そもそも農業をはじめる動機は何だろう。その理由は人それぞれ違うと思いますが、相当なパワーがないと就農に至らないのではないかと考えています。昨年、静岡県の新規就農者のためのセミナーに飛び入りで参加させてもらい、就農準備期間中の人と就農5年目までの人と一緒に研修を受講しました。「なぜ農家になるの?」という点が、何でもありな農業だからこそ面白い。そのときにある意味唯一の部外者だった私が感じたことをつづります。
新規就農の種類
静岡県西部では、年間で50名ほどの新規就農者がいるそうです。私が参加させていただいたセミナーは、就農準備で研修中の人と、新規就農や親元就農をしてからあまり月日が経過していない10名ほどが参加していました。参加している時点で学ぶ意欲が旺盛な人たちでしょう。セミナーに参加していた新規就農者は、「新規参入者」と「親元就農者」で、経営の中身まではわかりませんが、基本的には専業で新規就農されている人たちでした。新規参入者:非農家の出身者が新たに農業経営をはじめる。実家の農業経営とは別に農地の権利を取得し、経営をはじめる
親元就農:実家で就農・経営継承
新規雇用就農者:農業法人や個人農家に雇用される
新規就農の理由は?|自身の経験か農業のイメージか
新規就農者の就農実態に関する調査結果(参考:一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センター|2017年3月)によると、就農の理由は、農業は儲(もう)かるなどの「経営的な理由」や、農業や田舎暮らし、自然が好きだからという「自然・環境的な理由」が上位を占めます。セミナーの一環でも、新規就農者たちは、「なぜ農業をやりたいのか?」について語っていました。以下はケースとして見てください。経験や好みが起因|内部環境
積極的な理由
・実家が農家で、その農産物を食べた人から「おいしい!」と言われたことが忘れられない。・土を使った農業がしたい。
・子どもが将来の職業の選択肢として農業があるように、食育をしたい。
消極的な理由
・サラリーマンをしていて、このままでいいのかと思ったが、自分が秀でているのもはなく、消去法で農業を選んだ。・人の元で働くことが楽しいと思えず、環境を整えれば解決すると思った。
農業のイメージから選択|外部環境
ポジティブイメージ
・食べものを供給できるのは素晴らしい。ネガティブイメージ
・よくない農業のイメージを変えたい。・不安定な農業という産業をよくしていきたい。
・農業は暗いイメージなので、魅力的な産業にしたい。
外からの目として勝手な感想
聴衆の立場として私が感じたことを記します。自分が信じる道があって、「これがしたい!」と熱く語る姿や、農法や規模や販路を問わず、選んできたことを説明するときに、消去法や現状の言い訳ではなく、「好きでやっているように見える人」はすてきだな、何か起こりそうだなとワクワクしました。
また、「変えたい」という気持ちがあることは素晴らしいのですが、「農業は守るべきもの、大変なもの」という思いが根底にある場合も多く、これは伝える側として大きな責任を感じました。農業という産業も生産者も、守るべきかわいそうなもの、人たちではなく、ほかの産業とまったく同じで、普通に生産活動をしていますし、生活としての農(自給自足や趣味の家庭菜園)でなければ経営者です。
あと、「最低限食べていける」、「最低限出せるものを作る」など、「最低限」という言葉をわりと耳にしましたが、あまり使ってほしくないとも思いました。なぜなら、自分の日々の仕事でもそうですが、最低限を目指すと、最低限のものにも到達しないと内省しているからです。
続いている理由は内から湧き出るモチベーション?
長く農業をしている経営者たちのお話を聞く機会も多いのですが、続いている人は、農業をはじめた理由や続けている理由が、社会や産業のためだけではなく、自分の内から湧き出る「Wish(希望・願望)」に忠実な気がします。「自由になりたい」「農機に乗りたい」「アウトドアが好きで外で仕事をしたい」「特定の作物づくりにハマって、ただ作りたい」など。ただ、これも農業を続ける中で本来の気持ちを外に出せるようになったのか、元々自分の憧憬(どうけい)にしたがって農業をはじめたのかまでは聞いたことがありません。
もちろん、外部環境が刺激となり、好奇心やはじめたい気持ちが生まれることも多いですが、自分の中で沸き起こる何かが、起爆剤や継続力につながるのかなとも思います。
なにも農業だけのことだけでなく、すべての人にも当てはまりますね。
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毎週水曜日更新おしゃれじゃないサステナブル日記
紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate