経営協定を締結する時の注意点
目的ではなく、ツールとして活用する
家族経営協定は締結することが目的ではなく、コミュニケーションツールとして活用することが大切です。例えば、新たに後継者が就農する時や、結婚に伴い新しい家族を迎える時に、農業の実情を伝え、中身を見てもらいながら話し合うきっかけとして検討する方がいます。定期的に話し合いの場を設ける
家族経営協定を締結後すぐは家族間の関係がうまくいくことが多いです。数年経過して、作業体系や作付け品目、天候や取引先などの変化があると、それに伴い労働時間や作業分担も変化します。そのため、数カ月後か毎年おきにその時の実態に合わせて、家族経営協定を見直しする名目で、話し合いの場を設けることが大切です。第三者に頼る
家族経営協定を締結するデメリットとして、書面に理想を書いてしまい、現状と乖離してしまい協定の意味をなさないことがあります。これは、大変もったいないです。家族経営協定は、基本的には家族間で内容を検討・締結し、目的に向かって実践するためのものです。しかし、認定農業者の場合は、市町村、農業委員会、農業協同組合、都道府県各地域振興局農業普及指導課(農業普及指導センター)から作成アドバイスや助言を得ることができ、客観的な意見をもらえるので、相談してみてはいかがでしょうか。市町村主導で、家族経営協定の調印式が行われることもあります。
認定農業者になるには