これまでの「ハッピーファミリーファーマーズ日記」
喜寿を過ぎた父に火がついた!
私の父は東京生まれの東京育ち。高校のころから登山にはまり、大学では体育会系の山岳部に所属していました。いわゆる「猛烈サラリーマン」で、高度経済成長を牽引した働き者の世代です。第一線を退いたころから健康維持のために、山登りや山仕事ボランティアを再開した父。学生だった私も、時には一緒に山登りに連れて行ってもらいました。父と行くと交通費や食費がかかりませんから(笑)。
竹林と父
そんな父が、「老後が心配なら南阿蘇に引っ越してきてよ」という娘の無茶振りに応えて、半世紀近くも住んだ都内のマンションを売って、南阿蘇に移住したのは3年ほど前のこと。もともと山好き・自然好きだったこともあり、割とすんなり田舎暮らしになじんでくれました。でも日々、近所を散歩するだけではもったいない。「いつか竹林をきれいにしたい」と言い続けていた父のために、林野庁の補助金に申請し、必要な機材の購入補助、安全講習、ちょっとしたお駄賃などが受けられるようにしてあげると、父はそれはまあ張り切って、毎日のように竹を切る暮らしを始めました。
南阿蘇でのニックネームは「仙人」。猛烈サラリーマンだったころからは想像がつかない容姿は、竹林に入るとまさに仙人のよう!
成果が目に見える竹林整備
日本の里山の風景には欠かせない竹林。昔は、薪よりも火力が強い竹は焚き物として使われ、タケノコは食料として採る目的があったので、その度に人の手が入り、竹林は美しさが保たれていました。近年、利用する人がほとんどいなくなってからは、「サルも入れない」と表現されるほど荒れている竹林が増えています。このままでは美しくないだけでなく、台風で倒れたり、イノシシなどの住処になってしまったりと実害も出てしまうことを父は知り、生きがいとして竹林の整備をしたい、と考えるようになりました。高齢者が山仕事をするのは危険を伴いますが、竹ならノコギリで切れるうえに中が空洞なので木より軽い!山仕事ボランティアを通じて、知識も経験もある父にとっては、最高のミッションです。
しかし、“言うは易く行うは難し”。荒れてしまっている竹林は、枯れている竹を取り除こうと思っても、葉っぱが絡んで容易に引き出せず、どこから手を付けていいのか途方に暮れてしまうことも。それでも地道に毎日数時間ずつ作業をしていると、テレビ番組の「大改造!!劇的ビフォーアフター」のように、みるみると竹林が美しくなっていくではありませんか!
親子で協働する
農繁期はいっぱいいっぱいで、家の前にある菜園の手入れさえままなりませんが、秋も深まり、田んぼの仕事がおおかた片付いたところで、私も竹林の手入れに参戦することにしました。青々している竹は乾燥させてから焚き物にしますが、枯れている竹はすぐに燃やせるので、さっそく我が家のボイラー用にします。ただ、中に空気が入っている竹をそのまま燃やすと、中の空気が膨張して破裂するので、鉈(なた)や専用の道具を使って割る作業が必要です。
まずは、父が切り出した竹を、運びやすい長さに切断。
あぁ、そういえば義理の祖父母がやってくれていたなあと思い出し、亡き義祖父母に改めて感謝。
マイペースで淡々と作業を進めていた父も、言葉にはしませんが、アシスタントが来てうれしそうです。こんな風に親子で仕事ができるなんて、幸せだなぁ。
女子たちは未利用資源でクリエイティブ・ワーク中
かわいいアクセサリーに
夏前には竹林から枯れた竹をせっせと集めて野外炊飯をしたり、今も時々竹林整備を手伝ってくれたりする女子大生は、彼女たちなりの創造力を発揮し、南阿蘇にある「未利用資源」を使った制作活動をしています。竹についてはまだ構想段階ですが、先にアイディアが出ていた「稲穂ピアス」は試作段階に。稲穂ピアスは、コンバインで稲刈りの後、イノシシの被害や台風で倒れて田んぼにたくさん残っている稲や刈り残しの稲穂を拾い集め、かわいいアクセサリーに加工して販売しようという試みです。男所帯だった我が家にはなかった発想。いずれは商品にして、彼女たちのお小遣い稼ぎになればと期待しています。
野菜スイーツや料理開発も
熊本地震後に移住してきたパティシエの瞳ちゃんも、トマトパンナコッタなど、クリエイティブワーク中です。本職の野菜スイーツ開発はもちろんのこと、イノシシやシカの骨から出しを取った新作ラーメンも開発中。いやはや、女子たちは頼もしい!いろいろな年代がいろいろな形で、未利用資源を使ってハッピーになれたら最高です。
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大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」