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久松達央さんのジツロク農業論【第10回】オーガニックだからおいしくて安全はウソ。有機農業の3つの誤解


久松農園 久松達央さんによる「新規就農者が、豊かな農業者になる」ためのメッセージ。第10回は「有機農業の3つの誤解」です。「有機農業・オーガニック・無農薬だから」安全でおいしくて環境にいいというのは正しくない!?有機農業に取り組み、学び続ける久松さんからの提言!

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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久松農園の有機野菜

写真提供:久松達央

【新規就農者や、すでに営農しているもののつまずいてしまっている人へ】 株式会社久松農園 久松達央さんによる、豊かな農業者になるためのメッセージを伝える連載。 オーガニックな方法で農産物を栽培する生産者の中には、「有機だから安全」「有機だからおいしい」「有機だから環境にいい」とうたっている人もいますが、有機農業に取り組む久松農園の久松さんは、それらはすべて世の中の人が持っている有機農業やオーガニック農産物に関する誤ったイメージだと指摘します。第10回は、「有機農業の3つの誤解」について解説してもらいました。 久松達央さん

写真提供:紀平真理子

プロフィール 株式会社 久松農園 代表 久松達央(ひさまつ たつおう) 1970年茨城県生まれ。1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、帝人株式会社を経て、1998年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索している。さらに、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)

有機野菜だから安全でおいしくて環境にいい?

有機野菜

写真提供:紀平真理子

「有機」や「オーガニック」という言葉は、「安全」「おいしい」「環境にいい」というフレーズと一緒に使われることが多く、消費者だけでなく生産者の中でもそのように認識している人がかなりいます。まずは、久松さんの考える「有機」について話を聞きました。

有機農業は世の中に誤解されている

有機野菜は安全で、おいしくて、環境によくて…いいイメージがありますよね。

久松達央さん
久松達央さん
すべて正しくありません。僕は、「有機だから安全」「有機だからおいしい」「有機だから環境にいい」というのは、有機農業に対する間違ったイメージだと考えています。今回は、有機農業が誤解されている3つのことについて話します。

誤解1|有機だから安全?

無農薬は安全

写真提供:久松達央

一つ目の誤解である「有機だから安全」について解説してもらいました。化学合成農薬(以下「農薬」)や化学肥料を使用した一般的な慣行農業と比較して、農薬や化学肥料を使わない有機農業の方が安全だといわれることがよくありますが、これは本当なのでしょうか。 ※「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に則った場合、農薬を使用していないと「農薬:栽培期間中不使用」ですが、本文中では「無農薬」と表記します。

有機野菜は慣行野菜と同程度に安全

有機は農薬を使っていないので安全ですよね。

久松達央さん
久松達央さん
有機野菜は安全です。適正に農薬を使っている慣行農業でつくった野菜と同じ程度に安全です。

同じ程度なのですか。農薬は危険だと思っていました。

久松達央さん
久松達央さん
今の農薬は大変に厳しい基準で管理されており、食べる人が農産物を口にする時点で農薬が残留していること自体がまれです。万が一残留があった場合でも、それが人の健康を害することがないレベルに使用がコントロールされています。現在の日本の農業における農薬の使用が、食べる人の健康を害することはあり得ないといって問題ないと思います。「農薬は危険だ」という主張が繰り返されていますが、科学的に根拠がないものばかりです。
参考:内閣府食品安全委員会事務局「食品安全委員会における農薬の食品健康影響評価について」

「無農薬は身体にいい」と安全をうたっている生産者もいますよね。

久松達央さん
久松達央さん
農薬を使用している農産物が健康に害がないのですから、農薬を使っていないからといって身体にいいという理屈は成立しません。これはウソだといっていいでしょうね。そもそも「○○は身体にいい/悪い」という表現自体がおかしなものです。自然のものも含めてすべては毒になり得ます。塩にも水にも致死量はあります。ある物質が毒になるか否かを決めるのは摂取する量です。毒性の高いものは少量でも毒になりますし、毒性の低いものは大量に摂取しないと害を及ぼしません。なので、「○○という物質は、△△の量を摂ると、××のリスクがある」が正しい表現ですね。

参考書籍

お母さんのための「食の安全」教室

著者:松永 和紀
出版社:女子栄養大学出版部
発売年:2012年

食べものの中身を心配するのは先進国だけ

それでも、長生きしたいので無農薬の野菜を食べています。

久松達央さん
久松達央さん
素晴らしいですね。じゃあ僕より寿命が15分伸びますね。

え、たったそれだけなのですか。

久松達央さん
久松達央さん
損失余命といって、さまざまな危険の原因にさらされることによって、その後の死亡率が高まり、その結果失う平均余命を算出して比較する考え方があります。例えば、タバコを危険の原因とすると、タバコを摂取することで、してない人に比べてどれだけ命が短くなっているか、死亡率や発がん性の発生確率などから逆算して考えます。推定値なので厳密な比較ではありませんが、リスクの大小をざっくり捉えるためには役に立ちます。残留農薬の場合は、過大に見積もっても損失余命は0.01日、つまり15分弱との算出もあります。

命を短くする原因は農薬ではないのですか!

久松達央さん
久松達央さん
世界全体を見れば、今でも死因のトップは飢餓、つまり栄養不足なのです。日本で見ると、がんや心臓疾患、喫煙、アルコール、自殺などが死因の上位です。残留農薬などを心配しているのは、先進国の、しかもごく最近の話です。本当に長生きしたいなら、残留農薬を気にし過ぎるより、タバコやお酒を控えて、心身ともに健康に生活することですね。政府も有機農業の拡大などにお金を使うより、自殺対策に取り組んだ方が、僕は効果的だと思っています。

安全と安心は違う

有機野菜だから安全というわけではないのですね。「安全・安心な有機野菜」という表現が多用されるのはなぜですか。

久松達央さん
久松達央さん
有機であろうがなかろうが、農産物は安全です。でも、安全であることが安心につながっていない人もたくさんいます。そもそも「安全」と「安心」は違います。科学は「安全」を説明できますが、直接「安心」を与えることはできません。自分が「安心」できないからといって、科学的な客観的事実である「安全」を認められなかったり、攻撃することは無意味です。「安心」についてはそれぞれの感受性によるものなので、これを非難することも意味がありません。

安全と安心の違い 安全:客観的。科学的根拠や客観的事実に基づく「材料」や「道具」 安心:主観的。自分で解釈してどう感じるかに基づく「自分という器」

誤解2|有機だからおいしい?

久松農園

写真提供:紀平真理子

二つ目の誤解は、「有機だからおいしい」です。「有機だから」だけでなく、「オーガニックだから」「無農薬だから」おいしいというキャッチコピーもよく目にしますが、これも正しくないと久松さんは言います。それは、野菜のおいしさを決める三要素を満たしていれば、栽培方法に関係なくおいしい野菜を育てることができるからです。

久松さんの野菜は、有機だからおいしいですよね。

久松達央さん
久松達央さん
「有機だから」おいしいわけではないです。

え?そうなんですか?私が食べたほかの有機野菜もおいしかったです。なぜでしょうか。

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