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農業への企業参入事例|シナジーを期待した国産バナナ栽培への挑戦


平成21年の農地法の改正により、借地であれば企業が原則自由に農業に参入できるようになりました。そのため、企業の農業参入が増加していますが、必ずしも成功事例ばかりではなく、失敗から撤退する企業も数多くあります。企業の農業参入はメリットを享受し、シナジーを生み出せるのでしょうか。国産バナナ栽培の事例から考えます。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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国産バナナ

写真提供:株式会社 芝開発
平成21年の農地法の改正により、リース方式での企業の農業参入が制度的に自由化され、一般法人であっても全国どこでも農業に参入が可能になりました。農地を利用して農業経営を行う一般法人は、平成30年12月末現在で3,286法人となり、改正前の約5倍のペースで増加しています。しかし、必ずしも成功事例ばかりではなく、失敗し農業から撤退する企業も後を絶ちません。

今回は、企業の農業参入の事例として、愛媛県鬼北町でバナナ栽培をしている株式会社 芝開発 芝祥二さんにお話を伺いました。農業参入後に親会社にもたらすシナジー効果や今後の課題とは?

国産バナナの栽培に取り組む 株式会社 芝開発の会社概要

・会社名:株式会社芝開発【レンタル会社、警備事業、農業事業】
建設工事会社(通信工事、電気工事、管工事、土木工事、建築工事)、土木建設会社(介護事業、建設工事)、タクシー会社などを営む
・所在地:愛媛県北宇和郡鬼北町
・設立:1993年 (農業参入は2017年~)
・圃場面積:900平方メートル
・栽培品目:バナナ(品種:グロスミッシェルほか)
・売上高:約300万円
・従業員数:3名
・流通:インターネット通販、道の駅、県内青果店、飲食店
(2020年現在)


教えてくれたのは|株式会社 芝開発 代表取締役 芝祥二さん

農業企業参入

平成5年に株式会社 芝開発を設立し、同社代表取締役と、鬼北バナナ企業組合の設立発起人代表を務める。

農業に参入したきっかけは?

国産バナナ
写真提供:株式会社 芝開発
実家が稲作農家の芝さん。将来の事業継承を視野に入れ、自身の会社の一部門として農業に参入することを決めたと話します。また、自社の事業である電気設備や給排水設備技術を応用できると考えました。では、稲作と異なる作目であるバナナを選択した理由は何でしょうか。
芝 祥二さん
芝 祥二さん
国内ではバナナ栽培が非常に少なく、輸入総量に対して0.01%以下です。国産バナナの増加に挑戦することで、日本の農業に対する意識を少しでもいい方向に変えられると信じて取り組んでいます。

しかし、現実的には国内でバナナを栽培することは容易ではありません。一般的に、赤道を挟んで南北緯30度以内の地域(バナナベルト)では、バナナの栽培が盛んですが、同社が位置する愛媛県鬼北町は北緯35度程度です。外気温が低いため、温室なしでは栽培が難しく、ハウス内を温めるための暖房費などで経費がかかってしまいます。そのため、出荷数が少量であっても良質なものを産出し、また高額で販売しないと生産を続けるのが難しいという側面もあります。

農業参入にあたり準備したことや資金調達の方法は?

国産バナナ
写真提供:株式会社 芝開発
企業として農業参入するにあたり、準備したことや苦労したことを教えていただきました。


親会社の中に農業部門を設立

株式会社 芝開発の場合は、新規に農業法人を設立するのではなく、社内の一部門として農業に参入しました。そのため、新規就農時に利用できる融資、助成金などの支援策に該当せず、すべて自己資金でまかなうことになりました。

バナナ栽培用ハウスの建設

バナナ用に建設したのは高さ6メートルの施設。元々行なっている事業で電気設備、給排水設備などの知識や技術もあるため、自社内でこれらの準備ができ、建設コストなどの初期投資を安価におさえることができました。一方で、バナナは一般的な作目ではないため、種苗の入手にも苦労しました。
芝 祥二さん
芝 祥二さん
農業参入時にバナナ苗を注文しましたが、販売元が受注をしてから育苗を開始するとのことで、確保までに約半年以上の時間を要してしまいました。さらに、ハウス建設や設備の遅延で、苗に霜がおり、半数以上が枯れたような状態になって生長が遅れたり、出荷予定時期に出荷ができなかったりと、想定外のできごとがいろいろありました。

各種認証を取得

新規参入時に、商標登録(スマイル イン・バナナ)、認定農業事業者、ASIAGAPなど各種認証も取得しました。スマイル イン・バナナを応援してくださる方々のご協力があり、取得にはそれほど苦労はありませんでした。ASIAGAPに関しては2020年1月に有効期限が切れ、新規認定は行わず現在に至っています。
芝 祥二さん
芝 祥二さん
ASIAGAPというJGAPとGLOBALG.A.P.の中間の認証を取得しました。でも、これを持っていても関係ないんです。GAPは「工程管理をしっかりしている」などのアピールやプロモーションを消費者に対して行ってないのです。そのため、大手と契約するためには有利かもしれませんが、個人消費者などに販売している私たちにはメリットを感じませんでした。

また現在は、栽培期間中農薬不使用はもちろん、水質管理栽培、有機質栽培が重要だと考え、鶏ふん堆肥100%と米ぬかなど独自配合の肥料など有機質資材を用いて栽培。「国産有機バナナ」との表示をするために、有機JAS認証の取得申請を進めています。


企業が農業に参入するときの要件

農業企業参入
出典:写真AC
企業が農業に参入するときの要件は、基本的に個人と変わりません。借地であれば全国どこでもスタート可能で、土地を所有する場合は、農地所有適格法人の要件を満たす必要がります。

基本的な要件は以下の通りです。これは個人も同様です。

農地のすべてを効率的に利用

機械や労働力などを適切に利用するために、営農計画を持っていることが要件です。

一定の面積を経営

農地取得後の農地面積の合計が、原則50a(北海道は2ha)以上であることが必要です。ただし、この面積は、地域の実情に応じて市町村の農業委員会が引き下げることができます。

周辺の農地利用に支障がない

水利調整に参加しなかったり、農薬を使用せずに栽培する取り組みが行われている地域で農薬を使用したりするなど、周辺の農地利用に支障を伴う行為をしないことが要件です。
参考:法人が農業に参入する場合の要件(農林水産省)https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/sannyu/attach/pdf/kigyou_sannyu-22.pdf

農業参入後に企業組合を立ち上げ

国産バナナ
写真提供:株式会社 芝開発
芝さんは、農業参入後に鬼北バナナ企業組合も設立しました。この背景は、株式会社 芝開発という一企業の農業部門だと自治体や公共団体などから十分な支援策が受けられないことにあります。鬼北町では、ほかの作物で企業組合を作って活動している前例があり、企業組合であれば、地域一丸となってバナナ栽培で農業を盛り上げるための協力を得られるのではないかと考えました。


企業組合とは

企業組合とは、中小企業など協同組合法を根拠法とする「人的結合体」の組織です。目的は、働く場の確保や経営の合理化です。一方で、株式会社は利益の追求を目的とした「物的結合体」ですので、形態が異なります。設立要件は4名以上の個人で、組合員資格があるのは、個人および特定組合員(組合の事業活動に必要な施設・物資・技術・人材等の提供を行う法人など)です。
芝さんは、一企業として農業分野でも地域に貢献したいという思いがありました。そのために、地域振興に直結した事業を行うことも多い企業組合を選択したといいます。

鬼北バナナ企業組合

鬼北バナナ企業組合の主な事業内容は以下の2点です。

1. バナナ栽培の促進、栽培協力者の販売支援などの販売事業の展開
2. バナナの子株のレンタル事業で、今後バナナ栽培を目指す方々のために格安で子株のレンタルを行い、先行投資を極力抑えて、栽培開始当初より収益確保していただく目的での事業展開

また、組合員資格として「地域農産物(耐寒性バナナ等)の栽培および販売並びに子株のレンタルを行おうとする個人又はこれに熱意のある個人」が記載されています。現状では、鬼北バナナ企業組合はまだ立ち上げ時のメンバーのみですが、今後地域の中で組合員を増やしていき、将来的には親会社から企業組合へ農業部門を移行することを目指しています。
芝 祥二さん
芝 祥二さん
鬼北町はユズとシイタケの産地ですが、今後はバナナも新しい特産品として、地域に貢献していきたいと考えています。

課題は生産コストと販売価格

スマイルイン・バナナ
写真提供:株式会社 芝開発
現在の課題と今後の目標の一例として、芝さんに価格と販路について説明してもらいました。

小売販売価格は、国産高級スマイルイン・バナナ1本1,100円(ふるさと納税品はプレミアムイン・バナナ2,000円、サイズが2倍程度になるものはジャイアントスマイルイン・バナナ3,000円)と高価格で販売されています。
ハウスでのバナナ栽培に必要な暖房光熱費などのコストがかかるほか、年間1.5〜2トンほどの収穫量のうち、良質なもの30〜40%のみを「国産高級スマイルイン・バナナ」として販売しているため、総販売量も多くなく高額になります。そのため、市場などにまとめて販売することも簡単ではありません。

今後は、よいものを厳選して出荷して、さらに価格を高めることや、高級店を販路に加えることを目指すと同時に、自社の栽培面積の拡大や、企業組合の組合員の拡充による、生産数の増加と規格を揃えて市場にまとめて出すことも検討しています。

企業として期待しているシナジー

農業企業参入
出典:Pixabay
同社は、元々保有していた技術に加え、バナナ栽培を自ら行うことで構築した知識と技術をもって、バナナ栽培のための施設や整備をシステム化しました。それをパッケージ化し、バナナ栽培の新規就農者に提案・販売しています。自ら農業に参入して得た知識にもとづいて、施設の建設費用を格段に安くおさえることができるようにもなりました。さらに町が特産品としてバナナを扱った場合、施設の建設費も安価で提供でき、地域の企業として地域農業に貢献できると考えています。それだけではなく、企業としても農業に参入したシナジー効果があると期待しています。

親会社との関係性を明確化して農業参入に取り組もう

企業の農業参入
出典:写真AC
企業が農業参入を視野に入れた時、さまざまな経営形態が考えられます。株式会社だけでなく、株式会社 芝開発のように、企業組合や親会社の農業部門として参入することも可能です。ただし、経営形態によって補助金交付の条件だけでなく、外部からの見え方も変わるため、慎重に選択する必要がありそうです。また、その中で切り分ける部分や共同する部分を考慮した上で、親会社と農業部門との関係性を明確化することが重要かもしれません。

農業への企業参入事例については、下記でもご紹介しています。


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