長い育苗期間の後半は、いかに手間を減らすかを目的にして乗り越えてください。小さな種もみが立派な苗になって、育てる大変さと楽しみがわかってくることと思います。ポイントを押さえてしっかりと育苗しましょう!
▼育苗期の前半、播種~発芽までの工程についてはこちらをご覧ください。
後半戦のスタートは緑化から
施設内での作業だった今までの工程からビニールハウスでの管理へと移ります。生育環境の変化が苗に及ぼす影響を減らすために、まず緑化作業を行います。育苗器で育った苗をビニールハウスに運び出します。気温が上がりきる午前中か、気温が下がる夕方に作業しましょう。白い「もやし状」の苗を外の環境に慣らします。2~3日は遮光や保温のために寒冷紗をかけ、葉が緑になるまで待ちます、これを緑化と呼びます。
日常の育苗管理は灌水と温度管理が重要
日常管理としては灌水と室温管理が主な作業です。ここまでポイントを押さえて生育していれば田植えまでもう少しです!
灌水
灌水の基本はムラなくたっぷりと!日中に水分が足りないと葉先から枯れてしまいますので要注意です。手前から奥にゆっくりと動かし育苗箱の底から水が漏れるまでかけます。
灌水のタイミングは朝。しっかりと行います。ただし早朝は水が低温過ぎて根を傷める可能性もあります。
逆に日中に行うと水温が高くなり過ぎて苗を傷める可能性がでてきます。ホースの中の水が冷たくなるまで水を出してからたっぷりと与えましょう。
夕方に灌水する場合は土が白くなっているのを湿らす程度でかまいません。やり過ぎると夜に水分が冷えて根を傷めてしまうことがあります。
散水ノズルでは時間と手間がかかり過ぎるので、便利な道具を使って省力化と高品質を両立させましょう。
蛇口をひねるだけの散水ホース
散水ホースを使うと、ムラなく素早く灌水ができます。早朝からではなく、少し気温が上がってから行いましょう。低温状態で冷たい水をかけると生育不良になる可能性があります。水を張るだけのプール育苗
「プール育苗」とは型枠にシートをかけてプールを作り、その中で苗を育てる方法です。メリットは次の3点です。
・根の生長が促進される
・灌水の手間が減る
・水を張ることによって水温が保たれる
その反面、デメリットもあります。
・資材費がかかる
・病気が発生するとすぐに蔓延する
・地面が平らでないと水没する苗がでてしまう
浮き楽栽培
プールに発泡スチロールを敷いて浮かせる方法です。苗の運搬が簡単にできます、また水没するリスクもないので地面を平らにする手間もありません。参考:広島県農業技術センター
温度管理
緑化期間中はしっかりと加温することがポイントです。徐々にハウスを開いていって外気温に慣らし、田植え1週間前には夜も全開にするようにします。日中は20~25℃を保ち、また最低気温10℃を確保しましょう。注意!
温度が高過ぎると焼け苗の原因になります。
肥料
市販の培土を使えば生育に必要な肥料分は確保されています。まれに生育後期に葉が黄変する場合があります。肥料不足なのか病気なのかを確認して薄く伸ばした液肥を散布します。病気
ビニールハウス内は高温多湿になり、雑菌が繁殖して病気が発生することがあります。代表的な病気を挙げておきますので注意深く観察してください。苗立枯病
初期は生育が遅れ、やがて葉がしおれて褐色になり、地面に近い部分から弱っていく病気です。ピシウム属菌、フザリウム属菌、リゾプス属菌などの菌類によって起こります。極端な高温や低温などが原因になることが多いです。
もみ枯細菌病
葉の基部が黄白色となり地面に近い部分から変色します。葉が湾曲して黄白色〜褐色となって茎は腐敗します。引っ張ると簡単に抜けます。育苗箱の1カ所または数カ所が坪状に発生することが多いです。
ばか苗病
徒長し稲の長さが正常な個体のほぼ2倍になります。葉の色が薄くなり節間は長く倒れやすくなります。食害
ハトや雀などの鳥類やネズミなどの小動物によって苗を食べられてしまうことがありますので、対策が必要です。育苗の目安
育苗の最終目標は田植えに最適な苗を作ることです。その目安は次のようになります。葉数と葉齢について
葉の生育具合をあらわす数値に葉数(ようすう)と葉齢(ようれい)があります。違いについて説明します。葉数
展開している葉の数のこと。稲は最初の葉(第1葉)が途中で枯れてしまうので2番目の葉を第1葉として数える場合があります。実際の現場では2番目の葉を第1葉として扱うことが多いです。葉齢
次の葉が生長しきるまでの目安として葉齢という考え方があります。直前の葉の1.2倍が次の葉齢の目安になります。たとえば第1葉の長さが3cmだった場合は、第2葉が1.8cmの時点では1.5葉、3.6cmになったときに2葉と数えます。
2.5~3葉が田植えの目安です。
外見的特徴
植えごろの苗の外見的特徴は次のようなものです。・生育スピードに個体差があるが12~13cmの草丈
・幅が広くまっすぐに立った葉
・第2葉の高さが5cmほどでそろっている
・茎の腰が広く太い
・新しい根が出始めている
・もみの内部に5~8%残っている
・乾物重(乾かした苗の重さ)が14~16g
しっかり管理で苗半作
「苗半作」という言葉があります。苗を育てるまでで、半分その植物を作り終わったようなもの、という意味。苗づくりまでの工程は人の手で管理できることが多いのですが、田植え後は気候に左右させることが増え、思ったようにいかないことが多々でてきます。
しっかりと手をかけて、水田に出しても順調に育つことができる健康な苗をつくりましょう。