一見するとどれも同じように見える田植え機ですが、実はタイプや性能に大きな違いがあります。本記事では米農家に勤務する筆者が、田植え機を選ぶポイントや、中古価格・レンタル料金について紹介します。米作りに取り組みたい方はぜひ参考にしてみてください。
田植え機を選ぶときの3つのチェック項目
田植え機は一度に複数の条に苗を植え付けることができる農業機械で、乗用式と歩行式があります。なかには10条植えができる大型タイプなども。さまざまな種類の中から田植え機を選ぶ際のチェック項目について紹介します。1. 田んぼの大きさ
近年では50a~1ha以上の区画を標準とする大区画圃場整備が一般的ですが、今回はそれ以前の米農家の経営において標準区画だった30aを基準に、乗用式、または歩行式にするのかなど田植え機の選び方について紹介します。※1a=100平方メートル
30a以上
乗用式作業スピードが早い乗用式がおすすめです。植え付け条数は4条植え以上のものを選びます。条数が多ければ一度に多くの苗を植え付けられるので作業時間が短縮できます。
乗用式にのみ装着できる「枕地ならし」
田植え機は田んぼの中を何度も往復しながら苗を植え付けますが、方向を変えるときに田面が凸凹になってしまいます。そのままでは苗の植え付けができないので、田面を平らにしなければなりません。そこで活躍するのが「枕地ならし」です。「枕地ならし」があれば、レーキなどを使って手作業することなく、田植え機の走行と同時に田面を平らにできるので、作業時間を短縮できます。
30a以下
乗用式・歩行式田植え機の作業性から考えて、乗用式と歩行式のどちらも使用可能ですが、変形田んぼにおいては乗用式では狭い部分に苗を植え付けられないので、その場合は歩行式一択となります。
2. 予算
田植え機は単に安いという選択理由で選んでしまうと、せっかくの新車でも性能が低いものになってしまいます。その後の田植えにかかる作業時間が増加して、結果的にコストが高くつくことになります。予算から考えて新車を購入するのか、中古購入またはレンタルにするのかについて説明します。潤沢な予算
新車購入性能の良い最新の田植え機を選んで、作業効率を最大限に高めましょう。また、新車は故障しにくいことも魅力的なので、メンテナンスの面から考えてもお得です。
メーカーごとの田植え機(乗用式)の特徴
【ヤンマー】
高密度に播種し育てた苗を小さくかきとって田んぼに植え付ける「密苗」を導入した田植え機を販売しています。工業デザイナーの奥山清行氏が田植え機やトラクターをデザインしたことでも知られています。
【井関農機】
慣行栽培と比べて育苗箱の数が少なくて済む、「37株植標準装備」を推奨しています。また、特別モデルとして土壌センサーを搭載した田植え機や、直進アシストシステムを搭載したタイプも販売されています。
【クボタ】
圃場の管理や作業記録、作業指示などをスマートフォンを通してできるクラウドサービス「KUBOTA Smart Agri System(KSAS)」があります。このKSAS対応の機械を使えば食味や収量といった情報も共有できます。
【三菱マヒンドラ農機】
多くの田植省力化技術を他社に先駆けて開発してきたメーカーで、近年では枕地ならし装置「まくらっこ」や、苗の補充に便利な「苗スライダー」など、米作りの省力化に貢献しています。
【みのる産業】
苗箱から田植機までを連携させた「ポット成苗システム」が有名です。このポット苗システムで育苗した苗は、1ポット2~3株で4.5葉以上と大苗なので、病害虫に強く活着も早いことから水稲の有機栽培や無農薬栽培において特に注目されています。
低予算
中古購入・レンタル中古やレンタルは型落ちになりますが、1回転で2回植え付けられる作業効率の高いロータリー式の田植え機や、アタッチメントが搭載されるなど、価格の割に性能の良いものを購入・利用できます。
装着したいアタッチメント
【薬剤散布機】
粒剤や粉剤を手で振りかけたり、背負動力散布機を使って農薬を散布したりすることから考えると、このアタッチメントを装着することで作業時間を短縮しながら均一に散布できるので農薬の過剰散布を防げます。
※メーカーによって、除草剤散布機(液剤)、除草剤散布機(粒剤)、殺虫殺菌剤の散布機それぞれのアタッチメントが販売されています。
【側条施肥機】
田植えと同時に肥料を与えることで苗の生長促進効果が期待できます。苗に近い土の中に施肥することで肥料の量を少なくできるのでコストの削減にもつながります。
3. 育苗の方法
育苗した苗がマット式とポット式では使用する田植え機が異なります。マット式
マット式は育苗箱全体に種をまいて育てた苗で、種まきや苗の管理が楽なことが特徴です。しかし、田植えのときに苗をかき取るため根を痛めやすく、ポット式よりも苗の生長に時間がかかります。
▼マット式の育苗の方法ならこちらをご覧ください。
ポット式
ポット式はたくさんの凹みがある育苗箱に種をまきます。種まきや苗の管理に手間はかかりますが、マット式よりも収穫量が多いといわれています。また、マット式よりも苗の根を傷めにくく、根の量が多く茎も太く生長した苗の状態で田植えをするため、活着が早いことも特徴です。
中古?レンタル?新規就農者の田植え機の選び方
これから農業を始めようとしている新規就農者は、資金繰りが難しいという場合が多いものです。ここではJAでの中古購入やレンタルの田植え機について詳しく紹介します。
中古の田植え機
田植え機を所有すると、天気や育苗した苗の生育状態に合わせて、自身のタイミングで使用できることが大きなメリットです。しかも中古の田植え機とはいえ、新規就農者にとって十分満足のいく作業効率の良いデザイン性の高いものを手に入れることができます。しかし、田植えに使用した後は保管のため作業小屋のスペースを占領することになります。加えて整備代や修理代も発生します。稼働年数が多くなるほど故障する可能性が高くなることも覚えておきましょう。
課税対象
乗用式の田植機道路運送車両法で「農耕用小型特殊自動車」に分類されるので、公道走行の有無に関わらず軽自動車税の納付義務があります。
歩行式の田植え機
自動車ではないので軽自動車税ではなく、固定資産税(償却資産)の対象となります。
中古価格
メーカー | 仕様・型式 | 価格 |
井関農機 | 4条植え/PPZ4-SS | 200,000円 |
クボタ | 4条植え/EP4 | 350,000円 |
ヤンマー | 4条植え/VP40 | 840,000円 |
井関農機 | 7条植え/PZ70HGRF | 900,000円 |
中古購入先
お近くのJAの農機センターに連絡後、現品を確認してから購入します。参考:全農 農機事業 JAグループ中古農機WEB(現在試験的な情報提供のため、福島県・茨城県・栃木県・群馬県内のJA組合員に限定)(2020年6月15日に利用)
レンタル田植え機
初期費用の負担が少ないことが大きなメリットです。保管のために作業小屋のスペースを圧迫することもありません。一方で、レンタル日の天気が悪ければ田植えはできません。田植えの時期はずらせないので、苗の生長への影響を考えると、やはり使いたいタイミングで使えない可能性があるということは考えものです。また、貸し出される田植え機の台数は限られているので、レンタルした田植え機が作業効率の悪い古い型しかない場合もあります。
レンタル料金
メーカー | 仕様・型式 | 料金/日 | 移動料 | 洗浄料 |
イセキ | 4条植乗用 | 42,000円 | 5,000円 | 6,000円 |
6条植乗用施肥無 | 60,000円 | 5,000円 | 6,000円 |
燃料代や洗浄にかかる費用は利用者が負担しなければなりません。また、田植え機の運搬や洗浄ができない場合には別途請求されます。
注意!
乗用田植え機を道路で運転走行することは違法行為になります。
レンタル先
お近くのJAの「農機センター」に連絡し、農機レンタル利用申込書に必要事項を記入して申し込みます。レンタルは申し込み順となるので、できるだけ早めに予約しましょう。中古・レンタル以外に「シェア」という選択肢
農業機械メーカーが農機のシェアリングサービスを開始しています。農業機械の稼働している時期は限定的ですが、所有している農家さんでは使われないタイミングでも、別の農家さんではぜひ使わせてほしいという場合もあります。その両者を結び付けるサービスです。田植え機の購入資金の負担をできるだけ少なくしたい新規就農者にとっては、うれしいサービスといえます。
▼新規就農者にとって田植え機以外の農作業の時間短縮に欠かせない機械の種類のことならこちらをご覧ください。
初心者には中古かレンタルがおすすめ
現代の米作りには田植え機をはじめとした農業機械が欠かせません。新しい技術や機能が盛り込まれた田植え機は便利ですが、高価なため新規就農者が購入することは難しいでしょう。そのため、まずは中古やレンタルで使い始めるのがおすすめです。新車の田植え機を購入するのは米作りが軌道に乗って、目指す栽培方法や経営の方向性が明確になってからでも遅くはありません。それまでは中古やレンタルで自分の栽培スタイルにあった田植え機を試してみましょう。