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第3回目はじゃがいもさん。全世界で親しまれる野菜ですが、私たちが食べているのは実ではありません。種子もほとんど取れません。その意味で「子どもを産まなくても、生産性が高い」という生き方を体現している、頼もしい新時代のお母さん、じゃがいもさんをご紹介します。
これまでに紹介したヤサイさんたち
じゃがいもなあの人
私の友人には部下を何人も抱え、仕事をまとめて働き回る働き者のかっこいい女性がいます。40代で容姿端麗な彼女ですが、目の前の仕事に邁進する充実した日々を送っているせいか、婚活や恋愛の話題はほとんど聞いたことがありません。それでも世の中を良くしたいと前向きに、パワフルに進む姿は私を含め多くの人の憧れや目標になり、彼女を慕う人は数えきれません。6月になると、そんな彼女に似た生き方をしている野菜が収穫期を迎えます。定番野菜じゃがいもさんです。
種イモから育てるじゃがいも
じゃがいもさんの生き方はそのまま育て方によく表れています。早春になるとじゃがいもの植え付けのシーズンです。植え付けに使う「種いも」は、スーパーでも売られているじゃがいもを腐らないように保存したもので、じゃがいもそのものなのです。その種いもを半分に切って、土に埋めるとじゃがいもができます。通常野菜の種は種子と呼ばれる小さな粒ですが、じゃがいもには種はできないのでしょうか?私たちが食べているのは実?根?茎?
じゃがいもさんのイモの部分は実でも根でもありません。ではいったい私たちはじゃがいもの何を食べているのでしょうか?じゃがいもは根菜に分類こそされますが、食べる部分は地下茎という茎が膨らんだ「塊茎(カイケイ)」にあたります。つまり正しくは、私たちはじゃがいもの茎を食べていると言えるのです。じゃがいもの実のありかは…
では、じゃがいもさんの実とその中にある種子はどこにあるのでしょう。花があるところに必ず実もあるということがヒントです。どんな野菜も花を咲かせ、実を付け、種を作ります。野菜にとって種子(子孫)を残す最も一般的な方法で、どれだけ花を咲かせ、どれだけ多くの実や種をのこせるか、つまり種子の生産性が次の世代の数を決めるわけです。じゃがいもさんも他の植物同様、春に花を咲かせます。この頃の畑は大根の花や菜花も満開、その花にモンシロチョウやミツバチが群れを成して飛び回ります。まるで小さな雲のように見えることも。しかし、じゃがいもさんの花にはまったく虫たちが寄り付きません。
かっこ良過ぎる…。媚びないじゃがいもさんの花
それもそのはず、近くでじゃがいもさんの花の香りをかいでも香りがしません。通常モンシロチョウなどの虫に受粉を助けてもらう植物は、甘い蜜をたくさん作って虫を誘引します。接待やお世辞といったところでしょうか。しかし、じゃがいもさんは虫たちに一切媚びず、虫もまったく寄り付きません。これはじゃがいもさんが受粉や種子に頼らない生き方をしているからです。茎塊の細胞分裂と肥大によって自分と同じクローンをたくさん作ることができるので、花を咲かせ、受粉して、種子を作らなくても問題がないのです。
チョウチョの飛ばないじゃがいもさんの花畑を見ていると、「わざわざ甘い花を咲かすのは古い時代の名残りよ」と何とも潔いささやきが聞こえてくるような気がします。
じゃがいもさんの実は、あの野菜にそっくり
そんな花同様、花が咲いた後にできる実もほとんどなりません。はる農園調べでは、種イモ50個植えて実が数個とれたという状況です。じゃがいもを栽培したことがある人でも、じゃがいもさんの子どもである実を見たことがある人は少ないようです。これがじゃがいもの実です。運が良ければビー玉くらいの大きさの実が、花の近くに数個なっているのを見ることができます。この実を食べてみると、最初は苦いのですが、熟すと酸っぱいトマト味。見た目もトマトに似ていますが、それもそのはず、実はじゃがいもはトマトと同じナス科ナス属の野菜。見た目はまったく違うじゃがいもさんとトマトですが、実は親戚くらいの関係と思うとおもしろいですね。
じゃがいもさんとうまく付き合う
新しい生き方を選んだじゃがいもさんとうまく付き合うには、その生き方を尊重してあげるのが一番。つまり、花は咲く前に取ってしまいます。これはナスやトマトなどの一般野菜では考えられない作業です。しかし、じゃがいもさんにとって花を咲かせるためにエネルギーを浪費するより、実に栄養を蓄えた方がずっと効率が良く、収量もUPします。人を温かく見守り、育ててきた母性の塊
世界の主食のほとんどは穀物、つまり種子ですが、その中にあってじゃがいもさんは茎。茎だからこそ花の咲かない寒い乾燥地や暑い乾燥地の主食として数十臆の人の命を支えています。種子(子ども)が乏しい野菜ではありますが、この意味でじゃがいもさんは間違いなく人を養う世界のお母さんです。働き者の友人も次の世代を育て、よりよい未来のために彼女のマインドが確実に受け継がれていくとしたら、世界のお母さんと言えるでしょう。肉じゃが、カレー、コロッケ…じゃがいもさんがいる一皿はどこか温かく優しい味がします。ボーダーのない愛で世界を支えてきたじゃがいもさんが持つ、真の母性がそう感じさせるのかもしれません。
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