4月から農業研修が始まって約半年が経ちました。農家にとって必要なとあるアイテムをそろえなければならないのですが、そこにはある大きな壁があって…。
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北海道移住最初の壁は「マイカー」の入手!
じつは、私は運転が大の苦手。大学生のころに運転免許は取ったものの、運転する機会といえば旅行先でレンタカーを借りて移動するくらい。車に乗る機会が少ないおかげで免許はピカピカのゴールドですが、毎回が久しぶりの運転なので、恐る恐るブレーキとアクセルの位置を確認し、法定速度でゆっくり走るペーパードライバーでした。しかし、田舎において車とは体の延長であり、とくに北海道では車がなければ生活が成り立ちません。そこで北海道に移住すると決めて最初に探したのは車でした。東京での生活に車は不要でしたが、移住するなら、何はともあれ「マイカー」を手に入れなければなりません。
当初は下取りに出すことも考えて新車の購入を検討。いそいそと販売店に行って試乗してみたものの、見積もりをもらうとやはりいいお値段…。今後数年おきに車を乗り換えていくなら新車で購入するのも悪くはないけれど、就農するときの資金を考えると、なるべく貯金は残しておきたい…。そんな葛藤を抱えながら中古車販売店を回ることに。さらに、北海道に行ったタイミングで現地の販売店もチェック。とにかく見積書をもらいまくりました。
中古車購入の直前にかかってきた電話
12月に車探しを始め、約2カ月が経った1月。「そろそろ車の購入を決めなければ、移住までに間に合わない!」と焦り始めたころ。私たちの探していた予算の範囲で、年式も新しく、走行距離も比較的少ない中古車を発見。販売店は埼玉県で東京の家からは少し遠かったのですが「見学してよかったらもう契約してしまおう!」そんな気持ちで現地に向かいました。
その途中。急に夫の携帯電話が鳴りました。
「もしよかったら車いる?」
え?車?…もらえるんですか?
なんと移住先の農家さんから車を譲ってもらえることに。しかもこの車を買う直前のタイミングで。中古車に後ろ髪引かれる気持ちも少しはありましたが、結局ほぼタダに等しい価格で車を譲っていただくことになりました。地方では、いらなくなった車をもらえることもあるという話を移住者のブログなどで見たことはありましたが「そんなの都市伝説でしょ?」と思っていました。まさか自分にそんなことが起きるとは。
こうして地元農家さんのおかげで無事に北海道でのマイカーを入手。ペーパードライバーの私も今となっては田舎道での運転には少しずつ慣れてきました。そして次に手にいれなければならないのが「軽トラ」です。
農家の必須アイテム「軽トラ」
「絶対、白がいいよ!」そう言われたのは、今日のラッキーカラー…ではなくて、車の話です。農家ならおそらく一世帯に一台以上は持っているであろう、軽トラック。収穫した農産物を載せたり資材を運んだりするのに大活躍の農家の必須アイテムです。じつはこの軽トラを次年度の研修が始まる前に準備しなければならないのです。
なぜ白がよいとアドバイスされたのかというと、「その日町内のどこに行ったかがわかってしまうから」。ただでさえ車ですれ違いざまに、運転席の人の顔を見て挨拶する文化が定着している農村地帯。色付きの軽トラックに乗っているとよほど目立つのだとか。D社のオレンジ色の軽トラはあの人、S社の黒の軽トラはこの人…というように、農家であればだれがどの車に乗っているのか把握してしまうのです。
マニュアル車に乗れない問題
ところが、軽トラ購入にある問題が立ちはだかります。さかのぼること8年前。「運転できたらかっこいいから」という小学生男子のような理由で、なぜかMT車免許を取得していた私。教習所卒業後、一度もマニュアル車に乗る機会がなかったため、ほとんど運転の仕方を忘れてしまったのです。
しかし研修先にはマニュアルの軽トラしかないため、やむなく乗る羽目に。メロンをこれでもかと積んだ軽トラをプスプスと何度もエンストさせながら、恐る恐る1速だけで運転していました。農道はよくても、公道は無理!坂道発進も落ちてしまいそうだし、道路の真ん中でエンストしたらと考えるだけで震えます。
オートマ車も普及している
軽トラックは今でこそオートマ車が普及しつつあるものの、昔から農業を営む農家さんは圧倒的にマニュアル派。それに新車も中古車もマニュアルのほうが価格は数万円安く、かつマニュアル車の方が中古車市場にたくさんの在庫があるのです。我が家はマニュアル車の運転がままならない私とAT車限定の夫が運転手のため、必然的にオートマの軽トラを探すようになりました。ちなみに先輩農家に勧められた軽トラのボディーカラー。正直なところ、カラーバリエーションも豊富な今、色付きの軽トラックに乗ろうが乗るまいが「好きにすればいいじゃない」と思っていました。むしろカーキやオレンジの方が格好いいし、新規就農者なら目立ってなんぼではないかと。ところが、オートマの軽トラックでほどよい価格の中古車はだいたい白しか出回っていないんです。そもそも車の色を選ぶ前に、オートマ車の選択肢が少ないことを悟りました。
軽トラを求めて140km
夏は毎日のようにメロンを積載荷重ギリギリまで載せて酷使する軽トラ。師匠は「軽トラは新車がおすすめ!絶対!」と話していましたが、就農時の資金が限られる中でなるべく安く、そして状態のいい中古の軽トラを探していました。しかし、オートマ車の在庫は少なく、「これはもう新車で軽トラを買うしかないのでは…?」諦めかけていたとき、ネット上に見つけました。ちょうどいい軽トラを。お値段100万円以下で、走行距離も約2万キロ。写真を見る限り外装もきれいそうです。
ただこの軽トラがあるのはなんと旭川市。我が家から北へ140km。関東でいえば、東京都から群馬県に行くようなものです。「この軽トラいいよなぁ、でも遠いよなあ」と二人で逡巡(しゅんじゅん)した結果、「後悔しないために見に行こう!」とその日のうちに旭川に向かいました。
そこでひと目見て、まさに自分たちが求めていた状態と価格帯の軽トラだったため即決で契約。9月末に無事納車されました。おまけに荷台マットと冬用タイヤまでつけてもらい、大満足。これで来年に向けた準備にもなんとか間に合いそうです。
移住&就農では「車の購入費用」も忘れずに考えよう
私たちは移住を決めてから一年以内に乗用車(マイカー)と軽トラックの二台を準備しなければなりませんでした。もちろん、車をすでに持っている人は問題ありませんが、これから移住や就農を考える人にとって車の購入費用はかなりの負担になります。意外と忘れがちですが、この点も考えて準備をするのがおすすめです。ちなみに、わたしたちの次なる課題は、トラクターの購入です。これはまた別の機会に紹介しましょう。バックナンバーはこちらから
脱・東京!北海道でメロン農家になりたい夫婦の農業研修記小林麻衣子プロフィール
神奈川県出身、北海道在住。大学卒業後、農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して夫婦で北海道安平町に移住。2021年4月からメロン農家見習いとして農業研修に励むかたわら、ライターとしても活動中。