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- AGRI PICK 編集部
AGRI PICKの運営・編集スタッフ。農業者や家庭菜園・ガーデニングを楽しむ方に向けて、栽培のコツや便利な農作業グッズなどのお役立ち情報を配信しています。これから農業を始めたい・学びたい方に向けた、栽培の基礎知識や、農業の求人・就農に関する情報も。…続きを読む
農業を志す人が知っておきたい、就農後の現実やサクセスストーリー。実際に農家に転身した人へのインタビューから、就農後のリアルを鮮やかにお伝えします。
今回は、 宮崎県宮崎市田野町で農業と農家レストランを営む長崎海咲さんにお話を伺いました。
| 農園名/所在地 | みさき農園 |
| 栽培面積 | 2町(約2ha) |
| 栽培品目 | トウモロコシ(雪の妖精)、紫シシトウ、白馬カブ、かつお菜、カリフローレなど、年間約60品目 |
| 販路 | sachi cafe、インターネット通販(ポケットマルシェ)、直売所、マルシェ |
| 家族構成 | 祖父母、両親、夫、娘 |
| 従業員数 | 5名 |
| 就農時の年齢 | 31歳 |
就農前|代々続く農家に生まれ、のびのびと育つ
長崎さんは、自然豊かな宮崎市田野町で代々続く農家に生まれました。進学した宮崎農業高校生活文化科では、料理や保育、介護などを学びながら楽しく過ごし、卒業後は接客業のアルバイトをしていました。
曾祖父の死をきっかけに考えたこと
長崎さんが22歳のときに、曾祖父が亡くなりました。家族とともにその最期を看取った長崎さんは、改めて自分の人生を考えるようになりました。

考え、悩んで、たどり着いたのは、「家族と一緒にいることが一番幸せ」という思いでした。

長崎さんは田野町で農業をして生きていくことを決めました。
自分のやりたい農業を見つけるまで
野菜や食について学び、資格を取得
仕事を辞め、実家の農業の手伝いを始めた長崎さんに、母・幸代さんは「お母さんが料理をして、海咲が接客をする農家レストランを一緒にやろう」と持ち掛けました。
農業のこと、野菜のこと、食のこと…。自分は何も知らないのではないかと考え、長崎さんは野菜ソムリエとフードビジネスコーディネーターの資格を取得。食の見せ方やマーケティングなどを学び、自信を深めていきました。
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JAの見学会で知った流通の仕組み
当時、実家では白ネギ、ゴーヤ、里芋などを栽培し、JAに出荷していました。長崎さんは、JAが主催する出荷先の見学会で東京の市場に行き、衝撃的な光景を目にすることになりました。

出荷した野菜がそのように流通していることを初めて知り、スーパーで手に取るお客さんも、栽培から流通の流れは知ることはないのではないかと考えました。
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お客さんと近い農業がしたい!
一方、出荷用のほかに、家庭菜園で作っていた野菜を直売所で販売してみると、お客さんとの会話が生まれました。

お客さんとの触れ合いが農業の楽しさを実感する機会になりました。
故郷を離れて農業を学んだ日々
農業を学び直すためアグリイノベーション大学校に入学
農業の楽しさを知り、ますますのめりこんでいった長崎さん。よりよい野菜を作ろうと、家族に質問するようになりました。しかし、肥料をまくときに、その理由をたずねても、家族は長年の経験に基づく感覚で行っており、明快な答えは返ってきません。一方、ホームセンターやJAの職員に話を聞いてみると、知らない言葉が出てきて、理解できないことがありました。

インターネットで農業を学べる場所を調べ、アグリイノベーション大学校を発見。大好きな故郷を離れ、関西まで行くことにためらいはありましたが、一度見学に行くとすぐに入学を決意しました。

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青果店でのアルバイト経験がもたらしたもの
また、長崎さんはアグリイノベーション大学校を運営するマイファームの青果店で、アルバイトをしていました。青果店での経験は、全て役に立つものだったといいます。

農業と農家レストランをスタート
農家レストラン「sachi cafe」オープン
アグリイノベーション大学校在学中に帰省した際、行きつけの美容院の隣に、かわいい小屋が建てられていました。その小屋を気に入った長崎さんは、農家レストランをやらせてもらえないか、直接交渉。在学中から開店と畑の準備をして、宮崎に帰ってから半年後には農家レストラン「sachi cafe」をオープンしました。しかし、何もかも初心者の長崎さんにとって、畑とレストランを両方運営するのは、大変なことでした。

「sachi cafe」は畑で採れた野菜を使った農家の賄い風ランチやスムージーを提供。スムージーは形の悪い野菜でも消費できます。コロナ禍ではじめたおせちのオードブルも大盛況でした。ニンジンドレッシングやフライドハリハリなどの加工品の販売も始めています。
「sachi cafe」の営業スタイル
・席数 15席(テーブル4・カウンター1)
・働く人 長崎さん(接客)、母・幸代さん(調理)、アルバイト2名雇用(日替わりで1名ずつ勤務)
・来店者数(1日)平均25名
・客単価 平均1,600円
・売上(1日)平均40,000円/(1カ月)平均640,000円
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農地の一部を慣行農法から有機栽培に
現在は、半分の敷地を化学肥料、化学農薬を不使用にして栽培しています。これまで慣行農業をおこなってきた祖父母に、有機農業を始めることへの理解を得るのは難しいものがありましたが、今では畜産農家の友人からもらった牛糞(ぎゅうふん)を、祖父がていねいに堆肥にしてくれています。理解して、手助けしてくれる祖父に対し、長崎さんは深く感謝しています。

農作業における4つの課題と克服する工夫
自然の中だからこそ…草、天候、獣害
長崎さんは農作業において、草、天候、獣害が大変だといいます。

また、宮崎県は台風が到来する地域。支柱は倒れないようひもで支えたり、簡易ハウスのビニールを外したりなどの対策は欠かせません。また、冬の寒さ対策も重要で、トンネルをかけたりしています。自然豊かな地域だからこそ獣害対策も必須。イノシシ、サル、ムジナなどへの対策として、電気柵や罠(わな)、ピンクテープなどを使用しています。
レストランとの両立で時間に追われる
農作業とレストランという二つの仕事をしている忙しさは、いつも時間に追われているように感じるほど。そのため、長崎さんは畑ごとにしっかりした栽培スケジュールを立てています。スケジュールは、カラフルでいつ何をすればよいかが一目でわかるようになっています。

みさき農園のコンセプトとビジョン
「みさき」に込められた意味
長崎さんは自分の農園を「みさき農園」と名付けています。自分の名前も「みさき」ですが、それだけにとどまらない意味があるといいます。

みさき農園のコンセプトは「土から口まで」。もともとはアグリイノベーション大学校で出会った西村和雄先生が提唱していた言葉ですが、作る人と食べる人の距離を近くして、土から育てた野菜がお客様の口に入るのを見届けて、幸せになってもらいたいという長崎さんの気持ちにぴったりの言葉なので、先生に許可を得て、農園のコンセプトにしています。
大好きな田野町の魅力や伝統を伝えたい
みさき農園では、野菜セット販売、農家レストラン、加工品の製造販売のほかに、食育イベントや地域を盛り上げる活動を行っています。

運動会やタケノコ掘り、羽釜でご飯を炊いたり、みそづくりをしたり…。長崎さんには、幼いころからの田野町での楽しい思い出がたくさんあり、それが農業に携わるきっかけにもなっています。今の子どもたちには、自分がしたような経験が少なくなっていると感じて、伝統や魅力を伝える側になりたいと考えています。
いずれは野菜作りに専念して、移動販売をしたい!
現在は、農業と農家レストランの二つの仕事でとても忙しい毎日です。畑では大量生産はやめて、一反ずつ旬の野菜が収穫できるように栽培をしています。今後、レストランを人に任せることができるようになったら、野菜作りに専念して、移動販売をしたいという夢があります。

農業+好きなこと・得意なこと
長崎さんは、これから農業を始める人へのアドバイスとして、農業と好きなこと、得意なことを組み合わせて働くといいのではないかと話します。

長崎さんの夫となったのは、「sachi cafe」の場所でもある小屋を建てた美容師さん。美容師として働きながら、一緒に農作業をしています。娘も誕生し、みさき農園はますますにぎやかになりそうです。
「家族と一緒にいるのが幸せ」「田野町が大好き」。長崎さんの言葉を聞いていると、両親や祖父母が長崎さんに注いだ愛情の大きさや、成長を見守った地域の人たちの温かさが伝わります。今、長崎さんは子どもや地域にたくさんのものを伝えていく場所に立っています。田野町の温かさは、おいしい野菜や料理とともにこれからも受け継がれていくことでしょう。




























