ボラバイトとは、ボランティアとアルバイトを合わせた造語で、農家などが人手を必要としている時期に合わせて、仕事の体験や、地域の人々との交流をするものです。農村ワーキングホリデーも、農業を体験したい人が一定の期間地域に滞在し、働きながら地域の人たちとの交流して、地域や仕事への理解を深めます。
今回は農業のボラバイトを体験した人、農村ワーキングホリデーを受け入れている人、農業を体験する人と受け入れる人をつなぐ人の声を集めてみました。
農業のボラバイトを体験|小此木康平さん
最初にお話を伺ったのは、ボラバイトを複数経験した小此木康平さん。小此木さんは、福井の接ぎ木農家、長野の枝豆農家、ペンション2カ所(静岡、長野)での経験があります。小此木康平さん プロフィール
明治学院大学在学中に学生団体を再興し、戸塚や白金を中心に地域や企業と共同して、学生がボランティアに参加するきっかけづくりや地域活動に従事する。その傍ら、各地域をボラバイトを通して、数カ所訪問。
先輩の話を聞いてボラバイトに興味を抱く
小此木さんが最初にボラバイトをしたのは大学2年生のとき。小此木さんは、インターネットでボラバイトを検索して希望の条件に合うものを探しました。掲載されていたボラバイトは1~3カ月間ぐらいの長期のものが多く、滞在期間を2~3週間と考えていた小此木さんは、条件の合った福井県の接ぎ木農家へ行くことを決めます。接ぎ木とは種類の違う植物同士をつないで1つの個体とし、育てやすい苗にすること。現地までの交通費は自己負担で、支給されたものは米とお味噌汁と食費。泊まる部屋は寮の個室でした。
最初は難しかった細かい作業
任せられたのは、スイカやメロンやトマトなどの枝をカボチャの茎と接ぐ作業。茎に穴をあけて二つの茎をくっつけたあとに固定するためのビーズをつけます。野菜によってつけるビーズが違うので、目測でビーズを選ばなくてはなりませんでした。単なる農業体験と違うのは、受け入れ側からの期待。周囲からは仕事に来ていると見られているため、作業がうまくいかないときは大変に感じることもありました。でも、難しかった作業ができるようになると、周りからの見られ方も変わったといいます。
認められる喜び、やり遂げた自信
繁忙期ということもあり、現場では朝8時から作業が始まり、終了が19時や20時になることも。終了時刻は自分で決めてよいといわれていたそうですが、小此木さんはいつも最後まで作業に携わりました。大学では熱中して何かに打ち込む経験がなかったという小此木さん。農業の現場で最後までやり遂げたことが自分の自信につながったと考えています。
作業のあとの楽しみ
現場では、現場監督と外国人技能実習生の女性が一人、地域に住んでいる中高年の女性が15~20人くらい働いていました。みんなフレンドリーでオープンな雰囲気だったといいます。ここでの体験が気に入った小此木さんは、当初の予定を1週間ほど延長し、接ぎ木農家に3週間滞在しました。
体験した人だけがわかること
小此木さんは、ボラバイトをして「百聞は一見にしかず」だと改めて感じたそうです。また、家に帰らずに現地に滞在することに大きな意味があるといいます。
農村ワーキングホリデー受入農家|井上信太郎さん
農業体験に来る人を受け入れる側は、どんな思いを抱いているのでしょうか。農村ワーキングホリデーという形で大学生を受け入れている善兵衛農園の井上信太郎さんにお話を伺いました。井上信太郎さん プロフィール
和歌山県湯浅町出身。「紀州柑橘農園 善兵衛」7代目。大学卒業後2年間の農業研修を経て2016年6月より実家のみかん農園に就農。2016年9月にコミュニティハウス「紀家わくわく」をオープンさせ、農村ワーキングホリデーの受け入れを行う。そのほか「日本みかんサミット」の運営にも携わるなど、みかんづくりを通じて人や地域をつなげる活動を行っている。
紀州柑橘農園 善兵衛
住所 : 〒643-0006 和歌山県有田郡湯浅町田 340-3
http://zenbeefarm.jp/
友達に喜ばれたのが原点
井上さんが大学生の農村ワーキングホリデーを受け入れたきっかけは、自身の学生時代に実家のみかん農園に友達を招いてとても喜ばれた経験にありました。また、和歌山県田辺市の都市農村交流施設「秋津野ガルテン」での農業研修中に、農村ワーキングホリデーの事務局を経験したこともあり、就農後自分の地域でも始めたいと思ったといいます。現在は、3つの学生団体と連携して農作業を体験したい大学生を受け入れ、その時に必要な仕事をしてもらい、その代わりに食事と滞在場所を提供しています。体験後、アルバイトとして雇用した人もいます。
受け入れる対象は大学生
対象を大学生にしていることについて、井上さんは、フットワークが軽く学ぶ意欲が強いことや時間があることなどとともに、農業の経験がその後の人生に与える影響についても言及します。受け入れることで得られる刺激
実際の仕事は、主にかんきつ類の収穫や袋かけなどですが、ちょっとした体験というものではありません。特に夏場の摘果作業は暑い中で行うので大変なのだそう。真面目に、そして楽しみながら現場を経験してもらい、仕事が終わるとみんなで自炊して交流するのは、お互いにとって良い学びの場になっています。広がる交流と未来
井上さんが農村ワーキングホリデーを受け入れるようになってから、地域のほかの農家も学生を受け入れるようになりました。地元の仲間と交流拠点として整備した「紀家わくわく」には、年間で延べ100名くらいの学生が訪れています。井上さんが始めた交流は個人の農業体験の枠を超えて、地域の活性化にもつながっています。
団体で縁農活動を実施|郡司昂さん
団体で「縁農活動」を行い、農業を体験したい人と農家をつないでいるのが「農コミュニティWeFarm…」の郡司昂さん。「縁農活動」とは、WeFarm…において「楽農×援農」と定義している言葉です。2019年3月にWeFarm…を立ち上げて、現在140人ほどのメンバーと一緒に活動しています。一人で農業体験に飛び込むことにためらいを感じる人は、WeFarm…のような仲間と一緒に活動できる団体にアプローチする方法もあります。
郡司昂さん プロフィール
都市部の生産者と共に「縁農イベント」の企画やマルシェ出店、農業体験を行うコミュニティWeFarm…の運営や、フリーランスとして食品の流通業やweb販促を行っている。東京大学農学部在学中。
農コミュニティWeFarm…
FB https://www.facebook.com/WeFarm.creators/
Twitter https://twitter.com/WeFarm_Creators
ファームスティの体験がきっかけに
郡司さんが団体を立ち上げたきっかけは、千葉県の農家で体験したファームステイ。収穫や植え付け、出荷、梱包など野菜に関するさまざまな仕事を体験しました。都市近郊で農家と交流
WeFarm…では、農業・食・地域などに関心の高い学生や社会人が集まり、都市近郊での「縁農活動」、農家の食材を使った料理イベント、畑でのバーベキューなどを行い、農家との交流を行っています。農家からは人手が足りないときのほか、前年にWeFarm…のメンバーが体験した作業と同じ作業が生じたときなどに連絡があり、WeFarm…からは定期的に行うイベント開催のときに連絡をしています。縁農活動には対価は発生しませんが、お土産に野菜をもらったりすることはあるそうです。
縁農活動の延長線上に
口コミやイベントを通じて、WeFarm…が交流する農家の数も増え、東京23区内はもとより、三鷹、府中、八王子、調布、横浜などエリアも広がってきています。今後の目標を伺うと、活動の内容を広げることについて意欲を語ってくれました。楽しい体験から始まった活動が少しずつ大きくなり、やがては大きなビジネスにつながるかもしれない、そんなWeFarm…の活動にはますます注目が集まりそうです。
飛び込んでみることで得られるもの
小此木さん、井上さん、郡司さん、それぞれ立場は異なりますが、皆さんとても楽しそうにお話を聞かせてくれました。小此木さんと郡司さんは軽やかに農業の世界に飛び込み、現場でしかできないことを楽しんだり、知り合うことのなかった人とめぐり合っています。井上さんは自身の農園をオープンにすることで、農業を発信するとともに、地元を全国の人とつないでいます。このような取り組みにより、各地の農業の現場で、体験しに行く人と受け入れる人の交流が広がってきています。
ボラバイトや農村インターン、縁農活動に参加した人の中には、農業を志す人も現れるかもしれません。農業を体験したり、支えたりするにはいろいろな形がありますが、農業に興味があるのなら、自分に合う方法で現場に飛び込んでみませんか。