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【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし女子大生2人を受け入れることになった件
ハッピーファミリーファーマー日記 No.7「農村に若者が増えているかも」の回に、女子大生2人が我が家に滞在することになった経緯は軽く書きました。今回はこの2人が来たこと、その後の生活のこと、これからのことなどもう少し紹介しようと思います。「今日からお邪魔してもいいですか?」と、大学1年生を終えたばかりの現役女子大生から連絡が入ったのは3月下旬のこと。聞けば、春休み中に研究室のプロジェクトが進行している九州の離島に行こうとしたが、島外からの来訪者を避けたいといわれ、しばらくは鹿児島の先輩のところに滞在。そろそろ帰京しようとしたところ、東京行の便が欠航になってしまった、とのことでした。
高校の時から農業に興味があって、学校を休んであちこちの農家さんを訪ねていたという子と、福岡生まれの東京育ち、海外留学も経験したけど農業にはほとんど触れたことがないという子の2人。
困っている様子の後輩からのSOSに、「ひとまずおいで。それから考えよう」という返事をして、とりあえず来てもらってから、「春休みだし、農作業を手伝うなら宿と食事は提供するよ」ということにして、数日間のつもりで我が家に受け入れました。
春学期の授業はオンラインで
ところが、彼女たちが来たその週末から、東京は厳戒体制に入り、都道府県境をまたぐ移動自粛や不要不急の外出を控える局面に入りました。そんなわけで、東京は感染者も多いし、春休み中はこのまま南阿蘇に残るか、という話になったのは割と自然な流れでした。その後2週間ほどが経ち、春休みの終わりに近づいても新型コロナウイルスの感染拡大は終息するどころか深刻化。新学期のスタートも遅れたので、そのまま彼女たちも残ることになりました。すると、大学側から「全ての授業をオンラインで受けられるようにする」という連絡も来て、それなら春学期いっぱいは、南阿蘇で過ごそう!という前向きな展開に発展したのです。
猫の手より女子の手
大学生たちはオンラインで授業を受けながらも、合間を縫って農作業。いや、農作業の合間を縫って授業に参加、といった方が正しいかもしれません。ただ、農作業を1人でやるのと2人でやるのでは別世界といえるほどの違いがありますが、3人だと手が余ることも(もちろん作目や栽培形態によりますが)。「2人いっぺんでなくても、どちらか1人でもいいから作業をしてもらえると嬉しい」という私のリクエストを聞いて、できるだけ2人の授業がかぶらないように時間割を組んでくれました。
2人は同じ研究室に所属しているので、木曜日と金曜日は重なる授業が多く、その2日間はお休み。代わりに授業がまったくない土日は、農作業をメインにやってくれることになりました。この女子たちがまぁよく働き、家事や子守りも幅広く手伝ってくれて、とーーーっても助かりました。
ポイントは「二足のわらじ」
今回の「瓢箪から駒(ひょうたんからこま)」的な学生さん受入れの最大のポイントは、彼女たちが休学していないということ。
若いうちに農業を経験したり農村で暮らしたりすることは、今後非常に大切になっていくと思うのですが、せっかく入学した大学を休学してまで農村留学するのは、心理的にも経済的にもハードルが高いはず。でも、4年間の学生生活のうち1学期だけ、農山漁村などの自然豊かな環境で過ごしながら授業も受けるというのは、メリットしかないような気がして「アリ」だと思うのです。
そう感じているのは、農村で受け入れをした私だけではないようで、今回さまざまな体験を通じて多くの学びを得た彼女たちは、「こういう生きた学び方ができる仲間や後輩を、もっと増やしたい!」と学部長にメールで提案したとのこと。
休学せずに、農業や農村に触れ合いながらできる学びを、どのような仕組みで実現できるかはまだこれからですが、新型コロナウイルスがきっかけとなって、新しい学びのスタイルができたら、こんなに素晴らしいことはありません。
1週間より1カ月、1カ月より3カ月
農業体験や短期のインターンが無意味だとは思っていません。ただ、多感な年ごろの学生さんたちにとって、お客様気分で過ぎてしまう1週間程度の滞在はあまりにもったいない気がします。1カ月もいれば生活にも環境にも慣れるけれど、「自身の中の何かが変わる」には至らないかもしれない…。彼女たちが、我が家に来てから3カ月。2人は確実に変化を遂げました。変化の仕方はそれぞれですし、また変化がない子もいるかもしれません。でも海外留学を経験した人ならわかる、「3カ月目ぐらいから一気に言葉が分かるようになる」というのと全く同じだなぁと思いました。今後しばらくは海外留学がしにくくなると考えた時、国内留学で目線を変えたりスキルアップできたりするのもいいではないでしょうか!
農業だけでなくライフスキルも!
とはいえ、滞在が長期化すると、双方にストレスが溜まってきます。どんなに良い子だとしても、とてもがんばってくれている子だとしても、家族以外の子を長く受け入れるのですから、それは自然な事。滞在している子たちも、気を使うのに疲れてきます。そこで我が家では、田植えが終わったタイミングで、2人に2週間の休暇をあげました。彼女たちはグランピングテントを畑に張って、プチアウトドア生活を開始!家から追い出したわけではなく、天気が悪い日やキャンプに飽きたらいつでも家に戻っておいで、という緩いスタートでしたが、彼女たちにとっては「毎日が楽し過ぎっ!」と言って、2週間の休暇期間を過ぎてもテント生活をキープしています。
夕方になると裏山に行って枯れた竹を切り出し、夕飯の支度にいそしむ2人。最後は暴風雨の日に浸水&テントが倒れて終了、となりましたが、このキャンプ生活で彼女たちが得たものは、農作業を通じて学び取ったものより遥かに大きいのではないかと思うのです。
自然の厳しさと優しさ、度々差し入れをしてくれるご近所さんのありがたさ、災害時に活かせるサバイバル能力など…。お互いに距離もとれて、大きな学びを得られるアウトドアライフは、教育課程の中で義務化してもいいかもしれないと思うほど、「ライフスキル=生きるための知恵や技」の習得に効果的でした。
To be continued…
今回のことを、「女子大生がたまたま農家に滞在。楽しく学べる1学期を過ごせて良かったね」で終わらせるつもりはありません。新型コロナウイルスがなければ見えなかったであろう「新たな可能性」を見つけたから。新型コロナウイルスだってまだ終息したとはいえず、より多くの学生さんにこのような学びの機会を作るためには、解決しなければならない課題がたくさんもあるでしょう。それも含めて、今はただワクワクしているところ。彼女たちも私もチャレンジを続けていきます!
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大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」