- Miyuki Tateuchi
アメリカのミシガン州に居住中。海外の農業情報や普段の生活を通して感じた食農トピックを紹介します。祖父が農家だった影響もあり、四季折々の「旬」を大切にしたいと思っています。…続きを読む
今回は、家族が集まる一大イベントのサンクスギビングと、その代表的な料理をご紹介します。
これまでの「アメリカ生活アグリ日誌」
饗宴という言葉がぴったり。サンクスギビングって何?
サンクスギビングとは感謝祭のこと。日本でも同じ時期に「勤労感謝の日」があり、元をたどると、収穫を神々に感謝する「新嘗祭」に行き着きますが、アメリカでも同じように、実りの秋を感謝します。毎年11月の第4木曜日が祝日となっており、金曜日を連休にする会社も多いため、帰省して親戚と過ごしたり、旅行に出かけて過ごしたりします(ちなみに、カナダでは10月の第2月曜日です)。その歴史的は1620年にさかのぼります。イギリスからアメリカのプリマスに入植したピルグリム・ファーザーズが食料不足の厳しい冬を越した後、先住民にトウモロコシなど穀物の栽培方法を学び、翌年の秋に無事収穫できたことをお祝いしたことが起源です。
当時の記録では、祝宴はお世話になった先住民も招き、3日間続いたとか。今もこれにならい、家族や友人が集まり、数々の定番料理を食べる年中行事となっています。
ディナーは驚きの4,500キロカロリー!これがコース料理の定番
ある調査によると、サンクスギビングの平均的な食事で3,000キロカロリー、飲み物や前菜、デザートまで含めると4,500キロカロリーになるといわれています。(参考:Calorie Control Council)テーブルに大皿料理が並ぶ中、家族の久しぶりの再会に、ついつい食が進んでしまいます。でも食事も楽しみのひとつ!ここからは定番の料理を紹介します。
ターキー(七面鳥)のロースト
サンクスギビングといえば、これ、ターキーの丸焼きです。スーパーでは冷凍で売られている事が多いので、解凍したり、内臓を取り出したり、塩水に一晩つけこんだりと下準備も大変ですが、アメリカではあちこちでターキーの香りが漂ってくるほど、多くの家庭が自宅で調理します。おいしさのコツは、肉がパサパサにならないようにすること。ハーブ入りの塩水に漬け込む代わりにバターを塗るレシピもあります。
日本では輸入ターキーが多いなか、北海道滝上町、石川県輪島市、高知県中土佐町大野見地区が主要な産地となっています。一羽ごと入る大きいオーブンが一般家庭にはなかなかないので調理が難しいですが、半身だけでも気分が味わえるかもしれませんね。
スタッフィング
家庭により、さまざまなバリエーションがあるのがスタッフィングです。元はターキーのお腹に入れて焼く「詰め物」の意味ですが、火が通りにくいため、最近ではターキーとは別に調理することも多くなっています。材料はニンジン、タマネギ、セロリなどの野菜のほか、ナッツやリンゴ、ドライフルーツを使い、さいの目に切ったパンと混ぜ合わせます。
ボリュームが欲しい時は、ひき肉やベーコンも加え、オーブンで焼き上げます。詰め物の場合には、「肉の中に肉?」と思いますが、ターキーはあっさりしているので、ベーコンくらいの脂加減があってもしつこくありません。
クランベリーソース
日本ではあまりなじみのないフルーツですが、アメリカではジュースもあるほど、身近なベリーのひとつです。サンクスギビングでは、ターキーにかけて一緒にいただきます。淡白な味のターキーに、少し酸味のあるソースはぴったりで、全体の味が引き締まります。酸味が強いクランベリーは生食には向いていないので、ジャムやソースにするのが一般的です。栽培風景がまた美しく、水田のように水を張った畑が収穫時にはクランベリーで一面真っ赤に染まります。Eテレの番組「0655」に出てくる「クランベリーの赤い実」の歌でご存知の方もいるかもしれませんね。
日本では大規模には栽培されていませんが、鉢植えで育てることも可能です。きらりとした光沢のある実は宝石のように美しく、観賞用としてもおすすめです。
芽キャベツのロースト
シチューやスープに入れるとオシャレ度が一気に高まる芽キャベツ。サンクスギビングでは、オリーブオイルに塩・こしょうだけで味つけし、オーブンで焼くだけのロースト料理として登場します。全体的に茶色になりがちの料理を、緑色の芽キャベツが明るくします。英語名は”Brussels Sprouts”というように、原産地はベルギーのブリュッセル。日本語の別名で「子持ちカンラン」と呼ばれるように、1つの茎に50〜60個の球が鈴なり状につきます。
日本では、全国の生産量の約9割が静岡県で生産されています。ご家庭でも栽培できますので、AGRI PICKの記事を参考にしてみてくださいね。
インゲンのキャセロール
キャセロールとは、フランス語で「ふた付きの厚手鍋」の意味で、耐熱容器をオーブンに入れて焼き上げたグラタンのような料理のことです。サンクスギビングにこの料理が登場するようになったのには仕掛け人がいました。1955年に、スープで有名なキャンベル・スープの従業員が自社のクリームマッシュルームスープを使ったレシピを考案したのがきっかけです。
意外と歴史は浅いですが、インゲンという身近な野菜を使って簡単にできる料理だったため、新定番となりました。オリジナルレシピでは、市販のフライドオニオンをトッピングしています。
マッシュポテト・グレービーソース添え
マッシュポテトはサンクスギビングに限らず、アメリカでは良く出てくる料理です。ポテトサラダの具を入れる前の状態に、バターと牛乳または生クリームを入れて作ります。これに添えるのがグレービーソース。意味は「肉汁」で、ターキーを焼いた時に出た肉汁に小麦粉を加え、とろみが出るまで火にかけて作ったソースです。レシピによって、ワインやケチャップ、炒めたタマネギを加えたりします。ダマにならないように、ゆっくりとかき混ぜながら作るのがコツ。
これがあると、マッシュポテトにソースがからみ、なめらかな食感で食べやすくなります。ぱさつきがちなターキーにかけて一緒にいただくこともあります。
サツマイモのキャセロール(マシュマロのせ)
マッシュしたサツマイモにマシュマロをのせて焼き上げた、衝撃の一品です。サツマイモは、アメリカではYam(ヤム)と呼ばれており、日本とは違って鮮やかなオレンジ色、水分はやや多めで甘みが少なめです。日本のホクホクとしたお芋で作ったら、更においしくなりそう。こちらの料理(デザート?)にも仕掛け人がいて、1917年にマシュマロのメーカーがいろいろな食べ方を提唱する料理本を発行した時のレシピに掲載されていたのが最初ということです。
バーベキューでもマシュマロを焼くとおいしいですよね。ほんのり焼き色がついていて、トロトロとしている食感がたまらない味です。
パンプキンパイ
最後に締めの一品。カボチャのピューレを使ったパンプキンパイです。アメリカではこの時期になると、市販のピューレ缶をよく見かけるのですが、自分で濾して作ってみてもよいですね。そして、この味をひきたてるのがスパイス。シナモン、ジンジャー、クローブ、ナツメグなどが入り、少しピリっとする味になっています。アメリカでは秋になると、この「パンプキン・スパイス味」なるものがいろいろなところで登場します。クッキーなどのお菓子だけでなく、スタバではパンプキン・ラテが人気です。
パイの種類は、パンプキンのほかにもリンゴやピーカンナッツを使ったものなど、州によってさまざまです。
日本にも通じるものがあるサンクスギビング。スポーツ観戦も欠かせない
サンクスギビング、時期は秋の終わりですが、家族が集まり団らんするという意味では、日本の「お正月」に似ている気がします。定番料理があるのも、日本のおせち料理に似ているような。お料理のほかにスポーツも欠かせません。日本でもお正月に箱根駅伝があるように、アメリカでは、サンクスギビングにフットボールの試合をTV観戦することが多いです。準備が大変なことからHoliday Stress(ホリデーストレス)という言葉もあるくらいですが、おいしい料理をいただきながら、ゆったりした気分でくつろいで過ごす時間は最高ですよね。
我が家では、昨年は「食べ切れない」と、パックに入ったターキーを温めただけでしたが、今年はフルコースに挑戦してみようかな。アメリカ式に、ターキーとデザートは夫の担当とか、役割分担して作るのもよいかも。そして、アメリカではチャリティーが盛んな国らしく、レストランや教会で、困っている人に無料でサンクスギビングの食事を提供しているのをよく見かけます。すべての人が収穫の喜びを感じられるように、心温まる取り組みだと感じました。
気がつけば、年末の足音も聞こえてきましたね。次回はクリスマスツリーとポインセチアについて、アメリカでの様子も含めながら紹介します。
Miyuki Tateuchi プロフィール
就職情報会社、外資系人事コンサルティング会社を経て、2017年よりアグリコネクト株式会社でリサーチ業務に従事。2019年より夫の転勤に伴い、アメリカのミシガン州在住。成長期真っ只中の2児の母。農業と地域、世界の料理などへの興味を元に、情報発信していきます。