私が勤めている農家さん(主にはえぬきを栽培)の溝切りについて、その後に行う中干しの効果や手順、失敗例を交えて紹介します。
溝切りの効果、使用する機械と手順
溝切りは専用の機械を使って田んぼに溝を作り、その溝を最終的に田んぼの排水口につなげる作業です。溝切りの効果
溝があることで、田んぼの水を抜きたいときは効率良く排水口に流し、反対に水を入れる際は早く全体に行き渡らせることができます。素早い水管理
フェーン現象などによって気温が上昇した場合でも、短時間で田んぼに水を溜められて、秋の長雨で田んぼに水が過剰に溜まったときもスムーズな排水が可能になります。機械の作業性の向上
溝切りを行い、水を抜いて土を適度に硬くすると、肥料散布や稲刈りといった農業機械を使った作業がしやすくなります。稲刈りでは主にコンバインを使いますが、地面が乾いて締まっていれば刈り取り作業もスムーズに行えます。生育状況の観察
田んぼに直接入って溝切りを行うので、田植え後の苗がどのくらい育っているか生育状態を確認できます。溝切りの機械
溝切りに使う機械は大きく分けて「乗用」「手押し」「田植え機の応用」と3つのタイプがあります。乗用タイプの溝切り機
人がまたがって乗るエンジン付きの機械で、体重がかかることで後方に装着された溝切り板で形をつけていきます。手押しタイプの溝切り機
乗用タイプと同じように後方に溝切り板がついている機械です。エンジンはついていますが、機械を持って歩きながら溝を切ります。ただし田んぼの中を歩くというのは想像以上に大変なので体にかかる負担は大きくなってしまいます。田植え機の応用
多目的田植え機であれば「溝切り機」を取り付けることができます。中古の田植え機を購入して溝切り作業専用にすることも可能です。機械に乗ったまま作業ができるので、3種類の中では体にかかる負担が最も軽いことが特徴です。ただし中古の田植え機を溝切り専用にすると、田植え機2台分の保管場所が必要になってしまいます。
▼田植え機など米作りで使用する農業機械のことならこちらをご覧ください。
溝切りの時期
田植えをしてから30~35日経過したころを目安に行います。溝切りのポイント
溝切りを成功させるには、田んぼの土の状態が鍵を握っています。田んぼの状態
田んぼがある程度乾燥していないと、柔らか過ぎる土ではすぐに溝が崩れてしまいます。田んぼの状態を見ながら、1~2日干してから溝切りをすると溝の形がつきやすくなります。溝切りの間隔
溝の間隔は2.5m程度、溝の深さは10cm以上にします。田んぼによって、水が抜けにくい所があれば溝切りの間隔を狭めましょう。注意!
溝の交差部分は泥を取り除かないと水が抜けないため、忘れずに泥を取り除きましょう。
溝切りの回り方
溝切りは田んぼの端から開始します。私の勤めている農家さんでは、端の2条目と3条目の間から溝を切り始めています。参考:農林水産省「⽔稲栽培のポイント」(https://www.maff.go.jp/j/seisan/gijutsuhasshin/attach/pdf/suitou-2.pdf)(2020年4月29日に利用)
中干しの3つの効果と注意点
田んぼの水を抜いて溝切りができたら、次は田んぼを適度に乾かす中干しに入ります。中干しの効果
雨が降って土が乾かない場合でも、中干しの効果はしっかり得られます。一体どんな効果があるのか説明します。1. 有害ガスの除去
湛水状態だった土の中で溜まっていた有害ガス(硫化水素、メタンガスなど)が、中干しすることによって抜けやすくなります。その結果、根に酸素が供給されるので根張りが良くなり、稲の倒伏も防ぐことができます。※湛水とは水が張った状態の田んぼのこと。
2. 根が伸びる
中干しをすると土の中の水分がなくなるので、根は水分を求めて下に伸びようとします。根が大地にしっかり張ることで、さらに稲の倒伏が防ぐことができ、天候など自然環境に耐えられる耐候性も高まります。3. 過剰分げつの防止
アンモニア態チッ素の吸収を制限するといわれ、その結果過剰な分げつを防ぐ効果があります。過剰分げつを防ぐことができれば、登熟も良好になります。※分げつとは、稲の主となる茎から新しく出た側枝のこと。
※登熟とは米の粒が充実していくこと。
中干しの時期
はえぬきの場合は茎数が目標穂数の8~9割になったらすぐに落水して中干しします。参考:やまがたアグリネット「おいしい米作り情報 第6号」(http://agrin.jp/)(2020年5月1日に利用)
中干しの時期がずれると?
時期がずれることで過剰分げつを招き、その結果籾の数も多くなるので、1粒1粒が充実するための栄養や期間も不十分な登熟不良となって米の品質低下につながります。中干しの目安
溝切り後の中干しは、田んぼに小さなヒビが入る程度が目安です。大きなヒビが入ると稲の根も切断されてしまい、土の保水性も悪くなって、その結果田んぼに多くの水が必要になります。登熟期に田んぼ全体に水が行き渡らないと、米の品質に悪影響を与える恐れがあるので注意しましょう。
注意!
水不足が予想される場合は、強い中干しは避け、天候をみながら緩やかに行いましょう。
中干しが不十分だとどうなる?
中干しが不十分な状態だと過剰分げつになります。茎数が増えるということは、1本1本が細く弱い稲になるため倒伏しやすくなります。溝切り・中干し後の水管理は間断灌水
溝切り・中干し終了後の水管理は、田んぼに水を入れた後に自然と水が落ちるのを待ち、再び水を入れる「間断灌水(かんだんかんすい)」にします。一例として、2日間水を入れた状態を保ったら、その後水が落ちた状態を2日間保つように管理を継続します。
※灌水とは水を与えること。
ポイント!
間断灌水には、夏の高温期に地温を下げるという効果もあります。
溝切り作業はなかなか面白い!
乗用タイプの溝切り機に長時間乗っているとお尻が痛くなります。しかし、田んぼの中を溝切り機に乗って走っているとトンボを見かけることもあり、ついこの間春だったはずなのに季節は進んでいるんだなと、日本の四季をふと感じる瞬間です。また、田んぼに作られたきれいな溝を見ると、なんだか陶芸作品のようだなと思うことさえあります。米作りの初心者の方には、溝切りと中干しの効果が稲刈りに影響するというイメージが結びつきにくいかもしれませんが、スムーズに刈り取りを行うためには重要な作業です。秋の収穫作業を無事に終えるためにも、溝切りをしっかり行いましょう!