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実践編では、若手就農者の悩みや課題に久松さんがアドバイスをします。
久松達央さんのジツロク農業論【実践編】バックナンバーはこちらから
第5回は、新規就農6年目、岩手県滝沢市で野菜の多品目栽培や、冬の間は石焼き芋の販売をしている由井野菜園の由井和正さんに、久松さんがオンラインでアドバイスをしました。
プロフィール
株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう)
1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)
由井野菜園 由井和正さんの相談内容
由井野菜園の由井和正さんは、27歳で脱サラ後、野菜や果樹、稲作農家での研修を経て、地元の岩手県滝沢市で新規就農しました。配偶者と2人で栽培と販売をしています。販路は、畑の近くにある直売所など消費者への直接販売がメインで、就農以来、客数や売上は順調に伸びています。現在の野菜の売上は500万円、冬期の石焼き芋販売は250万円ほどです。
今回の相談者
プロフィール
由井野菜園 由井和正(ゆい かずまさ)さん
岩手県滝沢市出身。大規模野菜農家や果樹農家、稲作農家での研修を経て地元で新規就農して6年目。春から秋は露地2haで野菜の多品目栽培をして、畑の近くにある自園の直売所、スーパーの産直コーナー、消費者や飲食店などへの直接販売。冬は石焼き芋を販売。
Webサイト:由井野菜園
由井さんは、堆肥を含め肥料を基本的に施用せず、また化学合成農薬を使わずに野菜を栽培しています。現状では、栽培上の大きな問題は生じていませんが、「このまま野菜をちゃんと作り続けられるのか?」という不安があると話します。また、安定的においしい野菜を栽培するための技術不足も感じているそうです。
・なぜ栽培がうまくいっているのかわからない。
・安定的においしい野菜を作るための栽培技術が不足している。
・野菜で650万円、焼き芋で530万円の売上を夫婦二人で実現したい。
基礎を学び、現状を知り、人を見て自身の課題をクリアにする
就農6年目になる由井さんは、お客さんから「おいしい」とうれしい反応をいただけるものの、なぜおいしい野菜が作れているのかわからず、いつかおいしい野菜が作れなくなってしまうのではないかと不安に感じていると言います。栽培や土壌の勉強をする
久松さんは、それらの不安は勉強すれば解消できると話します。土壌分析をして、その意味を考える
なぜ栽培がうまくいっているのかを知るためには、土壌分析(化学性診断)をして、冷静に今の土の状態を観察してみるのもいいのではないかと提案しました。植物生理と土づくりを学ぶ
また、これから先もおいしい野菜を作り続けるためには、基本的な生物学の勉強が理解を深めます。おいしい野菜を作っている人の畑へ見学に行く
さらに、久松さんは、有機や慣行などの栽培方法にこだわらず、元気でおいしい野菜を作っている人の畑を見に行くことは勉強になると言います。納得するためには比較栽培も
久松さんは、由井さんが自分自身で納得するためには、比較栽培をして、どのように味が変わるのかを体感してみてもいいのではないかと提案しました。
納得するための比較栽培とは
一例は、大きい鉢や肥料袋に、肥料成分が含まれていないピートモスなどを入れた隔離土耕を作り、露地と同じ作物を植え、与えているものがどのように効いているのかを実験する。
栽培期間が限られているからこそ計画を詳細に立てる
岩手県滝沢市では、冬場は降雪のため、畑に入れる期間は5〜11月と限られています。また、夏場は30℃を超え、作業の平準化が難しい地域です。久松さんは、由井さんが栽培技術が不足していると感じる理由の一つに、作業が追いついていないのではないかと言い、岩手県のように作期の短い場所で多品目栽培を行う場合には、ほかの地域よりさらに効率的に栽培を回す計画を作り込む必要があると説明します。綿密に計画を立てる
栽培期間が半年しかない岩手県の由井さんの場合は、1年間栽培が可能な茨城県土浦市の久松農園の栽培・出荷計画よりさらに作り込み、日単位で綿密に計画を立てるメリットはあると久松さんは説明します。設計図を細かく作ることが安心につながる
化学合成農薬を使用しない場合には、適期に播種(はしゅ)・定植することも収穫の確実性を上げるためには重要です。「ちょっと多めに作っておこう」が自分の首をしめる|管理面積を減らす
収量があまり多くない場合、「怖いから少し多めに植えておこう」という心理が働くと久松さんは言います。その「少し多め」が作業負担を増していることも指摘します。特に化学合成農薬を使用しない栽培の場合は、防除や除草など、より手間がかかるので、管理面積が増えることで作業が追いつかなくなることも起こり得ます。栽培品目|惰性で作るのはやめて得意なものにしぼる
現在、由井さんは半年という短い栽培期間で50〜60品目(2ha)を栽培しています。一方、久松農園は12カ月で60〜70品目(6ha)です。久松さんは、売上を上げていくためには、栽培パターンにうまくはまらないものや、惰性で作っている作目があれば、大胆にやめ、得意なことを伸ばしていくことが合理的だと言います。作期が短いからこそ1時間あたりの生産性を上げる
作期が短いからこそ、ある程度作目をしぼって、機械や資材などに投資して1時間あたりの生産性を上げたほうがいいとアドバイスします。機械投資についてはこちら
枠の中でできることを追求していく
畑の近くにある直売所兼出荷場での販売や、野菜のセット販売、産直コーナーなどの直売系の売り方は、融通がきく方法でもあるので栽培品目も得意なものにしぼって、大胆に変えてみてもいいのではないかと提案します。売り伸ばすために資金調達の検討も
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