みんなが普通に使っている「循環」「地域」って何だろう?|おしゃれじゃないサステナブル日記No.5

【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第5回は「みんなが普通に使っている「循環」「地域」って何だろう?」
環境を守るために、循環型農業はどこまで有効? さらに、循環型農業を語る時には切り離せない「地域」の概念についても言及します。


循環型農業

写真提供:maru communicate 紀平真理子
前回記事「雑草・病害虫管理の理想は高く!現実は忘れず!(No.4)」で少し触れた「循環型農業」や、それに伴う「地域」にまつわるとりとめのない話をしたいと思います。


「循環型農業」って何?

循環型農業
写真提供:maru communicate  紀平真理子(三ケ日みかん)
まず一筋縄ではいかないのは、「循環型農業」に明確な定義がないことです。農水省によると循環型農業は、「環境保全型農業」の中に位置付けられていて、環境保全を達成するために自然循環機能を維持・促進することだそうです。

じゃあ「何が循環しているの?」というと、土壌中の有機物が微生物によって無機物に分解され、植物の栄養になる土壌中の「物質循環型農業」や、廃棄される残さなどの資源を再活用する「資源循環型農業」、地域にある資源を有効活用して、地産地消などと組み合わせる「地域循環型農業」など、「循環型農業」といっても文脈が違います。

「地域」という言葉に囚われる

循環型農業
出典:Pixabay
さらに私を混乱させているのは「地域」という言葉です。たびたび循環型農業のキーワードとなる「地域」は、地産地消や地域の資源、地域に貢献など切っても切り離せません。私の好きなアメリカの歌手が「思考は言葉に制限されてしまう。言葉に思考が縛られてしまう。言葉は概念に過ぎず、あとはおのおのが探るべき」とインタビューで語っていましたが、私は地域という言葉に思考が縛られてしまいます。「地域ってなに?」半径何km以内?県?市?町?それとも河川の流域で考える?

「地域」に目を向けることのメリット・デメリット

循環型農業
写真提供:maru communicate 紀平真理子(オランダでは珍しい複合農家)
農業が地域に目を向けること自体はとても大切だと思っています。

地域縛りだとスケールメリットを生かせない?

一方で、地域内での循環はスケールメリットを活用できなくなるので、農家の経済面を考えると実現は困難を極めるのではないかとも考えています。私がオランダで出会った畑作農家の「ローカル向けはボランティアだよ。量が少ないからタダであげてもいい。あとは輸出!輸出!」という言葉に表出している気がします。コールドチェーンや産地について個人的に大賛成というわけでもないですが、農家にとっても消費者にとっても大きなメリットがあることも忘れてはいけないなと感じています。

地域内資源は格差が出ない?

また、「地域の資源」とくくってしまうと、地域間で格差が出てしまうことを懸念しています。たとえば、私が住んでいる静岡県浜松市は、吸収合併により全国の市町村で2番目の面積を有し、海も山も豊富な資源もあります。地域を「市」と仮定するのであれば、「地域の資源」も比較的幅が広い中から選択できます。しかし、たとえば標高1,000mを超える高原地帯で、地域の資源を使った循環型農業は実現できるのでしょうか。この地域間の是正のために、化学肥料が使われたり、地域を超えた資源の交換がされたのではと瞑想に耽っています。

心にすっと入り込んだ「地域」の説明

循環型農業
写真提供:maru communicate 紀平真理子
この葛藤の中で、先日京丸園株式会社の鈴木厚志さん、鈴木緑さんとお話をして、「地域」の説明が腑に落ちたので紹介します。京丸園さんは最近多くの企業が掲げているSDGsやソーシャルファーム(Social firm)の取り組みの中で、農業と企業が連携できるのではないかと考えています。「見える範囲の田畑」を耕して、収穫物を企業に買い上げてもらう代わりに、企業の障害者雇用や精神的に働きにくい人を引き受けることなどの具体的な取り組み例(または夢)を語ってくださいました。この取り組みの中で、「消費する人」や「働く人」だけではなく、「農地の保全」や「この場所で営農する意味」、「農業経営向上」など三方よしが実現できるのではないかと思案されています。

このように抽象度を下げて具体化して説明してもらったことで、厚志さん、緑さんの考える「地域」の概念が見えてきて、そのあと「地域」という言葉がいくら出てきても、すっと受け入れることができました。私は、京丸園さんが「目が届く範囲」の地域で、「直接話せる距離の人たち」との循環を目指しているのだろうと解釈しました。

京丸園株式会社
1996年より障害者自立支援センターと連携し、雇用および研修生の受け入れを開始。2004年に屋号を継承し、京丸園株式会社を設立。圃場面積約130aで、水耕栽培による姫ねぎ、姫みつば、姫ちんげんを栽培するほか、水稲100a 、野菜類 50a も。2019年、第58回農林水産祭天皇杯を受賞。


循環させるメリットとさせない選択肢

循環型農業
出典:shutterstock
「循環」や「地域」など耳にやさしい抽象的な概念は、ついつい使いたくなります。何を隠そう私もよく使います。でも、これを具体化して実務レベルに落とし込むには、多くの障壁や葛藤があることも知っておくべきではないでしょうか。「何を」「どのように」循環させるのか、また「循環させないこと」も選択肢に入れて最適な方法を考えたいです。鈴木夫妻との会話から、また「地域」の概念は、抽象的だからこそ具体的な取り組みまで落とし込んではじめて、ほかの人と共有できるのだろうと思います。

いずれにせよ「あそこでできたのだから、ここでもできる」とか「あの人ができるのだからあなたもできる」のような同質的なものではないので、もう少し力を抜きたいです。でも「地域」の定義については、興味がある人たちと力を入れて話したいです。

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紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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