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本記事では、耕作放棄地の再生に必要な準備や大まかな手順、再生後の農地におすすめの作物を紹介します。また記事後半では、農業従事者向けの耕作放棄地の活用方法もまとめました。これから耕作放棄地を活用して本格的に農業に挑戦したい人や、手が回っていない農地を有効活用したいと考える農家にとって、少しでもヒントになれば幸いです。
耕作放棄地をこれから探したい人はこちらも合わせてご覧ください。
耕作放棄地活用の準備|現状把握からスタート!
耕作放棄地の再生で、最初に取り組まなければならないのは土壌や周辺環境の現状把握です。ひとくちに耕作放棄地といっても、耕作放棄の程度や土壌状態、周辺環境はその地ごとに異なります。耕作放棄地が発生する原因についてはこちらの記事を参照ください。
まずは、現地をよく観察し、再生作業に必要なリソースを洗い出すことから始めましょう。
現地で確認すべき項目の例
◆雑草や樹木などの植物はどんな種類のものがどの程度生えているか?
◆岩などの不要物はあるか?
◆農地の乾湿状況はどうか?
◆接続道路の確保はできるか?
◆用水・排水は使える状態か?
耕作放棄地の再生手順|必要な機械も合わせて紹介
耕作放棄地の状況を確認したら、次は実際の再生計画を立てましょう。刈払機や手作業での除草、小規模な機械(管理機など)による耕うんのみで済むケース、大型機械を導入しなければ再生が困難なケースなど、土地の規模によっても導入できる機械が異なります。例えば、灌木(かんぼく)が繁殖している土地は、大型機械を使った方がスピーディーに土壌再生ができるでしょう。準備が難しい機械は必要に応じて地域の建設会社などに借りたり、大型機械が必要な作業を外部へ委託したりしてもよいです。自分だけでは判断ができない場合は、地元の農業団体に問い合わせるのも一つの手段です。
ここでは3つのステップごとに、必要な機械と合わせて具体的な再生手順を解説します。
耕作放棄地の再生手順
1. 雑草・灌木・岩石などの不要物を除去する
2. 植生に応じて除草剤を散布する
3. 耕うん・整地する
1. 雑草・灌木・岩石などの不要物を除去する
まずは耕作放棄地に生えている雑草や灌木、大きな岩石などを取り除きます。作業の妨げになる不要物はなるべく早い段階で除去しましょう。【状態別】役立つ道具・機械の例
灌木がない(または少ない)土地 | 草刈機(必要に応じてチェンソーなど) |
灌木が繁殖している土地 | ユンボ |
大きな岩石がある土地 | ユンボ |
表土ごと除去が必要な土地(※地下茎の除去も可能) | ブルドーザー |
また、ほ場から出た不要物は自治体のルールに沿って処分をしてください。ほ場内で焼却処分を行いたい場合は消防署や地域住民へ事前に相談または連絡する必要があります。
2. 植生に応じて除草剤を散布する
目立つ雑草や灌木、岩石などが除去できたら、次は植生に応じて除草剤を散布するのが一般的です。耕作放棄地に見られる代表的な植物
◆セイタカアワダチソウ
◆クズ
◆ススキ
再生段階から農薬を使わずに耕作を行いたい場合、時間はかかりますが、機械除草と耕うんを2~3回繰り返すことで繁殖力が弱まり、耕作可能な土地へと再生できるようになります。
3. 耕うん・整地する
目的に応じて耕うん作業を行います。長年放置されたような土地を再生する場合は、地表の雑草を地力回復に活用するために、上層と下層の土を反転させる反転耕(プラウ耕)を最初に行うことが多いです。プラウ耕が難しい場合は、ロータリーによる耕うんを複数回繰り返すことで、プラウ耕に近い効果が得られます。【目的別】役立つ道具・機械の例
上層と下層の土の入れ替えをしたい(反転耕・プラウ耕) | プラウ |
砕土・整地を効率的に行いたい | ハロー |
大きな土の塊を砕きながら耕うんしたい(深耕・攪拌耕) | 小型管理機・ロータリー |
土中の通気性・排水性の改善をしたい(心土破砕) | サブソイラー |
再生後の農地におすすめの作物は?
耕作放棄地の再生後は、耕作が継続しやすい作物を栽培するのがおすすめです。ここでは3つのポイントに分けて、それぞれの項目で具体的な作物を紹介します。耕作放棄地の再生後におすすめの作物のポイント
1. 鳥獣被害に遭いにくいこと
2. 栽培が容易・手間がかからないこと
3. 地域の特色を生かせること
1. 鳥獣被害に遭いにくい作物
◆山菜類
◆エゴマ
◆マコモダケ
山菜類
山菜類は元々山に自生しており、寒冷地や小さな土地でも育てやすいです。また、山菜類のなかには高値で取引される作物も多いです。エゴマ
エゴマはシソ同様、芽、葉、花穂、実(種子)が利用できます。葉の部分は韓国料理でよく使われます。実は採油に利用され、近年ではエゴマ油として健康食品分野で注目を集めています。エゴマ油を用いたドレッシングの開発などもされており、今後も栄養価の高い健康志向の作物として需要が見込めます。マコモダケ
マコモダケは湿地での栽培も可能です。水はけの改善が困難な土地など、耕作放棄されやすい土壌でも比較的育てやすい作物です。他の作物を育てたものの湿害で十分生育しなかった場合などは、マコモダケをはじめとする湿地栽培可能な作物を育ててみるのもよいでしょう。2. 手間のかからない作物
◆ソバ
◆ナタネ
◆ブルーベリー
ソバ
ソバは湿害を受けやすい作物です。広くて水はけのよい耕作放棄地で大型機械を活用できる場合にはおすすめです。また、収穫した作物は地域おこしイベントなどにも活用できます。ナタネ
国産ナタネの生産量・流通量はともに少なく、搾油した菜種油は国産品として高値で取引されています。ナタネ(油化用)は全国各地で土壌条件を問わず栽培が可能です。ただし土壌ごとに施肥設計が異なりますので、土壌診断を実施して施肥時の参考にするとよいでしょう。ブルーベリー
ブルーベリーは栽培が容易であることに加え、加工品として幅広く活用できます。加工品もアイディア次第ではヒット商品となる可能性も高く、商品開発で成果を上げている企業などと提携することで十分需要が見込めるでしょう。また、ブルーベリー狩り体験をサービスとして提供することで、作物販売以外の収益を生むことも可能です。3. 地域の特色を生かした作物
◆茶
◆大麦
茶
茶畑が耕作放棄地となってしまった地域では、環境を逆手に取って茶の自然栽培を行っているところもあります。茶栽培は作業工程も多く、栽培が容易であるとはいえませんが、そのおかげで地域の通年雇用を創出できるなどのメリットもあります。大麦
大麦は食用以外にもしょうゆやみそなどの調味料製造、ビール醸造などにも使われています。特に耕作放棄地を活用して大麦を栽培した例では、地ビールを地元企業や団体などと協業してつくり、地域や団体の活動PRを行った例などもあります。耕作放棄地は耕作以外でも活用が可能
耕作放棄地は自分で耕作して作物を販売する以外の方法で活用することも可能です。耕作放棄地の活用方法
◆市民農園
◆観光農園
◆放牧
市民農園
市民農園とは、農家以外の市民に農地を貸し出して作物の栽培を自由に楽しんでもらうための農園です。農地をいくつかの区画に分けて貸し出すことで、農園の利用者は近隣区画の人との交流を含めて農園を楽しむことができます。生産性の低い農地の場合、自ら作物を作るよりも、市民農園として農地を貸し出したほうが安定した収入となる可能性もあります。
観光農園
観光農園では、イチゴ狩りやブドウ狩り、サツマイモ掘りなど、主に作物の収穫を来園者が楽しめます。特に観光地にある観光農園は収入効率がよいため、作物の出荷はせずに、専業で観光農園を運営している農業者もいます。最近では市民農園や観光農園に近いものとして、体験型農園も増えています。体験型農園では、利用者が農家によるサポートを受けながら、作付けから収穫作業までを一貫して行うことができます。
放牧
耕作放棄地の雑草をそのまま活用する手段としては、牛、羊、山羊、豚などの放牧が有効です。初期投資は大きくなりますが、飼料作物の生産をセットで行うことで、効率的な畜産経営、農地活用を実現することができます。地域状況を考慮して耕作放棄地を有効活用しよう!
耕作放棄地を再生して農業を行うには、場合によっては機械を用いた草木や岩の除去、その後も土壌改良や設備投資など多大な労力と時間が必要です。そのため、再生後に栽培する作物の特性などを事前に見越して効率的に作業を進めることが重要です。また、耕作放棄地を活用する方法は、作付農地としての利用以外にも多岐にわたります。例えば、地域おこしに貢献できるような観光農園や市民の地域交流を盛んにする市民農園としての展開も考えられます。放牧型の畜産など、耕作放棄地を活用すること自体に十分なメリットがある事例も。
一度スタートしたあとに、活用方法を大きく転換するのは労力がかかります。せっかく再生した農地を再び耕作放棄地にしてしまわないよう、地域に溶け込みながら、どう活用できるかをじっくり考えてみてはいかがでしょうか。