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グリーンツーリズムとは
グリーンツーリズムとは、「農山漁村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ、滞在型の余暇活動」と定義されています。この言葉が日本で初めて公式に用いられたのは、1992年の農林水産省の報告書でした。その起源は、ヨーロッパで発祥したアグリツーリズムにあります。ヨーロッパのアグリツーリズムが農場に宿泊することが中心であるのに対して、日本のグリーンツーリズムは、体験学習や地域の人々との交流に重点がおかれていることに特徴があります。2008年の観光庁設置に伴い、現在では農林水産省と観光庁が新たなニーズに対応したグリーンツーリズムの取り組みを推進することになりました。
グリーンツーリズムとエコツーリズムの違いは?
グリーンツーリズムと似た言葉にエコツーリズムという言葉があります。エコツーリズムとは、1980年以降に先進諸国の観光客の増加によって、発展途上国のリゾートの大規模開発が盛んになったことなどが批判される中で、自然保護の立場から現れた言葉の一つです。グリーンツーリズムが都市住民と農村住民の交流をテーマにしているのに対し、エコツーリズムの概念では自然環境保護に主眼がおかれています。日本のグリーンツーリズムのスタイル
日本で実践されてきたグリーンツーリズムには多様なスタイルがあり、中にはグリーンツーリズムという言葉が提唱される以前から行われているものもあります。ここでは、代表的な4つのタイプをご紹介します。農泊
農家や非農家が、豊かな地域資源を活用して提供する農村への滞在型旅行。宿泊者は食事や体験を楽しみ、受入者は宿泊者との交流を図るとともに、地域の所得向上と活性化を図ります。農林水産省は農泊を推進しており、PR動画を作成しています。農泊の先進的事例として知られているのが、大分県安心院町の取り組みです。1996年に発足した安心院町グリーンツーリズム研究会は「農村民泊」に全国で初めて取り組み、行政と連携して農泊を広めるきっかけを作りました。
農村型ワーキングホリデー
都市部の希望者が農家に宿泊しながら、農作業や農家の生活を体験するのが農村型ワーキングホリデー。宿泊者が労働力を提供することで、受入者にもメリットがあるほか、宿泊者の長期滞在が可能となる側面もあります。長野県飯田市には、1998年から延べ7,000人以上が参加しています。また、(一財)都市農山漁村交流活性化機構(まちむら交流きこう)が行っている「オーライ!ニッポン」という取り組みがあります。これは、都市と農山漁村の間の往来を盛んにすることで、日本を元気にしようというキャンペーン。いち早くこのプロジェクトに取り組み、積極的に宿泊者を受け入れてきた飯田市は第1回「オーライ!ニッポン大賞」グランプリに選ばれています。
ツーリズム大学
ツーリズム大学は、農山村の地域資源を活かしたツーリズムを実践する人材を育成することを主な目的としています。1泊2日程度の講座を受講しつつ、地域を知り、同じ目的を持つ人たちと交流することができます。「九州ツーリズム大学」「東北ツーリズム大学」「関東ツーリズム大学」など各地に広がりをみせています。教育体験
修学旅行や校外合宿など教育旅行の一環として、農業体験が取り入れられることが増えてきました。若い世代に広く農を体験してもらうことができます。コロナ禍に見舞われた2020年、注目が集まったオンラインでの観光ツアー。
グリーンツーリズムを行う5つのメリット
交流が刺激になる
農村地域はともすれば閉鎖的になりがちですが、都市からの訪問者と交流することで、新たな発見や喜びが得られます。地域に当たり前に存在する自然や風景、農作物や農機具などが訪問者に喜ばれると、地元の価値の再発見につながります。高齢者の生きがいづくりに
農村の高齢者がもつ技術や知恵を訪問者の体験指導に役立てると、地域の高齢者の生きがいづくりにつながります。人から頼られることや教えることは大きな喜びです。特に子どもたちと高齢者の交流は双方にとって有意義なものになります。農産物のPRになる
農場見学や収穫体験などで実際に触れた農作物は、訪問者にとっては忘れられないものになるでしょう。帰る際に直売所などで購入したり、帰宅後も訪れた地域の農産物を買ったりする機会が増えるかもしれません。地域資源の再活用
人口減少が進む農村地域では、空き家、廃校、耕作放棄地などをグリーンツーリズムに活用することで、有効利用することができます。使われていなかった家屋に灯りがともると、地域が明るくなります。六次産業化のきっかけに
グリーンツーリズムをきっかけにして、農産物を利用した加工品の生産やレストランの開業につながることもあります。地元ならではの食材を使った土産物の販売などは、農家の所得向上や雇用の創出にも大きく寄与します。助成金の活用も!子ども農山漁村交流プロジェクト
子ども農山漁村交流プロジェクトは、総務省、内閣官房、文部科学省、農林水産省、環境省が推進する都市農村交流事業。子どもが農山漁村で宿泊し、農林漁業体験や自然体験活動をします。子どもたちの自立心や思いやりの心、ルールを尊重する意識などを育むことを目的としています。この事業については、関係省庁がそれぞれ事業費を予算計上しています。そのうち、農林水産省が所管する「農山漁村振興交付金」は、「農泊」をビジネスとして実施するための現場実施体制の構築、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げる取り組みなどに助成金が交付されます。
農林水産省ウェブサイト「子ども農山漁村交流プロジェクト」(https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kodomo/)
農林水産省ウェブサイト「農山漁村振興交付金」(https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/shinko_kouhukin.html)
外国人にも農村体験を!国際グリーンツーリズム
訪日外国人を対象とした国際グリーンツーリズムの取り組みも始まっています。外国人観光客の中には、有名な観光地を巡るだけではなく、日本の農村への滞在や地元の人たちとの交流体験を求める人がいます。国際グリーンツーリズムを行うことで、地域が国際的にも知られる存在になるほか、インバウンドによる経済効果も期待できます。青森県南部町では、町内の関係団体が連携して、視察団を受け入れや英字での情報発信、訪日外国人向けのイベントを実施するなど国際グリーンツーリズムに積極的に取り組んでいます。
グリーンツーリズムが地域を輝かせる
グリーンツーリズムの受け入れにはいろいろな方法がありますが、1軒の農家で行うには負担が大きい面もあります。その点、地域や集落の構成員が協力しあってグリーンツーリズムを受け入れると、個人の負担を減らせるほか、さまざまなな能力を持つ人材を確保できたり、地域の活性化につながったりというメリットがあります。また、行政の支援や補助金などの交付も受けやすくなります。農村地域を輝かせる手段の一つとして、大きな可能性を秘めているグリーンツーリズム。これからますます注目を集めるかもしれません。