目次
今回は、千葉県旭市で実家の農業を継ぎ、キュウリや大玉トマトを栽培している石毛裕之さんにお話を伺いました。
農園名/所在地 | いしげ農園/千葉県旭市 |
栽培面積 | 44a(40aハウスと4aハウス) |
栽培品目 | キュウリ、大玉トマト、水稲 |
販路 | JA |
家族構成 | 父、母、姉、弟2人、祖母 |
従業員数 | 外国人実習生1人 |
就農時の年齢 | 26歳 |
就農前|臨床検査技師として病院に勤務
農家の仕事が嫌だった
石毛さんの実家はトマトなどを栽培する農家。姉と弟2人の4人姉弟の中で育ちました。学生時代は農家の仕事を嫌だと思っており、姉弟が病院にかかることが多かったことをきっかけに医療系の大学に進学。卒業後は臨床検査技師として、約2年間病院に勤務していました。仕事の内容は、エコーや心電図、脳波など、直接患者と向き合う検査の仕事でした。父からの「農業を継いでほしい」という相談
その後、石毛さんは、父から農業を継いでほしいとの相談を受けます。ちょうどそのころ、石毛さん自身も病院での仕事が自分に合っているのか悩んでいたこともあり、初めて就農について真剣に考えるようになったと言います。石毛裕之さん
病院勤務のときは、朝、暗いうちに家を出て、帰りも真っ暗になるまで働いていました。このような働き方が自分に合っていないという気持ちがありました。また、農業は、すべて自分自身でしなくてはならない責任がある一方で、自由があるところに魅力を感じました。
農家の仕事をしながら子育てをした母は、自身の経験に照らして、無理に農業を継がなくてもいいと気遣ってくれたと言います。しかし、石毛さんは最終的に自分自身で就農を決意しました。
実家で働く前に研修へ|トマトパークアカデミーに入学
農業の知識を得るために
病院を退職後、石毛さんは農業の研修先を探し始めました。インターネットでたまたま見つけたのがトマトパークアカデミー。見学に行った際に、「ここで研修したい」と強く思いました。石毛裕之さん
大学も医療系で農業の知識がゼロでしたし、今後何十年も、父親から受け継ぐ技術だけでやっていけるか不安だったので、研修してから就農しようと考えていました。
トマトパークアカデミーについてはこちら
トマトパークアカデミーの研修には1年制と2年制があります。石毛さんは1年の研修後に2年制に転向できることを知り、父の勧めもあって1年制を選択しました。
研修生は高校卒業直後の人や40代後半の人まで年齢層はさまざま。全寮制のため、10人全員で生活を共にしていました。石毛さんにとって、トマトパークアカデミーでの研修はとても楽しいものだったと言います。
石毛裕之さん
寮での生活は、三食みんなで一緒に食べますし、寮からトマトパークアカデミーまで一緒に車で移動します。そういうことが積み重なって、割とすぐに打ち解けることができました。
ハウスの環境制御や経営について深く学ぶ
トマトパークアカデミーでは、ハウスの環境制御について深く学ぶことができました。ハウスの中には5つの部屋があり、それぞれ異なる品種を栽培。研修生たちはそれぞれの部屋の担当を交換しながら、責任をもってそれぞれの作物を育てていきました。石毛裕之さん
週1回のOJTで、環境制御システムのデータを見ながら、「平均気温が低いから上げていこう」などと話し合いをしました。そのような経験は、本当に貴重だったと思います。
また、研修では、経営についての考え方も深く学ぶことができたと言います。
石毛裕之さん
トマトを一つ作るのにどれだけのお金がかかっているのか細かく経費を見たり、どれだけ生産すれば自分とパートさんに給与が払えるのか、などを学びました。実際に、実家の青色申告を見る際に助けになっています。
研修を受けていなければ、得られなかった経験や考え方。1年間という短い期間で、石毛さんは多くのものを身につけました。
親元就農1年目|父親に理解されるための努力
キュウリに「べと病」が発生
1年間の研修を終えると、石毛さんは実家に戻って就農。農場には大小2種類のハウスがあり、小さいハウスの管理を任されました。研修でデータ管理の大切さを学んだ石毛さんは、週に1度データを取り生育調査をしていました。石毛裕之さん
父はデータに基づく栽培管理はしていなかったので、一人だけ何をしているんだと思われていました。そのため、収集したデータは月に一度プリントして渡し、理解してもらうように努めていました。
その年、大きなハウスで、きゅうりのべと病が蔓延。ハウスの湿度が高すぎたことが原因でした。
もともとハウスの環境制御のために株式会社誠和のプロファインダーというデータロガーを導入していましたが、長年の経験から、実際にはデータをチェックすることはあまりしていなかったそうです。薬剤の散布により立て直したものの収穫量は落ち込み、小さなハウスとの差も明らかでした。
プロファインダーを使用している農家の就農体験談
父ときちんと話し合う
べと病の発生は、父と改めて話し合う機会になりました。石毛裕之さん
父は昔からの管理の方法で20年以上もやってきて、長年の勘があるし、自負もあったと思います。私も「こうした方がいい」というのをなかなか伝えられませんでした。でも今後、安定して農業していくためには、昔からの方法だけでは難しいと思ったので、きちんと話をしました。
そして、家族にも潅水や薬剤散布について、より細かく記録するように依頼。また、インターネット上でハウスの環境データを確認できる「プロファインダークラウド」を導入し、いつでもどこでもハウスの状態を確認できるようにしました。
親元就農の良い面の一つとして、必要な設備や資材について、理解を得られればすぐに対応してもらえるところにあると石毛さんは言います。
その一方で、お互いの考え方の擦り合わせをしていくことの重要性と難しさも感じています。一緒に暮らしているのでいつでも話はできるのですが、実際には、仕事について話すのは仕事のときぐらい。同じ親元就農をしたトマトパークアカデミーの同級生と悩みを相談し合うこともあります。
地域の農家とネットワークを作る
地域の改良普及課に相談
石毛さんは、栽培技術について千葉県海匝農業事務所の改良普及課に相談していました。普及指導員が、地域の農家に見学に行けるよう調整してくれました。石毛裕之さん
紹介してもらった人が高校の2年先輩で、環境制御にも関心を持っていました。近隣の農家でもプロファインダーを導入している人が何人かいるので、お互いのハウスのデータを見れるようにしようという話も出たりして、助かっています。
父親世代の農家が多い中で、年齢や考え方の近い人を紹介してもらったことは、石毛さんにとって大きな力となりました。
硫黄燻煙装置の導入
また、設備投資の際にも、ほかの農家が参考になることがありました。うどんこ病が発生した際、トマトパークアカデミーで硫黄燻煙装置を使っていたことを思い出し、改良普及課の普及指導員に相談して、装置を導入している地域の農家を見学。安価な装置があることを知って導入を決定しました。リスク分散のためにも販路拡大を目指す
自分で値段をつけられる販路をつくりたい
2021年12月現在、いしげ農園の販路はJAのみ。しかし、石毛さんは少しずつでも販路を拡大していく必要性を感じています。石毛裕之さん
販路を増やせば、JAの買取価格が安いときにリスク分散できると思います。自分で値段をつけて売った方が利益になるのではないかと思うので、少しずつでもアプリや道の駅などで販売を始めたいです。
これまでは、収穫時期が忙しすぎて販路まで考える余地がありませんでしたが、販路拡大の第一歩として「食べチョク」にてアプリ販売を開始する運びとなりました。2022年の1月上旬ごろの販売開始を目標に準備をしており、少しずつ販路を広げていく予定です。
農業の魅力|栽培から経営まで、自分の力で自由に
農業に感じた3つの魅力
臨床検査技師から農業に転身した石毛さんは、農業の魅力を3つ挙げてくれました。それは、自分自身で栽培から経営までを行うこと、労務管理や時間管理も自分の工夫次第で融通が効くこと、そして経営者となり自分でお金を稼いでいくということ。石毛裕之さん
収穫時期以外に旅行に行けるようになったり、早朝に趣味の釣りをしてから仕事をすることができたりして、前よりも自由な生活ができるようになりました。
経営規模を拡大して、農業に意欲のある人たちとともに働きたい
将来の展望|規模拡大、雇用、法人化
現在は既存ハウスでのハウスでできるだけ収量を増やし、販路を拡大することを目指している石毛さんですが、将来的にはハウスを新設して県トップクラスの収量を目指し、いずれは法人化も検討していきたいと考えています。そのためにも、今後、雇用について検討する必要があり、着替え場所やトイレなど、従業員にとって快適な作業環境づくりをしたいと言います。コロナ禍で外国人実習生が来られなくなって人手に困る農家の話を聞くこともあり、地域で農業に意欲を持った人に働いてもらえたらいいのではないかと思っています。受け継ぐものと取り入れるもの
親元就農者の共通の悩みとして、従来のやり方と違う意見を親に理解をしてもらうのが難しいということがあります。石毛さんは、トマトパークアカデミーで研修を受けたことで、最先端の農業技術とともに、同じ悩みを持つ仲間や、相談する場所を得ることができました。一方で、親世代から引き継ぐかけがえのないつながりもあります。石毛さんの農場がある旭市では、ハウスのビニールの張り替えは地域の農家が協力して行うのが恒例。張り替えをする家にみんなが集まって作業をします。
石毛裕之さん
ハウスの張り替えに参加することで、滅多にすることのない作業を体験でき、地域の人たちにビニールの張り方を教えてもらいました。父には機械を長く使えるようにするためのメンテナンスなどを教えてもらうこともあり、ありがたいです。
トマトパークアカデミーで最先端の栽培方法や農業経営について学び、誠実に農業に向き合っている石毛さんの姿はきっと父にも届いているのでしょう。石毛さんは、今年から大きなハウスのキュウリ栽培についても任されています。良いものを引き継ぎ、新しいものを取り入れていくいしげ農園は、親子二人三脚でこれからより発展するのではないでしょうか。