【社労士監修】家族経営協定とは?メリット、注意点、締結のタイミングなど基本情報

家族経営協定とは、家族経営で農業に携わる世帯全員で、経営方針や役割分担、また働きやすい就業環境について、十分に話し合い、取り決めるものです。家族経営協定を締結するメリットや注意点、締結のタイミング、農業経営の観点から社会保険労務士の橋本將詞先生に解説していただきます。


家族経営協定

出典:PIXTA
農山漁村男女共同参画推進協議会のパンフレット『「家族経営協定」のすすめ』によると、平成31年には家族経営協定締結農家数は、全国で58,000戸を超えました。家族経営協定は、あまり知られてはいませんが、家族経営農家にとって家族間の役割や家族関係を話し合い、見直していくための大切な過程の一つです。今回は、家族経営協定を締結するメリットについて社会保険労務士の橋本將詞先生にお話を伺いました。

教えてくれたのは|社会保険労務士 橋本將詞先生

社労士橋本先生
写真提供:橋本將詞先生

2001年に橋本將詞社会保険労務士事務所を開業。農業労務管理、就業条件の作成、労働時間管理、事業継承など農業経営を人事面からサポート。2010年には、特定農作業従事者団体 京都農業有志の会を設立。

家族経営協定とは

家族経営協定
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家族経営協定とは、家族経営で農業に携わる世帯全員で、経営方針や役割分担、また働きやすい就業環境について、十分に話し合いを行い、取り決めたルールを文書化したものです。

家族経営協定締結のきっかけ

家族協定を締結するきっかけはさまざまです。家族経営協定のセミナーや協定を締結した農家の講演を聞いたことが契機となる場合や、 過重労働など日ごろの悩みの解決方法として経営方針や家族内の役割分担について話し合ったことがきっかけとなり、家族経営協定を締結することにした例もあります。

家族経営協定を締結する主な目的

家族経営協定を締結する主な目的は、以下のようなものが挙げられます。
1. 農業経営目標と家族の目標を同時に実現
2. ワークライフバランスの確立(農業の役割分担・家事の役割分担、社会参画、趣味など)
3. パートナーシップ経営による経営発展(経営方針、経営会議、休日・労働時間・収益の分配などの就業条件、資質向上など)
4. 経営内容・経営目的・家族の目標を「見える化」 (経営資源データの見える化、資金計画、農業経営発展計画、生活設計)
5. 次世代育成、経営継承のツール
参考:家族経営協定|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/keiei/jyosei/kyoutei.html

家族経営協定書に盛り込む主な内容

家族経営協定書に盛り込む内容は、それぞれが自由に取り決めできますが、基本的に、経営体が目指している目標や経営計画、経営方針などが盛り込まれます。また、家族間における経営の役割分担や、ワークライフバランスを考慮した労働日数、労働時間、休日が記載されます。そのほかに、報酬、収益の分配や福利厚生、経営譲渡などが記載されることもあります。

様式はこちらからご確認ください。
家族経営協定|農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/keiei/jyosei/kyoutei.html

家族経営協定締結農家が増加している理由

家族経営協定締結農家の増加の要因として、一般社団法人全国農業会議所の普及推進活動により青年等就農計画および農業経営改善計画の夫婦共同申請時の締結、農業者年金加入時の締結などが挙げられます。例えば、家族経営協定を締結することで、農業者年金の保険料について協定対象者も国庫補助の対象となることができます。

家族経営協定を締結するタイミングは?

家族経営協定を締結するタイミングは、「経営の内容が変わるとき」が適しています。

例えば、後継者が就農するとき、その後継者が結婚し、配偶者が家業を手伝うとき、法人化を視野に入れた土台づくりなどが挙げられます。
橋本將詞先生
橋本將詞先生
家族以外の第三者を雇用するときには、雇い入れ通知書(労働条件通知書)が必要です。お父さんだけでなく、息子さんやお嫁さんなど主に農業に従事している家族が役員であれば、法人化の際に一般企業と同様に労働者のみに条件を決定すればよいですが、家族も労働者として働く場合は、法人化の際に家族の労働条件を第三者に合わせなくてはいけません。そうなると、違和感が生じます。ベースに家族経営協定があると、雇い入れ通知書も作りやすいです。

家族経営協定を締結するメリット

家族経営協定
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家族経営協定を締結したことによるよい変化として、男女ともに「話し合いの機会が増えた」、女性の場合は「経営・生活の方針決定への参画」や、「経営目標の共有化」などポジティブな変化が挙げられます。農業経営の観点から、家族経営協定を締結するメリットについて考えます。

参考:農業版女性が働きやすい職場づくりポイントガイドブック|公益社団法人 日本農業法人協会


作業分担の視点が持てる

今後の農業には、家族経営、法人経営関係なく作業の分解や担当分けによる役割分担が不可欠です。家族経営協定の有無に関わらず、家族経営協定を取り決めるための話し合いの中で、調整作業、出荷段取り、農作業管理、農薬管理、納品、配送など、家族間であっても、誰がどの業務を責任を持って担当するかを取り決めることが大切です。
橋本將詞先生
橋本將詞先生
仕事の役割の明確化ができると、誰がどの時間帯に忙しいか見え、どの業務やどの家事を誰が担当すべきかがわかってきます。その意味で、役割分担を決めるためのツールとして家族経営協定にはメリットがあると思います。

家計と収支を分割する意識が持てる

家族経営協定締結以前の話として、農業経営の中で家計と収支を分けることには大きなメリットがあります。ただし、これを家族経営協定と結びつけるのは少々難しいようです。
橋本將詞先生
橋本將詞先生
経営の意思決定や業績改善のための施策を講じるなど、自社の経営に活かすために作成する管理会計や、作物ごとに会計をつけている方であれば、家計と収支を分割できるかもしれません。しかし、個人経営で確定申告のためだけに会計をつけている方は、家計と事業会計の分離が難しいのが実情です。家族経営協定の中に、これを盛り込んでいる方はあまり多くありませんが、長期視点で考えると家計と収支を分けることは大切です。

労務管理の観点から見ることができる

家族経営協定を締結する一番大きいメリットは、「労務管理の意識をしっかり持つことができるようになる」ことです。「家族だから」という理由で、一度外で働いた後継者や、その婚姻者と、かつてのように曖昧なまま一緒に仕事を進めることが時代に合わなくなってきました。

後継者のジレンマ

昔は、家族の長男が学校を卒業後すぐに就農するのが一般的でしたが、現在は、卒業後に一旦就職する場合がありますし、必ずしも長男が後を継ぐというわけでもありません。外の世界で働くと、仕事とプライベートの境界線が曖昧な農業の世界に違和感を感じてしまう人もいます。
橋本將詞先生
橋本將詞先生
将来的に雇用を考えている場合は、「いくら雇用者によい労働条件を明示しても、社長やその家族が私生活と仕事の境界なく働いていたら、雇用者はどう思うでしょうか」という視点でも考えておく必要があります。

後継者の婚姻者の思い

後継者の婚姻者の事例として、農業に対し「時間にしばられる」、「どこも行けない」、「農作業の終了後も家事に追われて、プライベートと仕事の区切りがなく、自由な時間を持てない」というイメージを抱いている方が多くいます。
橋本將詞先生
橋本將詞先生
男性でも女性でも、私生活と仕事がごちゃごちゃになってストレスを覚える方は多いです。特に会社勤務の経験があるお嫁さんやお婿さんなど外から家族に入った方は、仕事と生活にメリハリをつけないとなかなか定着しません。


農業経営協定には行動の強制力はありませんが、書面でルールを明記することで、家族内の意識が変化することには大きな意味があり、仕事と家事を両立している家族にとっても働きやすい環境が構築されます。

家族経営協定を締結する時の注意点

家族経営協定
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何事もメリットだけでなく、デメリットや留意点を把握することが大切です。家族経営協定を締結するときに気をつける点はあるのでしょうか。

目的ではなく、ツールとして活用する

家族経営協定は締結することが目的ではなく、コミュニケーションツールとして活用することが大切です。例えば、新たに後継者が就農する時や、結婚に伴い新しい家族を迎える時に、農業の実情を伝え、中身を見てもらいながら話し合うきっかけとして検討する方がいます。
橋本將詞先生
橋本將詞先生
食事中に話しても、その日の農作業についての話題が主になり、農業全体について議論することは難しいと思います。家族経営協定を作るうえで、栽培サイクルなども含めてきちんと話をしていき、半年から1年後に再度話し合って見直しができるといいですね。

定期的に話し合いの場を設ける

家族経営協定を締結後すぐは家族間の関係がうまくいくことが多いです。数年経過して、作業体系や作付け品目、天候や取引先などの変化があると、それに伴い労働時間や作業分担も変化します。そのため、数カ月後か毎年おきにその時の実態に合わせて、家族経営協定を見直しする名目で、話し合いの場を設けることが大切です。

第三者に頼る

家族経営協定を締結するデメリットとして、書面に理想を書いてしまい、現状と乖離してしまい協定の意味をなさないことがあります。これは、大変もったいないです。
橋本將詞先生
橋本將詞先生
実態にあった作り方をしないと 絵に描いた餅になってしまい、あまり意味がありません。その意味では、口頭整理をしてくれる第三者に入ってもらうとよいと思います。

家族経営協定は、基本的には家族間で内容を検討・締結し、目的に向かって実践するためのものです。しかし、認定農業者の場合は、市町村、農業委員会、農業協同組合、都道府県各地域振興局農業普及指導課(農業普及指導センター)から作成アドバイスや助言を得ることができ、客観的な意見をもらえるので、相談してみてはいかがでしょうか。市町村主導で、家族経営協定の調印式が行われることもあります。

働きやすい環境を整備をしてから雇用や法人化へ

家族経営協定
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家族経営協定は、締結することが目的ではなく、家族間の話し合いのためのツールとして活用すると大変意義があります。その中で、家族間であっても働きやすい環境の整備や人件費を把握していくことは、将来的に法人化や雇用を視野に入れている場合も大きな足がかりとなるでしょう。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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