これまでの「ハッピーファミリーファーマーズ日記」
人間 VS イノシシ
南阿蘇だけではなく、全国的な農村の頭痛の種が“獣害”です。すみかである森が荒れてきていることや、日本にはオオカミなどの天敵がいないことなどで、どこの農山村でもイノシシ・シカ・サルによる被害が広がっています。農水省のホームページによると、野生鳥獣による農作物への被害額はなんとおよそ158億円(平成30年度)!大変なこっちゃ。ここ数年、我が家の田んぼも毎年荒らされるようになってきて、被害は年々ひどくなっています。遠目にみると美しい田園風景も、影のように黒くなっているところに近づいてみると、たくさんの稲をイノシシが倒してしまっています。
今回の話題は、ハッピーとは言いがたいイノシシとの戦いです。
電気柵ネットもピンクのひらひらテープも効果なし…
何十枚もある広い田んぼ全てに、イノシシを侵入させないための電気柵を張るのは大変過ぎるので、入って来やすい場所を考えて、ピンポイントにネット・電気柵・蛍光色のビニールテープの設置をしています。近隣の農家には、電気柵を胸の高さぐらいまで張っている人もいますが、それでもダメ。こっちも必死ですが、野生の必死さにはかないません。
役場の方からの提案で、来年の作付けのために金属製のメッシュ柵を設置することになっていますが、今年は間に合わないので、ひたすらイノシシとの知恵比べ&根気比べ中です。
悔しまぎれに食べることに
「天敵がいないなら、我々が食ったるわい!」ということで、義祖母の命日であり父の誕生日でもある日の夕食に、知人がくれたイノシシ肉を食べることに。なにせ素人なので、適当に切って、適当に焼いたら、案の定かたい…(苦笑)。焼いてダメならと煮込んでみましたが、こちらはまぁまぁのかたさでした。それでも、酒好きの父は喜んで、歯ごたえたっぷりのイノシシ肉を食べてくれました。煮ても焼いてもダメなら、前々からやってみたかった「イノシシ肉ジャーキー」の試作をしてみようと、かたい肉でもやわらかくしてくれそうな塩麹や味噌に漬け込み中です。日本の発酵食の力に期待!大雑把な性格なので、分量も量ってないし、出たとこ勝負なんですが、酒のつまみにぐらいのおいしさになれば、量産しようと思っています。
で、出た~っ!!
イノシシ肉を食したその晩。夫が「夜の見回りに行く」というのでついて行くと、なんと、まさに田んぼの中に潜んでいるイノシシを発見!軽トラックが近づいた音を聞いて、イノシシも「ヤバイッ」と思ったのでしょう。既に稲を倒してしまっている場所で、頭だけ稲の中に突っ込んで、背中からお尻は丸見えです。頭隠して尻隠さずって、そのままじゃんっ!と笑いたくなるぐらい。
石かと思うくらい、ジーっとしてまったく動かない敵。
夫が棒切れを持ってジワジワ近づき、あと数メートルのところまで距離を縮めたところで、いきなりイノシシが駆け出し、水路をバチャバチャ勢いよく進んで隣の田んぼへ。まだ稲が倒されていない田んぼに入った途端、どこに隠れているのかまったくわからなくなってしまいました。
ドンドン音を鳴らしたり、ライトで照らしたり、1時間ほど根競べをしたでしょうか。でも舐められているのか、その後はまったく見つけられず、追い出すこともできませんでした。悔しいな~。というわけで、イノシシとの戦いは今後も続きます。
ハッピーなことばかりじゃないけど
これが農家の現実です。全然ハッピーじゃありません。むしろ大変なことのほうが多い中に、幸せをみつけるところに極意あり!コロナ禍でも、4人の子どもたちとともに、家族全員が元気でいられるだけでも、得がたい幸せだと思っている毎日です。写真ですてきな笑顔を見せてくれているのは、こんな私たちの暮らしを取材に来てくれたライターさん&我が家の元インターンの女の子。結果、やっぱりハッピーってことで♪
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大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」