- Miyuki Tateuchi
アメリカのミシガン州に居住中。海外の農業情報や普段の生活を通して感じた食農トピックを紹介します。祖父が農家だった影響もあり、四季折々の「旬」を大切にしたいと思っています。…続きを読む
前回はクリスマスにかかせないツリーとポインセチアについてのストーリーを紹介しました。
今回は、「グルテンフリー」という言葉に注目。この言葉、食品のパッケージでよく見かけますが、何となくわかったつもりでスルーしてしまっているかもしれません。新年になって、「今一度、自分の食を見直したい」という人もいるでしょう。アメリカの例も紹介しながら、実情を見ていきます。
商品パッケージのコミュニケーション力
ところ狭しと並べられたパッケージ。こうやって写真を見てみると、スーパーの棚がいかにカラフルで、デザインにあふれているかがわかります。そして、バラエティに富んだ商品。同じブランドの中にも複数の商品があり、買い物に行くと、何らかの判断基準が必要になります。実際、私がアメリカのスーパーで迷ったのは、ケチャップ。サイズの違いのほかにも、塩分が入ってないもの、砂糖が入っていないもの、オーガニックの素材を使っているもの、人工的な成分を使っていないものと、複数のラインアップがあり、売り場でしばし立ち止まってしまいました。
消費者の嗜好が多様になったことや食事療法が必要な人からのニーズを受けて、アメリカのスーパーが取り扱う商品数はますます増えています。1990年代には7,000点ほどだった商品数が今では40,000〜50,000点にのぼるとか。(参考:Market Watch)
購買行動の70%は売場で決定されているとのデータもあり、消費者は価格やパッケージの情報を元にその場での意思決定を求められます。
そんな時に役に立つのがパッケージにあるラベルやロゴ。「グルテンフリー」も例外ではありません。家の中を見回してみると、パスタ、シリアルのほか、米やザワークラウト(ドイツのキャベツの漬物)にもついていました。何となく良さそうな響きのある言葉ですが、グルテンフリーとはどんな意味でしょうか?
グルテンフリーの認証団体は複数ありますが、アメリカで一番多く見かけるのはこのGFCOのマークです。現行の左側のマークから、2022年3月までに右側のマークに変更予定です。
グルテンフリーで「ない」のはグルテン。でも、グルテンって何?
グルテンフリーのフリーは「〇〇がない」という意味で、ないものは、グルテンです。でもグルテンって…。簡単にいうと、小麦などの麦類に含まれる2種類のたんぱく質(グリアジン、グルテニン)が水を加えてこねることで絡み合い「グルテン」になります。パンやパスタのあのもちもちとした食感の正体がグルテンで、他にも小麦を使ったクッキーやケーキ、うどん、ラーメンなどの麺類がグルテンを含む食品の代表例です。
徹底的に「グルテンフリー」の生活をしようとすると、かなり大変なことになります。グルテンは小麦粉を加工した食品にも含まれており、しょう油や味噌、マヨネーズなどの調味料、カレールーにも入っていることがあります。また、原材料として含まれていなくても、製造設備での混入(コンタミネーション)の可能性があります。
欧米では、グルテン濃度が20ppm(0.002%)以下(1kg当たり含有量が20mg以下)だと、「グルテンフリー」の表示をすることができます。前掲のGFCOのマークでは、それより厳しい10ppm以下の基準を設けています。日本では「数ppm以上の小麦総たんぱく量を含む状況であれば、容器包装に小麦のアレルギー表示をしなければならない」とされており、海外でグルテンフリーの製品であっても、日本の数値基準以上であれば小麦アレルギーについての表示が必要との立場をとっています。
「グルテンフリー」の表示が必要なのには理由があります。
「グルテンフリー」の表示が必要だったのは、疾患を持つ人たちがいたから
グルテンはアレルギーのない人にとっては特に問題がありませんが、小麦アレルギーやセリアック病の患者の人にとっては有無の確認が必須の成分となります。日本ではあまり知られていませんが、アメリカでは約100人に1人がセリアック病と推定されています。グルテンを摂取すると異常な免疫反応が起こり、小腸の粘膜が傷つけられてしまうため、栄養が吸収されにくくなったり、腹痛や下痢の症状が起こるため、グルテンを避ける食事療法が必要といわれています。
また、グルテンを消化しづらく、グルテンを含む食事を続けると腹部膨満感や疲労などの不調が続くグルテン不耐症の人にとっても、このマークは食品を選ぶ時の目印となります。
グルテンフリーダイエットもブームになったが
テニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチ選手やモデルのミランダ・カーもグルテンフリーを実践していることを公言し、一躍有名になった食事法ですが、警鐘を鳴らす意見もあります。英国国民保険サービス(NHS)や日本の内閣府食品安全委員会は「食事から何らかの食品を排除することは、栄養失調につながりかねないことから、(セリアック病患者など)厳密な必要性があり、かつ医師の助言の下で行われる場合を除いては良い考えではない」としています。
小麦には食物繊維やビタミンB、ミネラルなどの栄養素が含まれており、エネルギー源としての役割も果たしています。グルテンフリーを実践したら小麦の代わりに米を食べる、グルテンが元々含まれていない野菜や果物を多く取るなど、意識的にバランスの良い食事をすることが重要です。
そうはいっても、面白い食品もある。今後も期待したいグルテンフリー食品
ホールフーズが毎年発表している「食のトレンド予測トップ10」の中でカリフラワーピザが登場したのが2017年。それから時間が経ち、珍しさも薄れたカリフラワーピザですが、今でもアメリカでは人気の定番商品となっています。味が受け入れられただけでなく、生地の材料には小麦粉の代わりにカリフラワーや米粉が使われているので、正真正銘のグルテンフリー。各社からさまざまな商品が発売されており、マーケットリーダー的な食品メーカーCaulipowerの商品にもしっかり認証マークがついていました。
この会社のサクセスストーリーが映画になりそうなお話です。
セリアック病の息子2人を抱え、毎日の食事にも気を使う母親のゲール・ベッカー。普段はグルテンフリーの食材を購入するものの、糖分や添加物が多い商品もあるため、安全性が気がかり。ある日、手作りのレシピを参考にカリフラワーピザを使ってみたら、生地を作るだけで90分もかかってしまう。時間はかかるし、部屋は散らかるしで、「こんなの毎日やってられない」「他の人にもニーズがあるはず」と考えた彼女は、広報会社の役員としての仕事を辞め、今まで全く経験がない食品会社を起業する。結果、そのカリフラワーピザは大ヒット。3 秒に1枚が売れるピザとなった。
このピザ、私も食べてみましたが、薄手のパリッとした食感のピザ生地で、味も特に違和感ありませんでした。特段カリフラワーと意識することなく、普通のピザとしておいしいという感じ。商品として長続きするためには目新しいだけではだめで、普通の味が求められているのかもしれません。(「普通が大事」という話、ラーメン日高屋の会長さんのお話にもありました!)カリフラワーという野菜の商品価値がもたらす低カロリー、健康感は文句なしでとても魅力的な商品に思えました。日本発の「グルテンフリー」食品にも注目
日本でも、「グルテンフリー」の分野に注目し、米粉を使った小麦代替商品が多く開発されています。2020年には、ケンミン食品の「焼きビーフン」も海外市場用にグルテンフリーの商品を投入しました。ビーフンは米粉なので最初からグルテンフリーですが、海外用では小麦を使わない「グルテンフリーの醤油」を使っているとのことです。「グルテンフリー」に対しては栄養面や価格面から否定的な見方もありますが、これをキーワードに市場が活性化し、さまざまな商品が生まれるのは食の多様性からも望ましいことだと個人的には思っています。日本国内での米の消費量が減っている中、米粉が海外に新しい販路を見つけていくのも夢が広がります。
食品ラベルについては、グルテンフリー以外にも気になるものがあるので、今後も当コラムで紹介していきます。
次回は2月、食品で大きな需要といえばバレンタインですね。アメリカではチョコレートなどのお菓子に加えてお花のギフトも定番です。バレンタインの由来や現地の様子を紹介します。
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「アメリカ生活アグリ日誌」Miyuki Tateuchi プロフィール
就職情報会社、外資系人事コンサルティング会社を経て、2017年よりアグリコネクト株式会社でリサーチ業務に従事。2019年より夫の転勤に伴い、アメリカのミシガン州在住。成長期真っ只中の2児の母。農業と地域、世界の料理などへの興味を元に、情報発信していきます。