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【連載第4回】子どもたちに「考える力」と「生きる力」を!|農業なくして持続可能な社会なし


阪神淡路大震災、東日本大震災を通して、次世代農家を育てるべく始めた「リトルファーマーズ養成塾」。大人ができる子どもへの教育とは何か?熊本の女性農家の日々の農作業や環境、家族の話を中心に、世界で注目を浴びる“SDGs”も絡めた連載は、農家必見です!

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Avatar photo ライター
大津 愛梨

慶応大学環境情報学部卒業後、夫と共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里の南阿蘇で農業後継者として就農、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培している。女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長、里山エナジー(株)の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。農業、農村の価値や魅力について発信を続ける4児の母。…続きを読む

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田んぼで遊ぶ子どもたち

提供:O2Farm
九州のほぼど真ん中、熊本県南阿蘇村という場所で米農家をしているO2Farm(オーツーファーム)のEriこと大津えりと申します。「農業者こそ“SDGs(持続可能な開発目標)”を達成するための立役者!」という視点で連載をしています。

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【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし

非常事態もチャンスも、ある日突然やってくる

ハウスの中でバッティング練習
提供:O2Farm
突然始まった子どもたちの長い長い春休み。野球少年の息子たちはできた時間を活かして、バッティング練習場づくりに取り組んだりしていました。初めのうちは学校が休みで少し浮かれていた子どもたちも、徐々に事態の深刻さがわかってきて、子どもなりに不安を抱えているようにみえます。
とはいえ、不安がっていても仕方がないのも事実。とにかく予防を徹底すること・三密を避けること・新型コロナウイルスに感染しても軽症で済むよう免疫力を高めておくこと。それ以外にはないわけです。

今回は、「想定外の非常事態」はいつ起きてもおかしくないと思って生きている私が、子どもたちに「考える力」と「生きる力」をつけるためにやってきたことを、ホップ・ステップ・ジャンプの3段階に分けて書いてみたいと思います。

ホップ|きっかけは、阪神淡路大震災

戦後に発生した自然災害としては、最大規模だった阪神淡路大震災。大学1年生だった私は、2月になって春休みが始まると、すぐに学生ボランティアとして兵庫県に行きました。避難所や福祉施設で約1カ月を過ごし、「非日常」が突然やってきた時にこそ人間性が出ることを身に染みて感じたのでした。パニックや鬱になっている人もいれば、誰かれ構わず怒鳴る人もいれば、役に立ったかどうかわからない学生ボランティアの私にさえ感謝の気持ちを伝えてくれる人もいました。

あの時以来、「生きる」という事に対する意識が変わったように思います。同時に、「ボランティア元年」といわれた前例のない状況の中、こうしたら良くなるんじゃないかというアイディアを出すことや、それを行動に移すことができることの大切さを痛感しました。

子どもの「やりたい」には、「どうぞ」と応える

トラクターに乗る子どもたち
提供:O2Farm
そんな訳で、子どもができたときにまず心掛けたのは「やりたい!」という気持ちを育むことでした。結婚して6年目に授かった待望の子宝。言葉もわからない時期から、数分違いで生まれた双子がそれぞれ違う意思をみせることに興味を持ちました。そして彼らの意思をできる限り尊重する見守り育児がスタート。

3人目が生まれると、これまた兄貴たちとは違う意思をみせます。子どもが言ってくる「こうしたい」に対しては、なるべく「どうぞ」と言って育てました。特に男の子だと、母親的にはやって欲しくないことをやりたがるのが常。泥んこ遊びがしたい。どうぞ。トラクターに乗りたい。どうぞ。泥がついちゃったから服を脱ぎたい。どうぞ。
なかなか忍耐がいりますが、場所がたくさんあって人が少ない農村ならではの特権だと感じました。

ステップ|東日本大震災後の夏にはじまった「子ども合宿」

田んぼの中に立つ子どもたち
提供:O2Farm
そんな子育てをしているさなかに、今度は東日本大震災が起きました。原発事故も発生したので、疎開先として手を挙げ、親戚の子やお米を買ってくれるお客さんたちに避難を呼びかけたのです。多い時には20名を超える大家族でしたが、子どもたちは子どもたち同士で遊び、女手が多かったので家事も分担でき、むしろ普段よりも家がきれい&食事の準備も早かったほどでした。

その時に来た子どもたちが、夏休みになって「また行きたい」と言ってきたことから、約1週間の子ども合宿をすることになりました。主に東京から来た都会っ子たちが、田畑や川や山で思いっきり遊ぶ合宿。
都会っ子たちにとっては普段はできない遊びができ、ウチの子たちや近所の子たちにとっては、都会っ子たちができないことを自分たちができることを知って自信がついた様子。カエルやセミやカブトムシの居場所や捕り方を知ってたり、あぜ道をダッシュしたりできるわけですから。
この子ども合宿は、我が家の息子たちにとっても得るものがあったので、2011年以来、O2Farmの夏の恒例行事として毎年続けていました。

ジャンプ|バージョンアップした「リトルファーマーズ養成塾」

リトルファーマーズ養成塾
提供:O2Farm
私が女性農家のNPO(NPO法人田舎のヒロインズ)の代表に就いてから、2期目に入った矢先に熊本地震が発災。「いつ何が起きてもおかしくない」という覚悟をしていたものの、実際に大きな被害を受ける側になったのです。

自然災害だけでなく、世界規模の地球温暖化や未曽有の超高齢社会など、誰も経験をしたことがない社会の中で生きていくことになる今の子どもたちに、私たち大人が教えてあげられることなんてあまりないかもしれません。であれば、ただの自然体験や農村体験ではなく、せっかくなら次世代農家を育てようと考え、「リトルファーマーズ養成塾」をNPOの活動として取り組むことを決めました。

「リトルファーマーズ養成塾」は、子ども合宿にはなかった参加条件を設け、以下の2つをクリアしている子を対象としました。
1. 田んぼや畑に慣れ親しんでいる子
2. 自分の事は自分でできる子

集まった15人の子どもたちは基本的に自由に過ごすのですが、最終日にファーマーズマーケットを自分たちの手で開催する、というミッションを与えられています。また、1日に1時間だけ全員が集まって輪になって座り、子どもの哲学という手法を使って、「生きるとは何か」とか「自由とは何か」など、答えのない問いに対して自由に意見を交わす時間を設けました。
結果として、子どもたちは3チームに分かれてそれぞれ売り物を用意し(野菜、昆虫、手芸品)、近くのカフェに交渉して販売スペースを貸してもらって、見事なファーマーズマーケットを開催してくれました。

問われるのは対応力

庭で昼寝
提供:O2Farm
子どもたちの自由や意思を尊重すると大人は大変ですが、子どもたちが「こうしたらいいんじゃないか」「自分はこうしたい」という、意思やアイデアを持ち続けられる人間になるような環境をつくることが、私たち大人にできる唯一の「教育」だと思うのです。

人が移動したり集まったりすることができなくなっているので、今すぐにはできませんが、新型コロナウイルスが終息した暁には、リトルファーマーズ養成塾の再開を目指します!そして、こういう非常時だからこそ、できることを見つけて、私自身が向上心を保てる人間になれるよう精いっぱいやっていこうと思います。まずは果報は寝て待てってことで、昼寝の気持ちいい季節になりましたね(笑)。

週間連載のコラムも掲載中!

【週間連載】家族経営農家の日常を配信「ハッピーファミリーファーマー日記」
【毎月更新!】月間連載アーカイブ「農業なくして持続可能な社会なし」

大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」

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